『初恋 観覧車』 第二話 ―浦原商店―
ルキアは浦原商店の店内にある畳スペースに上がりこみ、テッサイに出された麦茶を飲みながらひと心地つく。
今日も虚との戦いで、少々身体に疲れが残っているようだ。
しかも、慣れない現世での学生生活。テストも散々。
もうすぐ来る夏休みも、期末テストの結果次第では補習授業に出ねばならないらしい。
これからの事を思うと、自然とルキアの口から暗澹としたため息が出た。
が、しかしこれで参っている訳にもいかない。
自分はもちろんだが、それ以上に一護には多大な負担をかけている。
仕方がない状況であったとはいえ、人間の少年に死神として働いてもらっているのだ。
普段は不遜な物言いで一護へ激を飛ばすルキアも、本当は申し訳ない気持ちを常に抱いており、
一護の死神代行としての働きぶりに充分感謝していたのだ。
しかしこの口は開けば真逆の事しか言えず、それを簡単に認めることができない。
素直でない性格は生まれついてのもの。今更そこは、改善しようがない。
ならば別の方面から一護へ日頃の感謝を込め、もうすぐ来る誕生日に何か祝いの贈り物をしてやりたいと思い立ち、
ルキアは浦原の所へとやって来たのだ。
浦原はルキアのため息に気づき振り向くと、手にしたセンスをひらつかせた。
「あらら〜なんスか?朽木さん。そんな暗いため息なんてついたりして。そんなんじゃ、幸せが逃げていっちゃいますよ〜?」
「もとより幸せとは縁がない方でな。今更そう気にはならん。・・・そんな事より浦原。頼んでいた件だが・・・」
「あぁ!黒崎さんへのお誕生日のプレゼントですね。いやぁ〜羨ましい。朽木さんもスミにおけないッスねぇ。」
「そうではない。一方的に私が巻き込んだとはいえ、あ奴も死神として良く働いてくれている。
誕生日くらい、日頃の苦労を労うくらいしてやっても良いと思っただけだ。」
浦原の軽口に付き合う気のないルキアは、これに素っ気無く応じ、また浦原は、何かしら思惑がありそうな視線でルキアを見つめる。
「・・・・・一方的。ねぇ。黒崎さんは、そんな風には思ってないと思いますけど?」
「そんな事はどうでもいい。準備出来るのか?出来ないのか?この悪徳商人め!!」
「ずいぶんな言い方っすね・・・。それじゃあハッキリ言いましょう。今の予算じゃ、絶対無理です。」
「・・・・・やはり、そうか。」
浦原の答えにルキアはむぅと口を結び、困ったように顔をしかめた。
今のルキアは虚退治でのみ金を稼ぐ事ができ、それも一護の働きによるものだ。
しかも賞金がかかるような虚相手は、滅多にあるものではない。
何時ぞや一護が欲しいと呟いていた、現世の機械の取り寄せが可能かどうか聞きに来たのだが、どうやらアテが外れてしまった。
「虚退治は数多くこなしてますけど、どれも皆雑魚ばっかりですからね〜。どうにもお金が・・・」
「そうだな。それにこの身体にも、結構金がかかるものだしな。」
そう言ってルキアは腕を持ち上げ、またしてもため息を吐き出す。
その様子に浦原はセンスで口元を覆い、わざとらしく声を潜めルキアへと囁く。
「別にツケって事でお受けしてもいーんスけど、それよりあたし。
お金もかからぬ上に感動的な演出まで出来る、とてもいい事、思いついたんスけですけど。」
「いい事?それはなんだ?」
期待にぱっと瞳を輝かせたルキアに、浦原はにっこり微笑んだ。
「お金は一銭もかからず、感動的な演出の王道にて定番!
やはりここは朽木さんから黒崎さんへ、熱いキスの贈り物など宜しいんじゃないっすか〜?」
「・・・・・・・・邪魔したな、浦原。私はこれで失礼しよう。」
「冗談!冗談っすよ!!もう、朽木さんは頭が固いなぁ〜。そんなんじゃ、幸せと一緒に楽しさまで逃げていきますよ?」
「・・・・・・・・・・・・」
「そんな目で見ないでくださいよぉ。わかりました!ちゃんと言いますから〜。
・・・あのですね。朽木さんが、黒崎さんの為に、何かお作りすればいいんですよ。」
「作る?・・・わたしが・・・・・一護の為に?」
「そーっすよ!手作りすれば、朽木さんの作るどんなボロでも、世界にひとつしかないプレミア・レアに早変わり!
食べ物ならセンスも必要ないですし、なんてお手軽で素晴らしいシステムだとは思いませんか?」
「なぜ私が作ると、ボロ限定なのだ。」
「まぁまぁ・・・それは言葉のあやってことで・・・でも、どうです?
材料費くらいならそうかかりませんし、お作りするなら我が家の台所と料理の達人のアドバスつきで、格安でお貸ししますけど?」
「・・・・・・結局、金は取るのだな。」
「そこはそれ!なんせ、悪徳商人ですから〜」
ルキアの冷ややかな視線に負けず、浦原はセンスを扇ぎにこにこと微笑んでいる。
ルキアはしばし考える。
手作り・・・それは考えもしなかった選択肢だが、案外悪いものでもない。
何よりルキアの手元には資金がなく、借金を作るのは性に合わない。
ならば限られた材料費で、出来る限りの礼を尽くす形になる手作りにすべきだろう。
・・・一護はそれを、喜んでくれるだろうか?
ルキアがそう思うと、次の瞬間、一護のとても嬉しそうな顔が自然と浮かんだ。
『これお前が作ったのかよ!?すごいなお前。やるじゃねぇか!』
この想像にルキアはほんのりと頬を赤く染め、取り繕うように慌てて軽く咳払いをすると小さな声で呟く。
「か、金がないのだ。仕方あるまい・・・・・・それで、借りるとしよう。」
「それではこれで、商談成立ですね。毎度あり〜♪」
何を考えていたか一目瞭然のルキアを微笑ましく思い、浦原は優しい笑みを浮かべて楽しげに声を上げた。
※ルキア姐さんが、不必要に乙女です。乙女でやけに、ツンでデレです。ん?使い方間違ってないよね?ツンデレって・・・。(あやふや)
で、今思ったけど、浦原さんて一応罪人として尺魂界逃げ出した身の上だよね?よく普通に尺魂界の物取り揃えたり出来たもんだなぁ。
身分偽った?いや、でも名前は『浦原』のまんまだったしなぁ・・・とか、どーでもいいような疑問が、今頭の中を巡った。そして尺魂界。セキュリティ大穴w
2009.7.4
material by Sweety