昼食が済むとギンは秋に作っておいた手製の干し柿を食べ、畳にゴロリと横になる。
するとすかさず、厳しい口調のルキアの声が飛んできた。

「ギン!食べながら寝転ぶなと、いつも言っているだろう!行儀の悪い!!」

「ほんまやお父ちゃん。行儀が悪いなぁ。」
なにかと母の真似をする一人息子は幼い頃のギンソックリな顔で笑うが、
ルキアの目がないと父親と同じように寝転がりながら干し柿を齧っている。


それを知っているギンは、恨みがましく息子を一瞥し、それから大儀そうに身体を起こした。
「この干し柿は、寝ながら食べるんが、いっちゃんうまいんよ?」

「・・・なにか言ったか?」

未練たらしく言い訳をするギンをルキアが睨み、ギンは慌てて身をすくめた。

「・・・なんも言うてません。」





 『 絶対家族! 第二話 』





その様子を見ていた息子は、嬉しそうに母親に抱きついた。
「ほんま、お父ちゃんはしょーもない。やっぱり僕が、おかあちゃんの旦那様になるしかない!!」



ぴくり



普段動じることのないギンの眉ねは、この時ばかりはやけに敏感に反応を示す。

しかしそんなギンの様子に気付かぬルキアは、息子に抱きつかれたまま、あやすような口調で言う。

「ああ、そうだな。こんなに行儀の悪い旦那では体裁が悪い。レンのように賢く素直な旦那様でないとな。」
「ほんま?!おかあちゃんほんまにそう思うん?」
はしゃぐ我が子の頭を撫で、ルキアは微笑み返す。


「ああ本当だ。だからレン。ギンの悪いところは決して真似してはならんぞ。」
「うん!絶対やらん。だからおかあちゃん!僕と結婚してな!!」
「そうだな。レンがちゃんと言いつけを守れる子であれば、そうしても、よいな。」
そう言ってルキアは、汚れた茶碗を片付け部屋を出て行った。


この間からやたら同じ事を繰り返す息子を、ギンは先程より気迫をこめて睨みつける。

「・・・レン。あんなぁ、お母ちゃんと結婚なんか出来る訳ないことくらい、
お前ももう知っとかなあかん。そないなこと他所で言うたら、笑われてまうよ。」


しかしこんなことを言われたくらいじゃ、もう一人のギンが怯むはずもない。

レンはすました顔で、ギンに向かって堂々と言う。
「他所に笑われるくらい、なんでもないわ。誰に笑われても、僕はおかあちゃんと結婚する。」


ぴくりぴくり


ギンの眉ねが、二度ひきつった。
内心腹立たしい思いが渦巻くが、それでもギンはその気持ちを押し殺す。


「・・・おかあちゃんには、僕がおるから、レンとは結婚できん。」


やや優越感を滲ませながら、ギンはレンを斜めに見下ろし言ってみるが、レンはそんなことなんでもないように言い返した。





「せやから、お父ちゃん。お母ちゃんと別れて。」





ブッチ!





もうギンは眉ねを震わすだけでは足りず、なにかが音をたて切れるのを感じながら、力一杯叫び声をあげた。



「〜〜〜〜〜〜!!!!!絶ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ対、別れん!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」





しかし相対した息子の方は、幼子には似合わぬ冷静さで、冷ややかにギンの顔を凝視した。


「・・・ま、今はまだええ。僕が大きゅうなって、おかあちゃんと結婚するまでは、今のままで我慢したるわ。」



熱くなった父親を見下す我が子に、ギンは心から思ったことを口にした。

「お前・・・性格悪いなぁ。」

「おかげさんで、ここまで大きゅうなりました。」
着物の裾で口元を覆い、レンは芝居がかって笑ってみせる。



ほんま、性格悪いなぁ。


一体誰に似たもんやろう?





「・・・どうした。大きな声を出して。また、くだらん言い合いか?」

そこへ騒ぎを聞きつけたルキアが部屋へ戻ってくると、レンは一目散に駆け寄った。

「あ!おかあちゃん!!おとうちゃんが、ひどいんよぉ〜」
「またかギン!お前はどうして、いつもいつも・・・」
「な?!なにゆうてんの?悪いんは僕やのぉて、レンの方やん!!」

ルキアは膝をついて泣き真似をするレンを抱き、それにギンが懸命に釈明をする。



ここまでは、いつも通りの展開だった。



しかしギンは見逃さなかった。レンの顔が企みに満ちた笑顔が浮かんだことを。


嫌な予感にギンは、レンをルキアから引き剥がそうとした瞬間。



「あ!おかあちゃん!あれなに?」

「・・・なんだ?」



突然叫ばれたレンの声に反応し、ルキアが無防備に顔をあげた途端。
レンは自分の顔より下になるルキアの顔を両手で挟み、自分の方へと上向かせた。



ちゅっ



そして音こそでないが、レンはルキアの唇に己の唇を重ね、満足げに微笑んだ。





「これでおかあちゃんは僕のお嫁さんになる約束したったね?」





ルキアもギンも一瞬言葉もなく、息子を見つめた。



それからルキアは顔を赤らめ、動揺で涙ぐんだ目でギンを睨むが、ギンは無言で首を横に振る。


そう、これはギンが初めてルキアにキスした時のシチュエーションそのままだったからだ。


ギンもまさにこのままの戦法で、ルキアを上向かせ触れるだけのキスをしたのだが、

ギンによってまさか我が子にそのような話をしたのかと、あらぬ疑いをかけられギンは必死になって顔を振り続けた。



だが、ギンはこのまま黙っていられる程大人では、ない。


最初の衝撃が去ると、残ったのは腹の底から湧き出てくるような怒りとも嫉妬ともつかぬ黒く渦巻く感情。



息子は母との初チューに浮かれ、部屋中を飛び跳ねており、ルキアは赤い顔をしてなんとも言いがたい表情で息子を眺めていた。


そしてギンは不意にルキアの側に寄り、そのまま強く抱き締めた。

「!・・・ギン。な、なにを・・・?」

「・・・あかん。僕、めちゃめちゃ腹立ってるわ。」



ギンもルキアの唇を唇で固く塞ぐ。



「!!・・・んっ!!!!!」



もちろん、それだけで済むはずもない。

ギンの舌は巧みに口中に侵入し、ルキアの舌を絡めとり吸い上げた。



「!!ん〜〜〜!んんっ〜〜〜〜!!!!!」



ルキアは子供の前での信じられない行為に、唇を塞がれたまま抗議するが、そんなことではギンの凶行を止めることができない。
両手でギンの胸を押しなんとか離そうとするが、ギンは片手でルキアの頭を固定し、もう片腕で身体を抱き締めている。

ギンの舌はルキアの口中をまさぐり、いつものように淫靡な感覚を刺激し増幅させようと、的確にルキアを追い詰めていく。



レンといえば、突然のギンの行為に飛び跳ねるのを止め、放心したように二人に見入っていた。

しかし母親が顔を真っ赤に赤らめ、苦しげに唸る様に我に返ると、父親の広い背中に突進していく。



「うわぁぁぁぁぁ!!!!!おかあちゃんになにするんや!おかあちゃんを離せ!!!!!」



背中を力一杯殴られながら、それでもギンはルキアを離さない。

そのままの状態できっちり一分たってから、やっとギンは顔を上げた。



それと同時に





「〜〜〜〜この、大たわけ者!!!!!!」





ばちんっ





「!!!!!ったぁ!!」





ルキアの手がギンの頬を確実に捉え、大きな音が鳴り響いた。



「おかあちゃん!!大丈夫か?おかあちゃん!!!!!」


するとレンは大泣きしながらルキアにしがみ付き、ルキアは赤い顔で息を乱したままギンを睨みつけた。



ギンはといえば、殴られる覚悟はしていたものの、予想以上に込められた力に倒れ伏し、じんじん痛む頬を押さえたまま俯いていた。





「こ、子供の前で、貴様という奴は〜〜〜〜〜〜。もう、知らん!!しばらく一人で反省しろ!!!」





ルキアはまだ泣きやまぬレンの手を引き、足音荒く部屋を出て行く。



「ル、ルキアちゃん!ちょぉ待って・・・」

慌てて後を追いかけたギンを、玄関の戸口でルキアが振り返りギラリと一瞥し怒鳴った。





「ついてくるな!!!!!!!」






「・・・はい。」


気迫負けしたギンはその場から動けず、憐れな目でルキアを見るしかない。



ぴしゃん!!



しかし大人しく玄関先でうなだれるギンの目の前で、無情にも戸は閉められた。






ルキアはそのまま実家に帰り、ギンは毎日通ったがお目通りも叶わず、結局再会を許されたのはそれから十日後のことであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※うちのギンルキ家族の子供はレンくんに決定しました。理由はギンの名前の二文字で、ルキアの名前のラ行からとりました(強引?)
しかもこのお話はサイトの常連客になってくださいました、さんぽさんからの盗用アイディアです。ありがとうさんぽさん!出来はいかがでしょうか?
この前からギンが可哀想なオチのお話ばかり書いています。わざとではありません。でも今、ギンを苛めたい気分なのかもしれません。(いなめない)
うちのギンはSにみえて実はMかも・・・?(問題発言)
完全Sサイドも好きです。ギン好きです!!(告白)
2008.9.20

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