『LOVE YOU 初めて会ったのはどしゃぶりの雨だったね
君は雨の中でもわかるくらい泣いていた』
頬に落ちた一粒の雨。
水色達と別れ家路に向かう帰り道の途中、その感触に一護は立ち止まり、訝しげに空を見上げる。
「やべー。降ってきた・・・」
いつの間にか空は雨雲に覆われ、それを見ている間にどんどん雨は落ちてくる。
だが一護は動かず、次第に激しくなる雨の様子をぼんやりと見つめていた。
『 雨上がり 』
雨は、嫌いだ。
それは、母を失ったあの日から魂に刻まれ、もう一生拭い去る事など不可能な悔恨の思い。
そう、それは一生続くと思われたのに、いつの間にか俺は救われた。
一人の死神によって。
雨が降るたび感じた、あの、母を失った時の喪失や絶望が交じり合った、胸刺す棘の痛みはルキアによって取り払われた。
母の代わりというわけでもなかったのだが、ルキアを救い出せたことが、俺自身を強く変えてくれた。
雨に濡れたまま、一護は思う。
俺の心は救われた。
でも、あいつはどうだろう?
この雨は、今でも、ルキアを苦しめているのだろうか。
『LOVE YOU さびしい心が君をおそう時があったって
僕は君の一秒ごとを気にしているよ』
あの事件については、ルキアの上司や岩鷲から聞いている。
そして、わかった。
俺もルキアも、同じ雨に痛みを感じていた似た者同士だった。
天が泣くたび、一護もルキアも逃れぬ罪の意識に心が泣いた。
それが、二人をつなぐ絆にも似た感情だったから。
でも。
でも、それも昔の話しだ。
俺の心は、もう泣きはしない。
もちろん母を思い出し、生きていてくれたらと思う事は今でもあるが、
それは苦しみに満ちた願いではなく、生前の母を懐かしむノスタルジックなものになった。
それも、ルキアがいてくれたから。
俺の傍に、ルキアがいるから。
冷たさよりも春の暖かさを感じる雨に濡れながら、一護は天を仰ぎながら少しだけ目を閉じる。
ごめんな。母さん。
雨に降られて、思い出すのが、真っ先にあなたじゃない薄情な息子で。
心で詫びる一護の脳裏に浮かんだ母は、生前の明るい笑顔で微笑んだ。
一護は目を見開き、一度眩しげに天を見つめ、それから前を向くと突然駆け出す。
家で、ルキアが待っている。
この後、ルキアと出かける予定になっている。
急ごう。
あいつの元に。
雨に泣いているかもしれない、ルキアの傍にいてやりたい。
そんな思いに雨の中走り出した一護の視界の先に、思いがけない光景が飛び込んできた。
それは雨の中、白いワンピースを着たルキアが、道端で自分の両手を見つめ、ぼんやりとした表情で佇んでいる。
『君が涙を流す悲しみはわかるから
僕は傍にいたいんだ君の涙を全て受け止める』
一護は驚きに一瞬足を止めそうになりながら、それでもなんとか走り続け、自分の存在に気付かぬルキアに力一杯叫ぶ。
「・・・ルキアっ!!!」
一護の声にルキアはびくっと身体を震わせ、驚きに大きな瞳を更に見開き、
すごい勢いで駆けて来る一護の姿を唖然として見つめれば、一護はすぐに息を切らせてルキアの目の前に立ち、
無言のまま着ていた黒のジャケットを脱ぎ、ルキアの頭からすっぽりと包みこむ。
「な、なんだ。一護か。突然大声を出すな!驚くではないか!!」
ルキアの非難の声を浴びながら、しかし一護も負けずに応戦する。
「・・・バッカ!!驚いたのはこっちだ!なに雨ん中、傘もささずボケーッと突っ立ってんだよ!どうかしたかと思うじゃねぇか!!」
「あ・・・あぁ・・・それも・・・そう・・だな・・・。す、すまなかったな。」
一護に怒鳴られ、何か返すかと思いきや、ルキアは決まり悪げに視線を逸らし、少しだけ明るくなってきた空を見上げ言葉を濁す。
その様子に、一護は眉間の皺を深めてルキアを見つめる。
「なんだよお前。本当に、どうしたんだ?」
「い・・・いや。なんでもない・・・本当に、大した事ではないのだ。」
「大した事じゃないなら言えよ。気になるだろ?」
「そ、そう細かい事を、男が気にするものではない!・・・ほら、帰るぞ!!」
そう言い捨て、ルキアは背を向け小走りに駆け出した。
しかし一護は動かず、遠ざかるルキアの背を黙って見つめれば、
その気配にルキアは困った顔で振り向き、それから俯いた。
一護はもう何も言わず、無言でルキアを見つめ続け、すぐに根負けしたルキアがおずおずと口を開く。
「・・・突然雨が降ってきたから・・・お前を、向かえに来たのだ。」
「俺を迎えに?・・・傘、持ってねぇじゃねぇか。」
「・・・だから、困っているのだよ。」
「なんで。」
「・・・雨に降られて、一護が、辛い思いをしているのではないかと思ったら・・・傘を持つ事を忘れ、家を飛び出してしまった。」
「俺が・・・辛い?」
まだ意味がわかりかねた一護の様子に、ルキアは弱い笑みを浮かべて呟く。
「この雨に、お前が傷ついてはいないか心配で・・・お前も、雨は、嫌いであろう?」
「・・・!!」
それで一護はわかった。
ルキアは、俺の雨の記憶を知り、俺の事を案じてくれたのだと。
『君の事護るよ僕は
君を苦しめる全ての事から
他に何もできなくなっても僕は構わない』
俺が思うように、ルキアもこの雨に俺を思い出し、傍にいたいと思ってくれたのだ。
お互いを思う気持ちの強さに、一護は感動で言葉を失い、一人胸いっぱいになっていたが、ルキアだけは決まり悪げに顔を逸らす。
「・・・だが、折角向かえに来たのに、肝心の傘を忘れたとあっては、さすがに格好がつかないな。
良い笑い話だ。今だけは笑われても仕方あるまい。特別に、許してやろう。」
あくまでも威高げな物言いで、自分の失態を誤魔化そうとしているルキアの様子に、
一護は我慢出来ず笑いながら小さな頭に手を乗せ言った。
「ばーっか!」
「な・・・!笑うのは許したが、ばかにするのは許しておらんぞ!!」
ルキアは打てば響くの反応で、すぐに顔を赤くし一護を見上げて精一杯睨んでみせるが、
反対に一護はひどく嬉しげな笑みのまま、優しい表情で見下ろし、
グイッとルキアの頭を胸に抱き寄せ、優しい声で囁いた。
「ばかだなぁ。お前。その肝心な傘持つの忘れるくらい、俺の事心配してくれたんだろ?それを、なんで俺が笑えるんだよ。」
「・・・・・!」
一護の胸の中、ルキアは頬を朱に染め絶句していると、一護はすぐにルキアを解放し、少しだけ前に歩き出す。
「ほら、もういいから帰ろうぜ。帰って着替えたら、予定通り出掛けんぞ。」
「・・・でも、雨が。」
「雨足は弱くなってきてるし、向こうの空見ろよ。もう明るくなってる。そんなにしねぇですぐに止む。」
「・・・そうか。止むのか。」
「そうだ。・・・雨は、いつか必ず、止むんだよ。」
「・・・そうだな。」
忌むべき記憶を纏った雨は、二人の中でとっくに止んでいる。
その代わり、今二人に降り注ぐ雨は、互いを思いあう優しい雨。
嫌いだと思っていた雨も、二人一緒なら、いつの日か好きなものに変わるかもしれない。
そんな、予感すら感じられている奇跡。
厚い雲間から日差しが差し込む様を、ルキアは一護のジャケットを腕にかけ、感慨深い眼差しで見つめていた。
その横顔を眺めながら、一護は更にルキアに言う。
「いいから行こう。・・・そういやさっき、水色の買い物に付き合ったら、お前の好きなウサギに似たヌイグルミあったぞ。」
「なに!?それはチャッピーか?」
その一言にルキアの瞳がキラリと輝きを放ち、すごい勢いで一護へと詰め寄る。
「あ・・あぁ。確か、それ・・・」
「見ろ一護!雨が止んだ!!ではこのまま、そのチャッピーを見に行こう!!」
「お、おい!お前、ずいぶん濡れてんぞ?着替えなくていいのか?」
「構わん!さほど濡れてはおらんし、どうせ春の雨だ。歩いている内に渇くであろう!」
「・・・結構、びしょびしょみてぇだけど?」
ぶつぶつ呟く一護の様子に、待ちきれずにルキアは駆けながら一護の手を引っ張る。
「ぐずぐずするな一護!チャッピーが待っているのだ!」
「うわっ!ちょ・・・わかったから、んなひっぱんな!!」
「遅いぞ一護!置いてくぞ!!」
「お・・待てって!お前、店知らねーだろ!!」
先程までの雨など、嘘のように晴れ渡った空の下。
一護は自分より前を駆ける、その小さな背中を追い走り出す。
その時ふと一護の頭に先程街に流れていた、なかなか良いと思った優しい歌のフレーズが浮かんでいた。
『完璧には出来ないけれどでも絶対君を幸せにするよ
僕は誓うよどんな時でも君を護るから』
僕は誓うよ。
どんな時でも、君を、護るから。
いいわけ
新しいEDの素敵さ加減に萌え、思いついたんで情熱のままに書いてはみましたが、
これまた展開パターンで、ちっとも素敵な萌えを表現できず本気で泣きたくなりました。ちなみに二人で駆け出しENDはこれで三回目w
EDの流れに思いついた私の妄想。雨を見て意味深な表情の一護とルキア。
それが、自分の悲しい記憶ではなく、一護はルキアを。ルキアは一護を想い合ってたら素敵だろうなーとか思ったんですよ!
悲しい記憶を乗り越え、残ったのは互いの存在!
だって・・・最後に、二人手を繋いで笑い合って駆け出してたり・・・!!ぐわぁっ!もうおかわり何杯でも頂ける!!!
また、途中に挟んでいる歌詞は私が聴いて聞こえるままに書いてみたので、きっと合ってない部分もあると思います!
そして著作権は言うまでもなくサンボマスター様で。・・・こーゆーのって著作権侵害??そうなら怖いわぁ。
でも、あんまり優しく素敵な歌詞なので、できればこのまま残しておきたい・・・
またタイトルが「君を守って 君を愛して」!こんな歌でイチルキってさぁ!萌えるなってのが無理だよね〜!www
素晴らしい仕事をしてくださるぴえろ様。私、作者よりあなたに付いていきますので、今後もこんな感じで宜しくお願いいたしたく思います〜☆
2009.4.25
material by Sweety