それは一護が死神代行になって、間もなくの頃だった。
桜は完全に散り去った後の、空気に新緑や甘い花の香が含まれる春の夜。
自宅から少し遠方に現われた虚をつつがなく倒し、夜空を駆け走る帰路の途中、
一護の背に乗っていたルキアは、突然それを指差し大声で叫んだ。


「一護!あれはなんだ!!」

「だぁっ!人の耳元で、んなでっけー声出すんじゃねぇよ!!」

一護の抗議する声は聞こえぬように、ルキアは瞳を輝かせ、なおもそれを指差し、答えを急かして一護の肩を掴み揺さぶる。


「それより見よ!あの巨大な建造物は、一体なんだ!?」


「あぁ・・・?なんだ。観覧車じゃねぇか。」






『初恋 観覧車』 黒崎一護誕生祭2009


第一話 プロローグ






全く人の話を聞く気のないルキアの様子に足を止め、一護は呆れと諦めをもって彼女が懸命に指差す先を見つめ答えた。

「観覧車?観覧車とは、なんなのだ?なぜあのように回っている?」

「なんて言やいいんだ?あー・・・あれに乗って、高い所までゆっくり上がって下がるのを楽しむ乗り物なんだよ。」

「ほー。上がって下がるだけなのか?なんとも意味がないようにも思えるが・・・」

「意味ない事が、やけに面白かったりすんだろ。そんなもんだ。」

当然ながら尺魂界に観覧車などあるはずもなく、現世に赴任したばかりのルキアは見るもの全てが珍しい。
観覧車は闇の中キラキラと眩しいまでに輝き、気をつけてみないと動いているのかわからないまでにゆったりと回っている。
一護の言葉にルキアはやけに感心したように頷き、それから力をこめて一護へと叫ぶ。



「そうれもそうだな。・・・なぁ一護!乗ってみよう!!」

「はぁっ!?なんでそうなんだよ?」

「百聞は一見にしかず!この無意味な乗り物の感想は、とりあえず乗ってみてからだ!」

「おいおい、待てって!まさか、今乗りたいのか!?」

「貴様は死神化しているから人に見つかる心配はないし、私もこの義骸をどこかに隠し、死神になってから勝手に乗り込めば問題あるまい。
・・・ただしその場合、私を襲う虚がまた現われるやもしれぬ。その時は一護。頼んだぞ!」



このとんでもない提案に、一護は首を捻って背中のルキアを睨み付けながら大声で怒鳴りつけた。

「問題あるって!俺はこれから帰って、勉強してーんだよ!!」

「少しくらい、良いではないか。誰にも見咎められる事がなく、金がかかるものでもない。」

「あーのーなぁ!明日テストなんだぞ!
そーでなくても死神代行とやらのせいで、充分に勉強もできねぇ環境なんだし、俺のいうこともたまには聞けよ!」


一護の至極当然な言い分に、ルキアは納得はいきかねているような、かなり不承不承な様子でしぶしぶ頷く。

「そうか・・・明日にはテストがあったな。・・・仕方がない。今宵はあきらめてやるか。」

「・・・・・なんだ、その上からの言い草は。」

「しかし一護!私はあれに乗ってみたいぞ!後で必ず連れて来い!」

「だから!その上から目線はなんだ!・・・ったく。わかったよ。その内・・・・・いつかな。」

「うむ!約束だ!!」


一旦しおらしくうな垂れたルキアは、しかしすぐに復活すると、元気に一護へと命を下す。
全く乗り気のない一護の適当な返事に、ルキアはとても嬉しそうに無邪気に笑った。





そして時間は流れ、季節は雨を乗り越え夏の風を誘ってくるが、あの夜の二人の約束は、未だに果たされないままであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※今月はサイト開設一周年!無駄にやる気満々宣言!一護誕生日連載<全十話予定>開始!更新率は高いです。今月中には必ず終わらせます。
そして今月頑張ったらサイト更新はかなりのんびりモードに切り替えますので、休みに入る前の一仕事!そんな感じでどうぞ宜しく。
当初一護誕生日はネタもなく、スルーする気満々でした。
しかし、この背景の観覧車の美しさに、一護とルキアが一緒に乗ったら・・・という妄想から生まれたお話です。
この画像の観覧車・・・すっごく綺麗なんだけど、字が重なると読みにくいのが難点(涙)
今回の設定は、一護が死神になりたてくらいの頃に迎えた誕生日で、原点回帰な意識すればするだけすれ違ってしまう二人。です。
そう、書いてて自分の作品『空蝉の夏』を思い出しました。意識してませんが、そんな二人も好きみたいです。
でも自分が読むとしたら、こんな焦らし展開は意識して苦手。私はなんて勝手なんだろうw 宜しければ最後まで、どうぞお付き合い下さいませ!
2009.7.1

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