『シド と 白昼夢』 (現代パラレル 過去編1)

話を聞き終わった途端、恋次は手にしたジョッキをテーブルへと叩きつけ叫んだ。


「吉良!なんなんだよそのヤローは!!!まるっきりルキアのストーカーじゃねぇか!!!」


「そ・・・そんなの、僕に言われても・・・」

「そうだよ阿散井くん!吉良くんが悪いわけじゃないんだから!ね、朽木さんもそう思うよね。」


「それは当然だ。なにも吉良殿が悪いわけではない。恋次!貴様はなぜ吉良殿を責める?!」


前回の飲み会から一ヵ月後、いつもの居酒屋にいつものメンバーが集まっていた。


皆、順じここ一ヶ月の忙しい仕事や生活の話をし、
そして話題はなぜかギンとルキアのことになり、ルキアは事の顛末を語るはめになってしまった。

今現在もルキアは、ギンからの猛アピールに生活が侵食されている状態だった。
ルキアは多少オブラートに包んで話したつもりではあったが、それでも聞いた者達は驚きで一瞬口が聞けない程であった。


それにルキアの幼馴染でもある、阿散井恋次が怒りに吠えた。

「だってそいつは吉良の会社の先輩なんだろう?!だったら、吉良がもっとそいつを抑えておけばいいんじゃねぇか?!」


「恋次・・・貴様は奴を知らんから、そんな事が言えるのだ。」

「・・・あの人を抑えることが出来る人がいるなら、僕だって会ってみたいよ。」

そして、ルキアと吉良は揃って深い溜息をつく。


その様子に、ギンを知らぬ恋次と雛森は思わず顔を見合わせた。



ギンと出会って一ヶ月。ルキアはギンに、生活も心も掻き乱され続けていた。

電話は三日とおかずにかかってきたし、メールは毎日送られてきた。
実は吉良(人質)も交えて飲んだことが、一度あった。

しかしルキアが危惧していたより、事態はましであるとも思えた。
心配した程吉良を盾に使われず、電話やメールも夜の11時以降は一度もかけてきたことがない。
一応の線引きをしていてくれ、ルキアはそんなささいなことでも安堵する。

それはギンの中に常識的観点が見出せず、それこそ朝もなく夜もなく呼び出されるような事態さえ起こりうると危惧していたからだ。



恋次はそれでも腹の虫が治まりきらず、苛立ち紛れに席を立ちレストルームへ姿を消した。

恋次がいなくなると、吉良はおずおずと口ごもりながらルキアへと声をかける。
「・・・あの、でも朽木さん。本当にごめんなさい!僕があの時誘わなきゃ、先輩にも会わずに済んだのに・・・」

「何を言うか吉良殿!本当にそんな風に気にしないでほしい。悪いのは吉良殿ではなく、あの性悪狐なのだから!!」

語尾の調子も憎憎しげにルキアが言い切った瞬間、頭上からわざとらしくも悲しげな声が降り落ちてくる。



「ひどいなぁルキアちゃん。僕のこと、そんな風に思うてたん?」



ルキアも吉良も聞き馴染んだ声に、一瞬動きが止まり、店内に満ち響く雑音さえも消えさった錯覚に陥る。


それから同時にものすごい勢いで声のした頭上を見上げた。



そしてそこには間違いなく、市丸ギンがニッコリ微笑み手を振っている。



ガタタタッ


「!!!!なっ!なぜ、お前が?!!!」


「せ・・・先輩っ?!!!!」


「・・・・え?え?」


ルキアと吉良は驚きと狼狽に二人とも思わず席を立ち、雛森ひとり状況を理解出来ず不思議そうに友人と見知らぬ男を交互に見比べていた。



「な・・・なぜ貴様が、こっ、こんなところにいるのだ?!!!」


「そっ、そそそそそうですよ先輩?!なぜ今日のことがわかったんですか?」


完全に動揺しきった二人の様子にギンは満足しきった笑顔を浮かべ、それから芝居っけたっぷりに長い人差し指を自分の唇に押し付けた。

「そんなん、企業秘密やわぁ。・・でもルキアちゃんが僕にちゅーしてくれんやったら、教えてもええけどなぁ?」


「・・・・・貴様!!」

「せ、先輩〜〜〜〜」

ルキアは強い敵意をこめ、対照的に吉良は泣き出しそうな表情でそれぞれギンを見つめた。

しかしギンはにやにやと笑うだけで一向に去る気配がなく、そこへ恋次が戻ってきてしまった。


「・・・なんだよ?誰だ、そいつ?」
恋次は鋭い視線でギンを睨みつけるが、ギンはもちろん気になどしない。


「ひゃぁ!ずいぶん派手な頭しよるなぁ?まるで真っ赤なパイナップルやん!!」


「あぁ?なんだと・・・?」


おどけるギンに、即臨戦態勢にはいった恋次。


長身の二人が狭い居酒屋の通路の真ん中で睨み合う(睨んでいるのは恋次のみ)様は、
嫌でも周囲の注目を引き、ざわついていた店内が、少しだけ静かになっていた。

従業員はこの様子を遠巻きに眺め、二人の迫力に止めるべきか躊躇しているようだった。


この様子に、吉良はキリキリと胃に痛みがはしり始め、真っ青な顔でたまらずよろけるようにして席に座った。
「だ、大丈夫?!吉良くん!!」
「・・・だ、大丈夫。」

憧れの雛森に介抱されていても、吉良の気が晴れることはない。


だって、この場が無事に済む訳がない。


血気盛んな友人に、挨拶代わりに人の神経を逆撫でる先輩が、今こうして顔をつきあわせているのだから。



「てめっ・・・!ふざけた口ききやがって!!誰だって聞いてんだろ?!」


「そないキャンキャン騒がんでも聞こえとる。弱い犬が虚勢で、よぉ吠えとるみたいやねぇ?」


「・・・!!!」


吉良の腹の痛みがキリキリからギリギリに変化し、恋次の頭に血が上り、今にもギンの胸倉を掴みあげようとしたその瞬間。



「いい加減にせよ!!このような場で見っとも無い!よいから二人とも、大人しく席に着け!!!」



「「・・・・はい。」」



平均値を下回る小さな娘に一喝され、平均値を上回る長身の男二人は大人しく席に着いた。



この様子を見ていた店員達は安堵に胸を撫で下ろし、興味津々に見入っていた客達はややつまらなそうに未練たらしくルキア達をまだ眺めている。


「全く!いい歳をした大人が、なにをしている!!

恋次!それが初対面の人間にものを尋ねる態度か?!

市丸!貴様はいちいちつまらん挑発をするなと、何度言えばわかるのだ?!」



ルキアは目を吊り上げ、座った二人に向かい低い声音で説教する。

「・・・わ、悪かったよ。」
「・・・えろう、すんません。」

ルキアの剣幕に押され、恋次も、そしてギンさえも大人しく肩を落として反省していた。


その様子に吉良も雛森も目を丸くして驚いた。

「・・・あたし、あんな風に怒る朽木さんって、初めて見た。」
雛森がそう呟くと、吉良は先程言った自分の言葉を思い出す。

『市丸ギンを抑える者がいるなら、会ってみたい』

「・・・目の前に、いた。」

吉良は初めて見る困り顔のギンを、まるで宇宙人でも見つけたような心持ちで、ぼんやりと眺めていた。

 

 

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gin top

※新章突入?!・・・妄想しておりましたら、ルキアにギンを好きになってもらうには、なにか大きな事件でもないとダメではないかと・・・!
で、この後またしてもシリアス展開になってしまいそうなんですが・・・!そ、それでも良いでしょうか?!(聞くな)
私、シリアスって自分では苦手だと思ってたんですが、こうも思いつくとなると好きなのか?!なんて思います。(意識しては苦手分野のはず・・・)

あぁでもどうしよう・・・。これはもっとノリ重視にしようか・・・。なんて、まだ今後の展開の方向性を決めかねている状態です。
でもそろそろ更新したくて、書いてしまったのでつい載せてしまいました。・・・ごめんなさい。
2008.9.25

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