サクサクと薄く積もった新雪を踏むと、小気味良い音がする。
それが嬉しいらしく少年は、母の手を離れ一人跳ねるような足取りで前を行く。

「あまりはしゃぐと転ぶぞ。」

その様子を後ろから見守る母は、危なっかしい足取りの我が子に柔らかく注意を促がした。
すると少年はくるりと母の方へ振り向くと、満面の笑みを浮かべ嬉しげに駆け寄った。

そのまま母親に抱きついてくるので、母は手を添え少年の肩を抱く。
「どうした?」
「なんでもないんよ。ただおかあちゃんに、くっつきとうなっただけや。」
そう言うと少年は母親の顔を見つめ、無邪気ににっこりと笑ってみせた。





 『 絶対家族! 第一話 』





その少年は年端の割りには背が高く、小柄な母親と顔の距離があまりなくなっているにも関わらず、いつまでたってもこの調子だ。
母は少々呆れながらも、愛おしくて仕方がないように少年の頭を撫でる。

「こんなに大きくなったのに、お前はまだまだ甘えん坊だな。・・・そんなところは、誰かさんにそっくりだ。」

この言葉に、今まで黙って傍観していた背の高い男の肩がぴくりと動く。


今日は久しぶりに親子三人揃ってのお出かけだった。
いつも忙しい父親の休みがなかなか取れず、今日やっと皆で子供の成長を願うお宮参りに行ってきたところだ。

少年は人間の年齢でいえば丁度七歳になったばかりで、父親ソックリの風貌に、母親譲りの真っ黒で艶やかな黒髪が、
白く染まる風景の中で自分とゆう存在を主張しているように浮き出て見えた。



「・・・誰かって、僕?」
「他に、誰がいる?」

やや突き放すような冷たい口調で、ルキアはちらりと隣に立つ男を見上げた。
ギンはこの言葉に不満を覚え、わざとらしく口を尖らせながら異議を唱えた。

「えぇ〜?僕全然甘えてへんよ?やってルキアちゃん、僕のこと甘やかしてくれへんもん。」
「こんな大きな子の父親になって何を言う。もう少し父であることを自覚することだ。」
「そうや、そうや。自覚せえ!」
意味も分からず少年は母親の言葉を繰り返し、ギンそっくりの顔で笑っていた。



ギンはますます面白くない表情で、我が子を見下ろし、そしてその首根っこを掴むと無理矢理ルキアから引き剥がす。

「な!なにするんやぁ!!」
ギンに襟首を持たれ、浮いた宙で足をばたつかせながら少年は必死で母親へ戻ろうとする。


「そしたらお前も、もうそろそろお乳離れしとかんと、甘えん坊や笑われんよ。」
「僕は子供やから、まだまだええの!!!」

言うなり少年は父親に蹴りをいれ、その手から解放されると一目散に母の胸の中へ逃げ込んだ。

「!!!いだっ!・・・・・・・・お、お父ちゃんになにしよるん?!」
「手ぇだしたんは、そっちが先やん。」
腹を押さえて苦しがるギンを無視して、少年はツーンと顔を背けた。

「僕は、叩いてはおらんやろう?!」
「僕はまだ小さいから、お父ちゃんと戦うにはこれくらいの権利は認めてもらんと。」
「・・・ほんまお前にはいっぺん、父親の威厳ゆうもん身体に教え込んでやらなあかんな?」

ギンの言葉に少年は父親へと向き直り、精一杯低い声で挑発した。


「なんや、やるんか?」

「いつでも、ええよ?」


同じ顔が見合い、熱い火花が飛び散った瞬間。

 

「お主ら、いいかげんにせぬか!!!」

 

その一喝で、二人とも瞬時に怯えた顔でルキアを振り仰ぐ。


「まったく、つまらぬことで毎度毎度よく同じような喧嘩ができるものだな。
いい加減感心すら覚えるが、その度に注意せねばならん私のことも考えよ!
特にギン!貴様はなんだ!!
父親のお前が、何を子供相手に本気で言い争う?!いつまで子供でいるつもりだ!!」



静かな怒りの形相のルキアに怒鳴られ、二人は肩を落として反省の意を示す。


「かんにんやお母ちゃん。謝るから、僕のこと嫌いにならんといて。」
少年は先ほどとは打って変わって、やけに憐れみを誘う声音でうなだれながら、ルキアへとしがみつく。
そしてルキアはその身体を受け止め、優しく擦ってやった。

「何があってもお前を嫌いになどなりはしない。ただ、大人になるにはもう少し自制を覚えることだよ。」

「うん。僕、おかあちゃんの言う通りいい子になるわ。」

「お前はとても賢い子だ。きっと素晴らしい若者になるだろうよ。」
ルキアは息子の頭を撫で、その感触の心地よさに少年は蕩けたようにますます目を細めた。





そして少年はルキアに胸に顔を埋めて数度頬を擦り付けると、後方に控えたギンの目を見てにやりと笑った。





(!!・・・こんがきゃぁ!!!)





息子の無邪気さを装った計算高い小芝居に、ギンは苦虫を噛み潰したような表情で、なんとか怒りを腹底に隠す。


そのギンの苦い表情を確認してから少年は、ぱっと顔をあげ母親に言った。





「そしたらおかあちゃん!僕が大きゅうなったら、おかあちゃんが僕のお嫁さんになってくれる?」





その言葉にギンはぎょっとし、ルキアは一瞬驚いたように目を見開いたが、それから可笑しそうに笑い頷く。



「そうだな。ではお前が大きくなったら、嫁にしてもらおう。」

「ほんま?!ほんまやね!!嘘ついたらあかんよ!!絶対、約束!ゆびきりげんまんやで!!!」

「わかった。わかった。そんなに腕を引っ張るな。」

少年は母親に小指をせがみ、ルキアも笑って小指を差し出す。



しかし母子の微笑ましい約束は、父親の襲撃で邪魔された。





「あかん!!!ルキアちゃんは僕のお嫁さん以外、ぜぇーーーーーーーったいにあかんの!!!!!!」





ギンは大声で怒鳴りつつ、息子からルキアを身体ごと自分の後方へ庇い隠した。
当然これに、少年は不満の声をあげる。



「なんやお父ちゃん!!おかあちゃんがええゆうてるんやから、邪魔せんといてや!!!!」


「やかましいわ!誰がなんと言おうと、それだけは僕が許さん!!!」



尋常ではないギンの本気の怒りぶりに、ルキアはあきれながら声をかける。
「・・・おいギン。子供の言う事に、何をそんなに本気になる?今だけの、他愛もない戯言ではないか。」



ギンは内心、舌打ちしたい衝動に耐えていた。



ルキアは、わかっていない。



この子が、僕の子だということを。



戯言めいて言っているが、この子は間違いなく本気だ。


本気で、母親を愛している。

それはもちろん母親ではなく、女として。

本気で父親から奪おうと、今のうちから虎視眈々と狙いをすましている状態なのだと。



なぜそんな事が言えるのか?
それは、この子の思考回路が自分そっくりであるからだ。


ギンがルキアを求めるように、この子もルキアを本気で求めぬわけがない。


それは蛙の子は蛙と言われる諺のように、花の種子からは花しか芽吹き育たぬように、当たり前で当然の原理。



ギンだけが、わかることなのだ。




数々の恋敵から必死でルキアを奪い取り、やっとの思いで結婚し子まで授かったというのに、
まさかその我が子が強力な恋敵になろうとは、なんと皮肉な運命の悪戯なのか。




自分で蒔いた種はいつの間にか太く頑丈な茎を形成し、今後も天を目指してぐんぐん伸び育つ。

それはやがて強力な樹木に育ち、ギンを脅かす存在になる可能性が高いだけに、ギンは今から笑って成長を楽しむ気になれない。



「戯言でも、ぜぇったいあかん!!!!!ルキアちゃんは、僕だけのお嫁さんや!!!!!!!」



「そないなこと、お父ちゃんが決めることやない!!おかあちゃんは、僕のお嫁さんになるんや!!!!!」




ギンは幼い自分に向かい、幼い息子は未来の自分に向かい敵意剥き出しで怒鳴りあう。



最早問答無用の戦闘態勢状態の二人に、ルキアは本気であきれ言葉も出ない。





こうして二人のルキアを巡る戦いは、しばらくしばらく続いていく・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※初の家族パラレル設定。イチルキでは数多にありますが、ギンルキではそうそうない設定でしょう。
ならば自分で妄想妄想☆父親と息子が本気で母親を愛して取り合うなんて・・・
現実世界では決して萌えたりしないが、妄想世界なら話は別バラ☆
思う存分バトって頂きましょう〜☆続きとか考えてませんが、思いついたらまた書くかもしれません。
是非、書いてみたい設定です☆(好きシチュなんで)

子供の名前が思いつかず名無しにしてしまいましたが、次回作あれば名前をつけて登場します☆
2008.9.15

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