その少年は線の細い端正な顔立ちに、細いながらも鋭い眼光を赤く光らせ、
月光の中映える銀の髪が一層強く輝きを放っていた。

「・・・そうか。そなたは『月の忌み子』であったのか。
 ならば、人買共に狙われるのも仕方のないことだ。」







『 月 の 忌み子 』





この世界の常識として『太陽は敬い』『月は畏怖』する対局の存在である。
なので、その色を宿した者もその通りの扱いを受けることになるのだが、太陽が明るく全て照らし出すように、
月は闇に沈んだ妖の光として恐れられ、同時に怪しい美しさに魅了されるのだ。

・・・・・

「どうした?そなた口が聞けぬのか?それともショックで声が出せぬのか?」

・・・・・

『月の忌み子』であるこの少年がいかにして生きてきたかわからぬが、
こうして人買から解放してくれた恩人であるはずの魔女から一時も目を離さず、赤い瞳が油断なく監視し続けている。
確かに現われた瞬間、二人の人間の首を目の前で刈り落したのだから警戒されて当然だろう。仕方のないことだがどうしたらいいものか。
魔女が思い悩んでいると、ふいにあの独特の匂いに気が付いた。
これは・・・血だ。血の匂いが少年から色濃く漂っている。
改めて少年を見ると、顔から下は大量の血で衣服がべったり濡れているではないか。魔女は慌てて少年の肩を掴む。

どうしたこの血は!どこか怪我しているのか!?早く手当せねば、この失血量では死んでしまうぞ!!」

「・・・・う・・よ」

「なんだ?話せるなら早く言え!一刻を争う事態なのだぞ!?」

「・・・これ、僕の血ぃとちゃうよ。さっきの奴の仲間三人、刺した殺した時の返り血や。」

「!!なっ・・・」

やっと聞けた少年の声に、今度は魔女が驚愕し言葉を失った。
驚いたのは少年一人で手練れの人買い三人も殺したことではない。その言葉使いだ。
古い文献で読んだことがある。独特の言い回しを使い、人ながらに高い魔力を有した一族の話を。
その一族は魔力で反乱される事を恐れた王により、理不尽に攻め落とされ滅亡されたと。

「そうや。僕は銀髪の『月の忌み子』で、滅ぼされた一族最後の『生き残り』や。」

己の不遇な宿命を嘲笑うがごとく少年は静かに微笑んだ。その笑みの穏やかさを見つめ、魔女はしばし思案した。
見た所少年は魔女よりも背が高くひどく大人びながらも僅かに幼さも感じさせる年頃でありそうだが
長くひどい環境にあったせいか話し方は冷徹な大人を思わせる。

確かに『月の忌み子』と『魔力一族の生き残り』ともなれば、神レベルの伝説と言っても過言でなく、
世界でただ一人の少年を奪い合い、国レベルの戦争が勃発してもおかしくはない。
確かに魔女も噂ぐらいは聞き及んでおいたが、まさか本当に存在するとは全く思っていなかった。

なのにその存在を噂程度で見事に隠し生活していたとは、生まれてから今までどれ程苦労していたものか。
大体の事情を察した魔女はふっと微笑み、安心させるように掴んでいた少年の肩を軽くに叩く。

「そうか。そなたは随分苦労してきたようだな。

 私はルキア。あの山の頂に住んでいる。

 『死神魔女』と呼ばれておるが、悪人以外殺しはせぬ。そなたの名は?」

「僕はギン。市丸ギンてゆうんよ。」

「ギンか。なかなか良い名ではないか。

 それではギン。早速だが私の弟子にならぬか?」

「死神魔女の弟子て?」

「そなたは大分賢いようだがまだ幼い部分もある。力ないままではまたすぐに捕まってしまうであろう?

 私の所で魔術を学び、一人前に成長したら、その足でお前の望む世界を見つければいい。それでどうだ?」


ずっと人を疑い逃げ回る生活をしていたギンを、ルキアは安心させるように微笑んだ。
月に照らし出されたその笑顔の眩しさに、胸奥に不思議な懐かしさを覚えギンは答える。


「・・・構わんけど僕みたいな厄介者抱え込んで、ルキアちゃんはええの?」

「厄介どころか良い助手が出来てありがたいくらいだ。

 それから私のことは、ルキアではなく師匠と呼ぶのだぞ。

 さて、話が決まれば立ち話はこの辺にしておこう。

 今のお前には早急に風呂と飯が必要であろう。

あぁ。だが少しだけ待ってくれ。」


ギンの背後に広がる暗い森にルキアは手を挙げ何事か呟くと、遠く三か所から青い炎が立ち上り消えた。
ギンが殺したと言う死体の処理を済ませると、
何もなに空間から厚手のマントを取り出し、
やせ細ったギンの体をしっかりと包みながらほうきへ跨らせ、

ギンを後ろへ座らせルキアの細すぎる腰に手を巻きつけさせた。

「山頂はまだ寒いからマントの前は締めて、落ちぬようしっかりと掴まれ。・・・では、行くぞ。」

「・・・ええよ。」


こうして少年ギンは、死神魔女のルキアに育てられることになった。

当然成長したギンが人間世界へ戻ることなく、魔女ルキアが驚愕するある『告白』をすることになるのだが、それはもう少しだけ先のお話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『SUN』>

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※ショートとはいえ、自分でもびっくりするくらい今回早く出来ました。
 続くとしたら裏になりますが読みたい人はまだいてくれますか。(そしていつ更新できるかな・・・)

 2018.8.11

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