『 迷 彩 』 (現代パラレル 過去編2)

事の成り行き上、ギンを交えた飲み会は続行されていた。
ギンを除いた全員が複雑な表情をしていたが、ギンだけはいつも通り笑みを浮かべたままだ。


「・・・で、あんたがルキアのストーカーってことだろう?」
唐突に恋次が口を開き、やはり睨みつけるようにギンを見る。


「ストーカー?ずいぶん人聞き悪いなぁ。そんなんちゃうよ。僕は、ルキアちゃんにまめに連絡とってるだけやし。」

「ずいぶん一方的じゃねぇの?そーゆーの、ストーカーって言うんだぜ!」

テンションのあがる恋次に、ギンはやれやれと首をすくめた。
「世間の常識に、ずいぶん詳しいんやね?僕は自分のしたいようにしとるだけ。なーんも悪いこと、してへんつもりやけど?」

「ルキアは、迷惑してるんだ!!」


「だから、なに?それ位で、僕はやめる気ぃなんぞ、ないけどね?」


「・・・てめっ!!!」


不遜なギンの態度に恋次は痺れを切らし、またしても殴りかからんばかりの勢いでギンを睨む。


しかしそこで、ルキアの鋭い一喝が飛んだ。


「もうよい恋次!そこまでだ!!もうその件については、口を閉じよ!!!」


「で、でもよ、ルキア・・・!」

「もうよいと言っている!・・・この男には何を言っても無駄だ。自分の良いようにしか、決して動かん。
私はそれをもうわかっている。だからもう良い。こ奴に関わるとロクなことがない。だから諦めよ。」


「なんやの〜ルキアちゃん。ずいぶん冷たい言い方やん!僕傷ついたわ〜」

相変わらずの芝居がかった言い方に、ルキアは目を細め、軽蔑したように見つた。

「そうか、それは良かった。少しくらい傷をつくれ。私の方が倍以上、貴様に疲れた思いをさせられているのだしな。」

「相変わらずいけずやなぁ。ルキアちゃん。・・・でもそんなところも、可愛いなぁ。」


全く動じぬばかりか、恥ずかしい科白もさらりと口にするギンに、恋次は初めて表情を強張らせ、ルキアに向かって叫ぶ。
「ルキア・・・!こいつ本当にヤバいんじゃねぇの?!」
「・・・そんなこと、もうとっくに知っている。」


ルキアははぁと溜息をつき、吉良はそこでやっと口を挟む。
「先輩。本当に、朽木さんに迷惑かけるのはやめてください!僕の身にもなってくださいよ!」


「なんやのイヅル。まるで僕が悪者みたいな言い方やね?
僕はただルキアちゃんが好きやから、逃げられんようにイヅルを盾に使ってるだけなんよ?」


「そ、それをやめてください!!」

「えぇ〜?イヅルがダメなら何餌にして、ルキアちゃん釣ったらええの?」

「釣るな!」「釣らねばいいのだ!!!」「釣らないでくださいよ!」
自分の非を認めながら、それでも引かぬギンに対し恋次は怒り、ルキアは呆れ、イヅルは泣き声をあげた。



そんな中、雛森ひとり沈黙し、事の成り行きを静かに見守っていたが、皆の声が一斉に止んだ一瞬に溜息と共に言葉を漏らした。

「・・・すごいなぁ。市丸さん。すごく一生懸命で、本当に朽木さんが、好きなんですね。」



雛森の心から感心したような、一種の尊敬の念さえも感じられる毒のない一言に、誰もが言葉を失った。



そしてやはり一番にギンが大声で笑いだし、その笑い声に他の三人も我に返った。

「そうそう!そうやん!僕は、ルキアちゃんが大好きなだけなんや!!
さすがヒナちゃん!ええこと言うてくれた!!さすがイヅルや!ええ子見つけたなぁ。」



「?!!!か、かかかか関係ないこと、言わないでくださいよ!」

しかしこの発言には誰も食いつかず、イヅル一人顔を赤くしたまま置き去りにされてしまう。


「ひ、雛森殿。それは勘違いだ。こやつは私をからかい楽しんでいるだけで、私が好きなわけではない。」

「そうだ!本当にルキアが好きなら、こんな迷惑かけるような真似、出来るわけがねぇ!!!」

「えぇ〜?そうかなぁ?だってこんなに一生懸命なのに・・・」

「そうやそうや。僕かて気ぃのない子にこない時間かける程、暇とちゃうんよ?」


いつの間にかルキア・恋次組対、ギン・雛森組に分かれ応戦するようになっていた。


その中間で、吉良は沈黙を守ってやや拗ね気味に黙ってお酒を流し込む。
そんな感じで奇妙な盛り上がりをみせた飲み会は、まだまだ終わりそうもなかった。

 

 

 

皆店を出たのは、それから二時間後のことであった。
恋次とルキアと吉良の三人はぐったりと、雛森とギンは生き生きとした様子でいた。


「今日はすっごく楽しかったです!また、是非いらしてください。」
「僕も楽しかったわ。ヒナちゃんも、こない可愛ええ子やゆうのわかったしな。今日はええ日や。」
なぜか意気投合してしまった二人は微笑み合い、再会を約束して手を振った。


「それじゃあ皆!また次の機会にね。おやすみなさい。」
「あ・・じゃあ僕もここで。お疲れ様でした。」
雛森はそう声をかけると、手を振り駅へと急ぎだし、隣には吉良がつき添い、その横顔が嬉しそうに輝いて見えた。
ギンは後輩のささやかな幸せを目の当たりにし、知らず口元があがるのを感じる。

二人を見送ってから、ルキアも帰るそぶりをみせた。
「・・・では、私も帰るとしよう。恋次。貴様はどうするのだ?今日はタクシーで実家に帰るから、家に帰るなら送っていくぞ?」
ルキアの実家の近所に住んでいる恋次と、同乗して帰ることも多く、今夜もルキアは恋次を誘う。


「え?ルキアちゃん帰るん?まだ早いやん。もう少し飲みに行こう?」
「今夜のうちに兄様から家へ連絡が来る予定なのだ。貴様に付き合う時間はない。・・・どうする?恋次。」
「あ?・・・あぁ。俺は、いい。今からダチんとこ、行くから。」

「そうか。では、またな。」
「おう。気をつけろよ。」
「・・・ほな、またね。ルキアちゃん。」
ギン一人不服げに口を尖らせ、恋次とルキアはあっさりと別れの挨拶を交わし、ルキアは止めたタクシーへ乗り込んだ。


ルキアが去ってからギンと二人きりになった恋次は、少し言いづらそうに口篭りながら言葉をかける。

「・・・あんたさ、ルキアのこと、マジなのか?」
「大マジなつもりなんやけど、見ててわからへんかな〜?」

言われギンは心外だと言わんばかりに膨れてみせるが、先程と打って変わって恋次は静かに足元を見ている。



「・・・あいつは、ダメだ。」



恋次の声の真剣さに、ギンも表情を正し自然と恋次へと向き直る。



恋次は苦しげに顔を歪め、少しずつ言葉を紡ぐ。

「あいつは、28になるまで、誰とも付き合わない。・・・中学の時から、そう、決めてるんだ。」



ギンは言われた意味がわからず、素直な気持ちで問い返す。
「それ、どーゆー事なん?」



しかし恋次はギンの問いには答えず、苦しげに顔を伏せるだけだ。

「・・・だから、あいつをそっとしといてくれ。あいつの生活を、掻き乱すのはやめてくれ。」



恋次の真意は知れないが、この様子からしてずいぶん込み入った事情が絡んでいるらしい事は十分に推し量れた。
しかしギンはわざと軽口を叩き、恋次を揺さぶることにする。

「・・・ふーん。せやから君は、ルキアちゃんに何も言わんと、側におるだけなん?
その、28になるまで大人しゅう待ってるんや?中学からて?えらい忠犬ぶりやん。泣かせる話やわ〜」



「!!茶化すんじゃねぇ!お、俺は、俺達はそうやって今まで来たんだ。
・・・もうすぐ、もうすぐ28になる。それまで俺は、あいつの側で護ってきたんだ・・・!」


ギンにからかわれるような口調で言われ、恋次は叫ぶが、ギンは冷たく突き放す。



「そらおかしいわ。」



「・・・なんだと?」



「どんな理由で28までとか言いよるんか知らんけど、

ほんまにあの子が好きで、支えるつもりやったら、そないなルール、守ってたらあかん。

そないなこと守っとったら、あの子はいつまでたっても救われんよ。」




「ど、どーゆー意味だよ?!」



「これ以上、恋敵に塩送るほど僕はええ人ちゃうから言わんでおく。意味がわからへんのやら、それでええよ。」


そう言い捨て、ギンはゆっくりと恋次から背を向けようとした。なので恋次は慌てて声をかける。



「・・・おい!待てよ!!」



「僕は、本気や。」



呼ばれギンは鋭く叫ぶような一声を放ち、振り返りざま薄く見開いた目でしっかりと恋次を射抜く。



「君がえらい長い時間側におって見守ってたとしても、関係あらへん。だから、あの子は絶対渡さん。」



そう言ったギンは笑っておらず、僅かに垣間見れた眼光が鋭い光を宿している。

恋次はその迫力に押され、思わず唾を飲み込んだ。



しかし次の瞬間には、あの人を食った笑みが再び浮かび恋次に向かって手を振った。


「そしたら今夜は楽しかったわ〜。また、一緒に飲もうな。」



恋次は答えることも出来ず、遠ざかっていくギンの後姿を、黙って見送るだけだった。

 

 

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gin top

つ、ついに始めてしまった・・・!シリアス展開への扉を開けてしまった・・・(動揺)大丈夫か、私!本当にまとめられるのか、私?!
など、本気で不安ながらも続けていきます。現代パロ過去編!!いつも以上の強引無理矢理展開の香りがぷんぷんするものですが、
それでも構わない!好きに書いてごらんよ☆・・・と、ゆー皆様の暖かく広いお気持ちをいつも以上にお願いします!!
っつーか、今段階の構想でなんか結構長くなりそうです。・・・どこに流れ着くのかは、いまだ未定のお話。ああああああ・・・・(不安の叫び)
2008.9.30

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