『もラい泣キ』




「っただい・・・なっ?!」



帰宅した一護は、リビングのソファに座ったまま、ぼろぼろ涙を溢すルキアの様子に驚いた。



「な、なんだよルキア?どうかしたのか?」

気遣う一護の方を振り向きもせず、ルキアは大声で一喝した。





「うるさいぞ一護!よく聞こえんではないか!!」

「・・・は?」





見るとルキアの目の前のテレビでは、動物が主人公のアニメが放映されており、

その主人公のウサギが母親との再会に涙を流して喜んでいた。



(・・・まさか、あれでか?)



ルキアのウサギ好きの異常さ加減は知っていたつもりだが、あんなものでここまで号泣するなんて・・・



ルキアを心配して声をかけてやったのに。

なんとなく釈然としない思いで一護は制服を着替え、再びリビングへと戻ってきた。



丁度テレビはエンディングが流れ、まだルキアはむせび泣いている。



一護はなんとなくルキアの隣に座り、その様子を観察した。



ルキアは小さな肩を震わせ、クッションに顔を埋めて泣いている。



その原因が幼児向けアニメのせいだと知っていても、一護の胸は小さく痛む。



「・・・なぁ。アニメもう終わっただろ?もう泣くなよ。」



「・・・う、うるっ・・・さい。・・・放って・・・おけ。」



しかしルキアは顔もあげず、泣き続ける。



仕方なく一護は黙り込んだが、一分たっても泣き止む気配がないことで、再びルキアに声をかけた。



「・・・おい、お前大丈夫か?」



今度は顔をあげたルキアは、苦しそうに息をしている。

どうやら泣き過ぎて、呼吸がおかしくなってしまったらしい。



「ひっ・・・くっ・・・く、くる・・・ひっ!・・・しっ・・・ひくっ!」



ルキアは苦しそうに一護の胸にしがみつき、激しくしゃくりあげ肩を揺らす。



一護は咄嗟にルキアの顔を上向かせ、涙でぐしゃぐしゃになった大きな瞳と間近に見合う。

視線が交差した瞬間、自然と一護はルキアの唇に己の唇を重ねていた。



「!!・・・ひっ・・くっ・・・!!!」



突然のことにルキアは動揺し、反射的に逃げようとしたが一護はしっかりと肩を掴んで離さない。



長いような短い時間。二人は唇を重ね合わせたままだった。



やがて激しく震えていたルキアの肩が落ち着きを取り戻したことを感じ、

一護は探るように自分の舌をルキアの舌へ絡ませようと試みた瞬間、玄関が開き、元気な妹達の声が響く。





「たっだいまー!!」

「あれ、一兄にルキ姉早かったんだ。」





一護もルキアも驚きで身体がビクリと反応し、悪いことにルキアは一護の舌に力強く噛み付いてしまった。





「!!!ってぇ!!」



ルキアは慌てて立ち上がると、妹達を出迎えにリビングの扉へと走り、一護は口元を押さえたままソファから動けずにいた。



「お、お帰りなさないませ!」

「あールキアちゃんただいま・・・あれ?目真っ赤だよ?なんで泣いてるの?!」

「あ、あの・・・せ、世界子供劇場を見ていたら・・・その、ウサギのチャッピーが・・・」

「あぁ!知ってる!!可哀想だよねーチャッピー!でもお母さんにちゃんと会えるから良かったー!」



遊子とルキアはアニメの話に花を咲かせ、夏梨は座り込んでいる兄の下へと歩み寄る。



「・・・で、なんで一兄は泣いてるの?」



一護は噛み付かれた痛みで涙が滲んだ目のまま、一言ぼそりと呟いた。



「・・・もらい泣きだ。」



「・・・へぇー・・・一兄が、チャッピーで、もらい泣き・・・。」



何事か察した夏梨は、あとは黙ってルキアと遊子の元へ戻っていく。



一護は口の中で少し滲んだ血の味を感じながら、ルキアからこの代償は後で必ず払ってもらうと、心の中で固く固く決意していた。









※拍手用SS・またしてもラブともギャグともつかない作品。一護はギン程ぶっ飛んでないから、扱い難しいです。・・・ぶっ飛ばせようかしら?(危険)

2008.8.14

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