藍染は見つめた。

己の胸に突き刺さった『神鎗』の刀身を。

その刃を向けてきたのは、自分の為に幼い頃より教育し育て上げた者。

それは、自分の手となる半身のような存在。

その者が振るった剣が、自分の胸を突き貫いている。



なんだ、これは?



さすがの藍染も、瞬時にこの状況が理解できなかった。







 罪 2







ジャアアアアアアア・・・・・・・



空気を切り裂き、蛇のように身をくねらせ伸びた刀身が戻っていく。



ズ・・・ッ



ブシャッ




それに伴い藍染の身体から刃が抜かれ、派手に鮮血が飛び散った。その後もボタボタと血は流れ続け、
背中に五の番号をつけた白羽織は見る間に血に染まっていく。



その様子を眺め、藍染はやっとこの状況を理解した。



「・・・ギン。きみのせいでずいぶんと汚れてしまったよ。」




藍染の呼びかけに、ギンは微動だにできぬまま放心したように呟いた。


「すんません。・・・手ぇ、滑りました。」


「ずいぶん、下手になったじゃないか。そんなことでは、私の右腕にはなれないよ。」


「すんません。藍染隊長。もっと、精進します。」


「・・・ふふっ。」





藍染は笑った。





ごぶっ






しかしその口からも、大量の血が溢れ流れた。




血の色が赤黒く、藍染の顔をも汚していく。



藍染はその圧倒的な攻撃力の強さに比例するように、傷を癒す治癒能力はほぼないも同然だった。

なので自分ではこの血を止める術を持たず、さすがの彼も危機的状況に陥っていることを認めざるをえなかった。



藍染の気力、霊圧がどんどん低下していく。

それはこの出来事が『完全催眠』ではないことを、大気の震えに肌で感じ取れた。

その様子を皆その場から動けず、凍りついたように見守っている。



「!!これは・・・一体、どうしたことじゃ!!」

「夜一さま・・・!!」



血まみれになっている藍染。呆然と立ち尽くすギン。



そこへ駆けつけた夜一と砕蜂は、異様な光景に目を疑った。
それでも二人は油断なく藍染を取り巻き、なんとか状況を理解しようと周囲を窺う。



「白哉!お主見ていたのであろう?!どういうことか説明せよ!!」


「・・・市丸が、藍染を討った。」
呼ばれ白哉は冷静に返答する。

もうルキアに危険がないと感じた白哉は、ルキアをそっと地面へ下ろし、
改め東仙へと刀を構えると鬼道を使って身体の自由を奪った。




藍染は口元を片手で覆い、膝を地面につけ何度か激しく咳き込んだ。
その姿は血にまみれ、背中を震わす様は憐れとしか言いようがない。



「藍染・・・もう観念するがよい。」


夜一、破蜂に囲まれ、藍染は弱々しげに微笑み、顔を上げた。
「やぁ、きみか。・・・ずいぶん、懐かしい顔じゃないか。」


藍染の言葉に夜一は悲しげに顔をしかめ、憐れみをこめて言う。
「藍染。なぜこのような大罪を犯した?・・・今からでもよい。思い改めてくれ。」



「それは・・・出来ないよ!」



「・・・!!夜一様!」



夜一の一瞬の同情からの隙に、藍染はありったけの気力と霊圧をこめて夜一へ刀を振るい、破蜂がその刃を防いだ。




そして二人から間合いをとると、震える手で煩わしげに眼鏡を払い落とし、懐にしまった崩玉を取り出した。



藍染の手にした崩玉に不穏な大気の流れが集まる。

「・・・全て!・・・全て、消え去るがいい!!」



ここまで霊力を削られてしまっては、同族と認めてもらえず時間になっても大虚からの迎えは来ない。


最早打つ手はなくなった。



ならば、全てを無に還すだけ。



藍染の目には最早狂気しか宿っておらず、自らの危険も省みず命を賭して、崩玉の力を解放するべく術を発動させようとした。






しかし





ガッ





ドッ





ズッ






破蜂と、夜一と、白哉の刀が、藍染の身体を三方向から貫いた。



藍染は虚ろな瞳で、自分を討った者達の顔を見回した。



「なんだい君達・・・邪魔、しないでくれないか?」



三人は無言で刀を引き抜き、藍染から数歩離れる。





ブッシャァ・・・!!






藍染の身体から、またかなりの量の血が流れ出た。






「・・・藍染、隊長。」





その様子をどこか他人事のように眺めていたギンの側に、誰かが近づく。


「・・・ギン。動かないで。」


乱菊はギンの首筋に刀を添えるも、最早ギンが抵抗する気力もないことをわかっていた。
乱菊は悲しみに耐えた瞳で、ギンの後姿を見上げ、それから藍染の様子を窺った。





藍染は己の血の雨を降り受けながら、崩玉を見上げる。





「・・・私が・・天に・・・・・立つ・・・」





うっとりと陶酔したように崩玉を掲げたまま、藍染はばたりと地に倒れ伏した。

 

 

 

それが、尺魂界を揺るがし、天を目指した男の、最期になった。






※2008.9.20

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