『初恋 観覧車』 第七話   ―帰宅途中―


バスから降りたルキアは、もうすっかり癖になってしまった、暗い溜息を無意識のうちについてしまう。

織姫にああ言われたからといえ、のこのこ一護の家に戻る事は出来ず、
ルキアはとりあえず今日も浦原商店に宿を頼もうと決めていた。
一日中寝ていたお陰で、身体は軽く思考もはっきりしている。
しかし、心は複雑に絡まりどうにも落ち着かない。

ルキアの推測では、一護が好きなのは織姫だったはずだ。
しかしその織姫は一護に振られ、挙句、一護は自分の事を好きだと言っている。

そこら辺の事実関係の有無はともかく、一護が自分を好きになるはずもない。
焦りや混乱からだったとはいえ、あれだけ気遣ってくれた一護に対し、
自分はどれだけ礼儀知らずな事ばかり言ってしまったのか。

自分だったら、そんな理不尽で礼儀知らずな輩など絶対にごめんだ。
一体何を見て、織姫はそんな勘違いをしてしまったのだろうか。
幾ら考えても、全く思い当たる点はないーーーー

そんなとりとめのない思いに耽りながら歩いていたルキアは、すぐ側に近づくまで、全く気づいていなかった。

「・・・・・・・・よぉ。」

「ひぃっ!!!」

片手を顎に添え、もう片手をその手の膝に添え、思い悩んだ格好で視線を落とし俯きがちに歩いていたルキアは、
すぐ横から聞こえてきた声に驚き、脇に挟んでいた鞄を取り落とすまでに驚き鋭い声をあげた。
そしてその声に驚いた一護は思わず後ずさり、ルキアに向かって大声で怒鳴りつける。

「おまっ・・・・!なんて声出すんだ!こっちが驚くじゃねーか!!」

「な・・な・・・!い、一護!?なぜお前が、ここに居るのだ!?」

一護の抗議には全く取り合わず、ルキアは驚きに目を見開いたまま、裏返った声で叫びをあげた。
これに一護はやや決まり悪げに視線を伏せ、言い訳するように口の中で呟いた。

「・・・・・・・・・・用事が、あったんだよ。」

「用事?・・・・・浦原に、用事があったのか?」

「あぁ・・まぁ・・・でも、そっちの用事は済んだ。・・・お前は、身体、平気か?」

最後の方は視線をルキアへと戻し、一護はやはり気遣わしげな声で語りかける。
これにルキアはハッとしたように姿勢を正し、しどろもどろになってしまう。

「あ?あぁ・・・た、ただの寝不足でな。一日寝たらもう大丈夫だ。
・・・その、す、すまなかった!
折角気にかけてくれたのに、あのような事ばかり言い、色々迷惑をかけてしまって・・・」

やっと素直に謝罪の言葉を口にすると、ルキアは思い切りよく頭を下げた。
この様子に一護は微かに安堵のため息を吐き、それから一歩ルキアへと近づく。

「んなのどーでもいい。・・・んじゃ、いいんだな?」

「いい?・・・とは、何が?」

「だから、体調だよ。もう、動いても、平気なんだろう?」

「あぁ!もう平気だ。いつ虚が現われても、共に戦うことは出来る!」

「そうか・・・・。なら、良かったな。」

「・・・?一護。どうか、したのか?」

なんとなくいつもと違った様子の一護に、今度はルキアの方から一歩近づく。
すると一護はルキアの腕を突然掴み、少しだけ強引にひっぱりながら歩き出す。

「じゃあお前、俺にちょっと付き合え。」

「い、一護!?なんだ?どこへ行くのだ!?」



突然の事に喚くルキアとは正反対に、一護は無言のままで、明るい夕日の照らす道を騒々しく二人は歩き続けた。

 

 

 

 

 

 

 

移動中の電車の中で、だんまりを決め込んだ一護に引っ張り連れて来られた先は、あの大きな観覧車の前だった。
ルキアは大きく口を開き、ひどく無防備な様子で観覧車を見上げ呟く。

「・・・・こんなに、大きなものだったのか。」

「そうだな。あん時は結構離れてたし、大きさはこんなもんだろ?・・・・・おい。早く行こうぜ。」

「・・・・・どこに行くんだ?」

見上げた観覧車から視線を移し、きょとんとした様子で自分を見つめるルキアのとぼけた返答に、一護は少しだけ強い口調で叫ぶ。



「・・・あっのなー!見てるだけでどーすんだ!?お前、あれに乗りたいんだろ!?」

「!乗っても、良いのか!!!」

「ここまできて、見学で終わりなんて言わねーよ。・・・・・・・・・随分前に・・・約束、したろう?」

「!!」



この一護の言葉に、ルキアは無言で瞳を輝かせる。
それは、約束を果たせる喜びよりも、一護がその約束を、ちゃんと覚えていてくれた方の喜びが大きい。
ルキアは思いがけない幸運に、静かに胸を震わせる。
一護はルキアに背を向けると、ゆっくりとした歩調で歩き出しながら、気恥ずかしげにぼそぼそと呟いた。

「頼むから急いでくれ。・・・こんなトコ学校の連中に見つかったら、何言うのも面倒くせぇ。」

「う・・・うむ!わかった!急ぐぞ!!」

一護の気が変わらぬうちにと、ルキアは先になって駆け出した。
これに一護はぎょっとし、慌てたように、ルキアの後を追いかける。

「お、おい!だからってそんなに走るな!お前今日、倒れてんだぞ!?」

「急げ一護!乗り遅れるぞ!!」

「絶ってぇ遅れねぇって!あれはなぁ、ずーっと回ってるんだぞ!・・・・・っておい、ルキア!聞いてんのかよ!?」




自分の言葉が聞こえぬ様子の走るルキアの背中を眺め、一護はため息を吐き出し、
それから口の端を持ち上げ、困ったような笑顔を密やかに溢した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※私の家族サービス3日目。なんとか更新間に合いました!?昨日は、少し書こうと思いながらも、PCの前でうたた寝た・・・。
そして、来ました観覧車!次からやっと私から一護への誕生日プレゼントを贈ってあげれる予定です。
ちなみに最後のルキア駆け出しは、EDでの手繋ぎ追いかけイチルキをイメージしてみました。あれは、何度見ても萌えて良いEDですよね・・・!
2009.7.19

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