ドオオオオオオオォォォ・・・・・・・・・ン


『あはははははははっ!汚らしいゴミ虫共めっ!高貴なる魂を傷つけた報いを受けよ!!!』


辺りに響く轟音は、己の攻撃威力の強力さを現しており、それを気に入った虚はひどく愉快そうに高笑いをあげ続けた。
虚の放ったエネルギーに焼かれ、目の前は激しい炎と噴煙が巻き起こり視界を悪くしていた。
しかし虚は気にする風でもなく、いつまでも笑う事を止めずにいる。

しかしその瞬間、虚より高く力強い咆哮が辺りを引き裂き轟く。






『 未来 の 約束 』 第2話





「・・・・・おらあああああああああああああああっ!!!」


ズシャッ!


『グギャアアアアアアアアアアッ!!!!!!』


目くらましになっていた爆風に舞い上がった砂塵の中から虚へと飛び掛り、
完全に力を取り戻した一護からの渾身の一撃に、虚の体はあっけなく切り裂かれ一瞬にして塵に変わった。

激しい爆音がした瞬間、見えない枷が外され自由に動ける体と漲る力を感じた一護は、
絶好の好機に虚にも気づかれぬ程瞬時に己を縛る触手を振り落とし、
迷い無く虚へと飛び掛ると一刀両断のもとに虚を切り捨てることができた。

しかし、一護はやっとの勝利にも喜べず、しばし肩で荒く息を上げながら、その場にただ立ち尽くす。

一護の心にあるのはただひとつ。
自分の前に飛び出した、ルキアはどうなってしまったのか。
自分が無傷であるということは、ルキアが攻撃を受け止めてくれたからだ。
そのルキアが攻撃の前に立ち塞がりながら、こちらを僅かに振り向き手にした袖白雪を一護の方へと投げつけた瞬間、
一護は見えない束縛から解放され力を取り戻す事が出来た。

ルキアの安否を気にかけながらも、嫌な予感に一護の体はどうしてもその場から動こうとはしない。
戦闘のダメージではない不安に、一護は立っているだけで眩暈を起こしてしまいそうになる。

ルキア。
ルキア。

やっと虚を倒したのに、お前はどうして何も言ってくれないんだ。
どうしていつものように、「やったな一護!」と言いながら、俺の傍に駆け寄ってくれないんだ。

それから先程の場面が、鮮明に一護の脳裏に浮かび上がる。
死を予感させる悪しき光の前に飛び出たルキアの横顔。
やけにはっきりと見えた、ルキアの瞳に宿った覚悟。


それは、『死』さえも受け入れる事をもいとわぬ、ゆるぎない強き輝き。


その恐ろしさに一護は固く瞳を閉じると、否定するようにぶんぶんを頭を振った。
しかし不安で心臓は痛いまでに早く鳴り響き、今にも破裂してしまいそうだ。

大丈夫。
ルキアはきっと、大丈夫だ。
きっとあの衝撃を間近に受けた事に耐え切れず、また短く気を失ったに違いない。
早く駆け寄り、俺が助け起こしてやらなければ。

そう思いながらも、一護の体は緊張に強張りすぐには動けそうに無く、嫌な冷や汗に体が震えだす始末。
それでもなんとか覚悟を決めると、
一護はやっとひどくぎこちない動作で、恐る恐る後ろを振り返った。


「・・・・・っ!!!!!」


しかし、振り返り目にした風景のあまりの衝撃に、一護は息を呑んで唖然と目見開き、
それから切れ切れになりながら搾り出すようにルキアの名を呼ぶ。

・・・・・・・・ル・・キ・・・・ア・・・・・・?」


その一護の呼び声に、ルキアは全く反応をしなかった。
するはずも、ないような状態だった。


そこで一護が見たものは、横たわったままぴくりとも動かぬルキアの体。

全身を黒く焼け焦げさせ、ゆらゆらと煙があがっているルキアの姿。


それは、自分を庇い倒れた、あの時の母親の姿と重なった。


「・・・っ!」

重なった瞬間、一護の体からは完全に力が抜け落ち、
その場にがっくりと膝を落とすと、一護は呆然とルキアを見つめる。
戦う力は得たものの、このようなルキアを救う力はない自分。
決して見たくはなかった無残なルキアの姿に、己の無力さに打ちのめされた一護の口からは意味のない呻きが漏れた。


「・・・・う・・・・・・あっ・・・・・・・・・あ・・・・・・・・あ・・・」


ルキア。

お前の名を呼びたいのに、絶望で声が出ない。


ルキア。

お前に駆け寄り抱き締めたいのに、恐ろしくて動けない。


ルキア。

どうしてお前は、俺を庇った?
どうして、お前がこんな目に合っているんだ?


・・・・・俺が、弱いから?


俺がお前を、こんな風にしてしまったんだな?


俺の、俺なんかのせいで、こんな・・・こんな・・・・・・・・・!

 

 

 

「あ・・・・・・あ・・・あ・・あ・・・・・



うああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!」

 

 

 

そう思った瞬間、一護はその重責に耐え切れず、泣くよりも激しく自分の中から全てを吐き出そうと天を仰ぎ絶叫を繰り返す。
この時の一護に残った感情は、ルキアをこんな風にした虚への怒りより、護ってやれなかった自分への失望しかない。



頭の中では過去の母親と現在のルキアの姿がもの凄い勢いでフラッシュバックし、それだけでも一護は正気を失いそうになる。



やめてくれ。


やめてくれよ。


母親だけでも、充分だろう?


もう、奪わないでくれ。






頼むから、本当に頼むから、もう俺から大事な人を、誰も取り上げたりしないでくれよ。












一護の誰にあてたものでもない悲痛なる深い絶望の嘆きと悲しみの祈りの心砕くような慟哭は、
暗い闇夜を切り裂き、いつまでもいつまでも止むことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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※2010.2.2

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