『初恋 観覧車』 第三話   ―黒崎家〜浦原商店―



「おい!こんな時間に、どこ行くんだよ!」

「・・・・・い・・一護・・・!」

一護に呼び止められ、窓から外に出ようとしたルキアはびくりと肩を震わせ慌てて振り向いた。
後ろには一護がいつも以上に不機嫌な様子で仁王立ち、厳しくルキアを見下ろしている。
そうでなくても、最近の一護の機嫌は悪い。

ルキアは内心狼狽しつつ、顔だけはなんとか無表情を装う。

まさか今夜、虚が出るなんて。
明日には一護の誕生日で、今夜の内になんとか手作りケーキを完成させねばならなかったのに。
ルキアは咄嗟にうまい言い訳が思いつかず、内心弱りきりながら俯いた。

時間はもう夜の10時を過ぎている。
今から浦原の家に行ってケーキを焼き、デコレーションまで完成させるとなると、自分の腕では朝までかかると予想し、
ルキアは一旦押入れに戻ると、制服や教科書を手にこっそり一護の部屋から出ようとしたところだった。
うまい具合に一護は風呂に行き、すぐ出れれば問題なかったのだが、
ケーキの飾りつけに使おうと、今日買った可愛いウサギのマジパンを探し回り、
挙句、多くの荷物に窓から出るのに手間取っている内に、こうして見つかってしまった。

ケーキの事は、絶対に言えない。
明日、一護が驚き喜ぶ様が見たいのだ。
ルキアは一瞬だけ唇を噛み、それからいつも通りの不遜な態度で一護を見上げた。

「・・・・・なんだ一護?今夜の仕事は終わったであろう?
後は各自の自由な時間だ。私も好きにさせてもらうぞ。」

「だから!なんでこんな時間に、そんな荷物持って出て行くんだって聞いてんだ!!」

「そう大きな声を出すな。妹君に聞こえてしまうであろう。
・・・今日は、浦原の所に泊まる。だから明日の準備を持っていくのだ。」

「・・・・・!お、お前最近、ずーっと浦原さんの所に行ってんだろ!?何がそんなに用事があるんだ!」

「だから!少し声を抑えろ!!・・・・それに、お前には・・・関係のないことだ・・・」

「・・・・・関係・・・ないだと・・・・・?」

激しい一護からの詰問に、ルキアは思ってもいない『売り言葉』を吐き出した。
心の中で、「しまった!」と声が聞こえたがルキアの口は止まる事が出来ず、
ルキアはなんだかひどく泣きたい気持ちになりながら、それでも力一杯一護に向かって叫んでしまう。

「そ、そうだ!私のぷらいべーとな時間まで、貴様に伺いをたてる必要などないであろう?関係ないことだ!!」

「・・・・・そうかよ・・・そうか・・・・・よく、わかった。」

「・・・・・」

自分から言い出したはずなのに、一護の唸るような声の低さにルキアは内心穏やかではない。
しかし、あんな事を言ってしまった手前、どうフォローすべきかも思いつかず、ルキアは気まずげに視線を逸らして黙り込む。
そしてそんな態度のルキアに、自分に対する強い拒絶を感じ、カッとなった一護の口からも『買い言葉』が飛び出した。

「だったら・・・だったらお前は、もうこっから出て行け!
虚だったら俺一人で倒してやる!
お前は力が戻るまで浦原さんトコでやっかいになれ!
俺だって・・・・・俺だってお前の世話なんか、もうウンザリなんだよ!!!」

「!!・・・・・いち」

この一護の言葉にルキアはハッとして何か言いかけたが、
一護はルキアを抱え上げると有無を言わさず窓の外へと放り出し、その目の前でバシッ!と窓を閉める。
その直後、一護の部屋の扉が開き、二人の妹が目をこすりながら立っている。

「ちょっと〜なに〜?お兄ちゃん、うるさいよぉ。」

「・・・・・悪りぃ。なんでもねぇよ・・・・・猫が・・・騒いでたんだ。」

「猫〜?それよりよっぽど、一兄の方がうるさいよ!」

「悪かった。・・・猫はもう・・・追っ払った・・・・・俺も、もう寝るから・・・」


一護はそう言うと、何も言えずに窓を見つめるルキアの目の前で、カーテンをも一気に閉めた。

 

 

 

 

 

「遅かったっすね〜朽木さん。あたしはもう、寝ようかと思ってましたけど。」

「・・・・・すまぬな。出る時一護に見つかって・・・少し、もめてしまったよ。」

「大丈夫ですか?具合悪そうに見えますが?」

「いや・・・大丈夫だ。・・・ただ、もう作っても・・・意味がないかもしれんがな。」

「黒崎さんと、喧嘩、しちゃったんですね?」

「喧嘩か・・・どうであろう。出て行けと、言われたよ。」

「どうしてですか?」

「私がこんな時間に家を出て行く・・・その理由が・・・・・言えなかったから。」

「・・・・・なぁるほど。そーゆーことですか。」

浦原は一瞬頭を巡らせると、やけに深く頷きを繰り返す。


一護の驚く顔が見たくて、内緒にしていた手作りケーキ。
でもそれが原因で、このような事態に発展しては、とんだ本末転倒であろう。
それでも、ルキアは言いたくなかった。
少なくとも、自分の口からそれを告げる事だけは出来なかった。
それは照れでもあり、意地でもある。


『所用があるのだ。・・・明日を、楽しみに待っておれ。』
あの時、そう言う事が出来れば、一護の態度も違ったものであったはずなのに。
どちらにしても、結局はこの性格が余計な災難を招いてしまったようだ。
ルキアは俯いたまま、力なく小さな声で呟く。

「すまんな浦原。折角、協力してくれたのに。・・・・最後の最後に、必要なくなってしまったようだ。」

「いえ!ここは最後まで作りましょう!!」

「だが・・・・・」

「もう料金は受け取ってありますし、テッサイも台所で待ってますよ?
折角ここまで頑張ったんです。とりあえず、最後まで作ってみましょうよ。
万が一黒崎さんがいらないって言うのであれば、後は僕らで頂きましょう。
そうなったら、ケーキは浦原商店の為に作ってくれたってことで、料金は全額お返ししますよ。
・・・ね?朽木さん。悪い話じゃ、ないでしょう?」

「浦原・・・・・」

優しい浦原の励ましに、ルキアの力ない瞳に僅かに灯火が宿ったようだ。
そんな様子のルキアに、もう一押しとばかりに浦原は微笑みかける。

「黒崎さんも、悪気があってのことじゃないですよ。
あなたの事を心配してだったんですから。
だから、せめてこのケーキだけは、彼の為に作ってあげましょうよ。
これを渡して、仲直りだって出来るかもしれませんしね?」

「・・・・・そう・・だな。・・・そうで、あるな・・・・・」

「さぁさ!話が決まれば、後は急いで!テッサイもずーっとお待たせしてますからね。」

「うむ・・・・・」

幾分やる気を取り戻したルキアは、その場に荷物を投げ出し、足早に台所へと向かっていく。
浦原はその背を眺め、やれやれとばかりに長く息を吐き出した。

「青いなぁ。黒崎さん。心配なのはわかりますが、これじゃ逆効果ですよ。
特に朽木さんなんて、超に激がつく鈍感さんなんですからね。
・・・まぁでもこれであたしは、もうひと儲けできるかもしれませんけどね?」



そう呟いた浦原の顔は、先程までルキアに見せた顔とは違う笑顔で、楽しげにセンスをひらひらと振り続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※2日おきに更新は、思った以上に忙しい・・・など、連載3回目にして、もうアップアップな感じがします。
そしてルキアさん、今回かなりの意地っ張りキャラになっております。こんなのルキアじゃない!とお叱りくださらないでください。
ルキアに意地を張ってもらわないと、話が転がらない大人の事情ならぬ、作者の事情(都合)。
そしてまた思った事が。初期の死神システム設定で、ルキアがこんな風に一護の側、離れる訳がないよ。
だって一護、一人で死神化できねぇし・・・。そこも、事情・・・ってことで・・・あえて、突っ込まないでください(私の世界にコンはいない・・・)
2009.7.7

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