『 真紅の絆 』 第十話


存在することが、許されぬ異形の存在。

生まれながらに、忌とまれるべき宿命なる者。


彼らは、虚と死神の子。



聞いた事もない存在に、信じられない思いで二人を凝視するルキアの視線を受け、姉弟は顔を伏せ傷ついたように身を寄せ合う。
それは寒さに身を寄せ合う濡れた小動物のようであり、そんな二人の様子にルキアはすぐに衝撃から我に返った。

このように特殊な自分達の身の上を明かすという事は、それだけ二人は自分を信頼してくれてのことなのに。
それなのに自分は無遠慮に眺め、二人を傷つけてしまったのだ。
二人は自分にとって育ての親であり、家族のような存在。
二人の愛情を裏切るようなマネは、なにがあっても、決してすべきではないのだ。

ルキアは固く瞳を閉じて逸る鼓動を抑えようと、ゆっくりと息を吸い込み吐き出す。
そうやって何度か呼吸し、自分を落ち着かせると、もう一度瞳を開きまっすぐに二人を見つめる。
しかし二人はまだ何か恐れているように、怯えた目つきでルキアをただ見つめていた。
その視線を受け止めると、ルキアは安心させるように淡い笑みを浮かべ、それから二人に向って深々と頭を下げた。

「すまない。虚と死神の間に子が成せるなど、聞いた事がなかったので、とても驚いてしまった。
またその驚きに、無意識にお前達を奇異なものを見る目で見やってしまったようだ。
本当に悪気はなかったのだが、それでお前達を傷つけてしまった事には変わりがない。
無礼なマネをしてしまいすまない。・・・どうか、許して欲しい。」

「ううん。いいの。
仕方がないよ。実際、あたし達ってすごくおかしな存在だもの。
貴方が驚くのも、無理ないよ・・・・・」

「朝・・・・・」

自分の非礼を素直に詫びてくれたルキアへと、朝も伏せていた視線を上げるとにっこり微笑んだ。

「・・・本当はこんな言い方嫌なんだけど、どちらかと言えばあたし達、変異した虚って思った方が近いかもしれない。
虚が死神にとり憑き、その力を吸い分離し生まれたたのが・・・・・あたし達なんだから。」

「・・・・・・・・・・!」

自らを変異した虚と称するなど、どのような気持ちなのか。
それは、どれ程恐ろしく絶望的なものなのか。
そしてその全てを曝け出す勇気を心の中で称えながら、ふと心に浮かんだ疑問を口にした。

「お前達は、どうしてそんな事を知っている?
お前達も、幼き頃誰かに育ててもらったのか?
そしてその人に、自分達の生い立ちを教えてもらったのだろうか?」

この姉弟は、出生の秘密を知る者にでも育ててもらったはずだ。
そうでなければ、こんなにも詳細に自分達の素性を知る術はないはずだから。
そしてその人物を見つけ出さば、もっと二人について知るべき真実が見えてくるかもしれない・・・

そんな期待に胸膨らませたルキアの思いは、寂しげな表情で小さく顔を横に振る朝の思ってもいなかった言葉に打ち砕かれる。

「そうじゃないよ。
あたし達は生まれてからずっと、貴方に会うまで二人きりで生きてきた。
なのにどうして自分達の生まれた秘密を知っているかと言うと、あたしには特殊能力があってね。

あたしには・・・あたし達が生まれる前からの『記憶』があるの。」

「!!生まれる前からの・・・記憶、だと?」

「そうよ。その虚の特殊能力みたいで、私は『記憶』を司り、
成長し力を得て『名前』で『記憶』を操ることも出来るようになったんだ。
そして弟の方は、この鎌を自在に操り『絆』を司る能力を持っていた。」

「・・・?この、鎌を?」

朝の呼びかけに、今まで黙って後ろに控えていた夜は手にした大鎌を持ち直し、ルキアの前に掲げて見せる。
確かに他では見たことがない、奇妙な形と質感をした鎌ではあるが、特にコレといった特質を見出せる訳でもなく、
ルキアは困惑したように鎌を携えた弟の顔を見つめた。
しかしその疑問に答えてくれたのは姉の方からで、自分もその鎌の柄を握り微笑を浮かべ刃先を僅かに撫でるマネをした。

「これが・・・あたし達の生みの親にあたる、虚を変化させた鎌なんだよ。」

「なっ!?こ、これが、この鎌が・・・虚、なのか?」

「そうだよ。これは僕らが長い年月かけて探し出した虚を変形させ、武器にしたんだ。
この鎌の能力はね『魂喰い』
こいつに斬られた魂は、虚に喰われその存在は生まれなかった事に、最初からこの世界に存在していなかった事になる。
その者が持って生まれた『絆』の全て切り取れる、とても恐ろしい能力だよ。」

「『記憶』と『絆』を!まさか・・そんな事が・・・!」

姉は『記憶』を。
弟は『絆』を。

それは人であれ死神であれ生きていく上で、自分以外の誰かと関わる上で必ず必要である形にはならないない大切な繋がり。
ある日突然、その全てが奪われたらどうなる?
誰も自分を知らず、完全な孤独の中一人きりで彷徨う事になる。
この二人が本気になれば、自分が生きた証など微塵も残らず消えてなくなってしまうのだ。

その能力の持つ恐ろしさにルキアが言葉を失っていると、
ルキアへと説明しているうちに鮮明に当時の記憶が甦った朝は、どんどん表情を曇らせた。

「でもね、あたし達のこの能力が完全に開花したの、つい最近の事なんだ。
この力が持てたから、やっとあたし達は、貴方の所に帰って来れた。
あの頃この力があったなら、あたし達を知る全ての者から記憶を奪い、静かに暮らす事ができたのに・・・
貴方とも、決して離れることなんかなかったのに・・・・・!!」

「姉さん。大丈夫だよ。落ち着いて。今の僕らは、あの頃とは違うんだから。
取り戻そう。僕らの時間を。
奴らに全て奪われたように、今度は僕らが死神から全て奪ってやればいい。
僕達には、もうそれだけの力があるじゃないか。」

「そう・・・ね。本当に、そうだわ。
今度はあたし達が・・・あたし達が、死神から全てを奪えばいいんだわ・・・・・!」

「・・・・・・」

思い出すだけで怒りに呻くように叫ぶ姉へと寄り添い、震える肩を慰めるように弟は優しく包む。
今もなお続く二人の死神に対する憎悪の強さにあてられたルキアは竦み、
体が震えださぬよう両手をぎゅっと固く握りしめているだけで精一杯だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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※苦しんだ!これは予想外に苦しい回になってしまったよ!
それというのも説明の為、姉と弟の能力設定をきちんとしなきゃならなくて、なんとなくの予想設定は出来ていたものの、
ちゃんと説明しなきゃならんというと、どう設定したらよいのか悩み、本気でひーひー言いながら書いてました。
でも映画での彼らは、虚の力を取り込んだ魂魄って事だから、私の予想設定もそれ程大間違いじゃなかったとご満悦だったりw
挙句、書いてく内にどんどん長くなってきたので、本当は載せようと思っていた半分の長さしか更新できず、後半分はまた今度。
しかし次は、一護のターンにしようかどうか迷い中。回が混ざると読みにくいかなどうかなぁ・・・・・
しかしこれで設定はできた!後はこの設定をうまく生かせる事ができるかどうかだけど・・・・・自信は、ないっ!!(言い切った・・・)
2010.1.21

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