『 真紅の絆 』 第九話


「なんなのよアイツ!どうして、どうして・・・!ここに死神なんかがやって来たの!?」

記憶を奪った一護を置き去りに、三人は無事に小屋へと戻り帰ったが、
皆の記憶から消したはずのルキアを追って来た死神の存在に、姉は苛だしげに強く爪を噛んだ。

「おかしいよ!完全に名前は封じたのに!この子の事は、皆、皆忘れたはずなのに・・・!」

「少し落ち着きなよ、姉さん。
何故あの死神が覚えていたかはわからないけど、今記憶がないなら、もう問題はないじゃないか。」

「・・・・・」

息巻きながら部屋の中を歩き回る姉に対し、弟は安心させようと声をかける。
ルキアはそんな二人から視線を逸らすと部屋の隅にひっそりと座り込み、僅かに開いた隙間に見える雨粒を寂しげに眺めていた。

胸にあるのは、先程会ったあの死神。

記憶もなく、冷たい雨に濡れ、どれほど心細い思いをしているのだろうか。
それも、私に関わったせいなのだ。
ルキアは言い知れぬ悲しみに胸を詰まらせ、一人静かに雨を見つめる。

また忙しなく小屋を歩き回っていた朝は唐突に立ち止まると、一護の名を奪った己の手のひらを見つめ、少しだけ眉をひそめ呟いた。

「それにしても、あいつ・・・・・・普通の死神じゃ、ないみたい。」

この呟きに夜も驚き反応し、すかさず朝の方へと歩み寄る。

「普通の死神じゃない?姉さん。それは、どーゆーことなの?」

「それが・・・あたしにも、よくわからないんだけど・・・・
名を封じる時、少しだけ、妙な違和感があったのよ・・・・・」

神妙な顔で手を開いたり握ったりしている姉の様子に、
弟は小さな不安を感じ、持っていた鎌を握り直し外へと視線を向けた。

「あのままにしておいて、大丈夫だったかな?
念の為、この鎌で斬ってきた方がいいのかもしれない・・・」

「そうね・・・・・ううん。たぶん平気、でしょ。
違和感はあったけど、ちゃんとあいつの名前は封じたし、間違いなく記憶もなくしたもの。」

「そうかな?それなら、いいけれど・・・・・・・・」

それでも尚不安げな弟の肩を叩き、今度は姉が元気付けるように明るく笑い飛ばしてみせる。

「最近力を使い過ぎてたからね、少し疲れがでたのかもしれない。
でも、心配ないよ!もうすぐ全てが終わるもの。
あいつだけじゃない。明日には死神なんて、全員いなくなっちゃうんだから!」

「そうだね。姉さん。もう、明日なんだね。」

ぼんやりと二人の会話を聞き流していたルキアは、これに小さく息を呑み、弾けた様に振り返る。

そうだ。この二人は、死神を全て殺すと言っていた。
なぜ、そんな恐ろしい事を計画しているのか。
なぜ、それ程までに死神を憎んでいるのか。
そして私は、本当は何をしていたのか。

どんどん湧き上がる疑問と不安に、ルキアは堪らず立ち上がると、逸る心のままに二人に向って叫ぶ。


「朝!夜!そろそろ本当の事を話してくれ!
お前達の目的はなんだ?
どうしてそこまで死神を憎むのだ?
明日、何をしようとしている?

私は・・・私は不安なのだ!
記憶もなく、私の知らぬところで色々な事が起きている!
あの死神の事も本当にわからない!

頼む!ほんの少しで良いのだ・・・私に真実を、話してくれ・・・!!」


「・・・・・・・!」


ルキアの問いかけに、今度は二人が息を呑み気まずげに顔を伏せて黙り込む。
完全なる静寂の中、雨音だけがやけにはっきりと小屋の中に響いていた。

しばしの沈黙の後、二人は同時に顔を見合わせ視線だけで互いの意志を確認し、
姉は小さく息を吐きだすと、決然と顔を上げ、強い瞳で真っ直ぐにルキアを見つめ静かに口を開く。


「そう・・・ね。ごめんね、ささめ。不安にさせてしまって・・・
わかった。真実を、教えてあげる。
・・・でも、約束して。何を聞いても、あたし達と一緒にいるって・・・約束、してくれる?」


「あ、ああ。わかった。約束しよう。お前達と、一緒にいる。」


「本当ね?絶対に、約束よ・・・・・」


それでも朝は決心がつかないらしく、惑うように視線を泳がせ、胸の前で固く両手を組み合わせる。
また雨の音だけが響く小屋の中、朝は小さな声を震わせやっと語りだした。


「あなたにだから、言うけれど・・・・・私達、ただの魂魄なんかじゃ・・・ないのよ・・・」


「魂魄ではない?魂魄ではないとは、どういう意味なのだ?
本当はお前達は・・・死神だった、ということなのか?」


尺魂界に流れてくる流魂街の魂魄は、大きく分類すれば二種類に分別できる。
それは霊力のある魂、霊力のない魂。
滅多にない霊力に優れた魂のほとんどは、死神を目指し真央霊術院で学ぶものだが、必ず全員が死神になる訳でもない。
二人がただの魂魄などとは、溢れる魔力にルキアは元より思ってなどいなかったのだが、これに朝はふるふると横に顔を振り、悲しげに視線を落とす。


「そのままの意味よ。魂魄じゃない。だからと言って、死神でもないし・・・・・・・虚、でもない。」

「虚!?」


思いがけない朝の言葉に、ルキアはひどいショックを受けた。

虚。
それは『悪霊』や『怪物』と呼ばれる、災いをもたらす負なる魂。

もちろん二人がそんなものであるはずはないと思っているが、なぜ今虚の名がわざわざ朝の口から出たものか、
言い知れぬ不安が色濃い影になり、ルキアの胸を黒く潰す。
そんなルキアの様子に朝は自嘲的な笑みを浮かべた。


「・・・・・ううん。
本当は、そのどちらでもあって・・・どちらでもないの。

・・・・・私達は、存在する事も許されない、異形の存在・・・・・・」


「異形の・・・・・存在?」


「姉さん・・・・・・・・・」


ひどく苦しげな様子で話す姉を労わり、弟はそっと姉の側に寄り添い肩に手を置く。
それに気づいた朝はその手に自らの手を重ね、心優しい弟を見上げ微笑んだ。
一呼吸置いた後、落ち着きルキアへと視線を移す。



「私達は・・・私達はこの世界に唯一存在する、虚と死神の間に出来た存在なのよ・・・・・」



「!!」



あまりの衝撃に思わず叫びそうになったルキアは、大きく瞳を見開き両手で口元を覆い隠す。


虚と死神の子?

そんな事は聞いた事もない。

そのような者が、本当に存在するというのか?



そしてその存在すら怪しい者が、目の前の二人だというのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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※こんな時期に、お休みしていた連載の第二部スタートー!!
いや。連載途中で放棄しませんよー!との意思表示をする為に、ちょいっとスランプながら無理矢理更新してみました。(それはいいのか?)
・・・あの、本気でぶっちゃければ、この話で広げた風呂敷の畳み方が、わからなくなって・・き・・た・・・・!
やっぱ設定をおざなりに、ただの思いつきで連載なんてスタートするもんじゃねーなーと身に染みて実感。
など、今年最後に泣き言言っても仕様がないので、どうにか最後まで持っていけるように来年も頑張ります〜☆
2009.12.20

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