『今宵 月を見上げ誰想う』  #1・一護  1/5


現世に浮かぶ、頼りない半月。
その姿は片割れを失い、ひどく心もとなく淋しげに映る。
一護は部屋からその月を見上げ、思わず呟きを漏らす。
「・・・ずいぶん、淋しそうだな。」
本当は欠けてなどいないのに、半身がないその様はまるで今の自分の心を表している。
我が侭で、偉そうで、いちいち煩い奴なのに。それなのに、側にいないと落ち着かない。
「あー・・・いつ、帰ってくんだよ・・・」
尺魂界へ戻っているルキアを思い、一護は思わず呟いていた。
ルキアがいなくなって二日しかたっていないのに、この心もとない気持ちはなんだ。
会いたい。姿が見たい。声が聞きたい。そして・・・触れ合えたらいいのに。


「早く帰って来いよ・・・ルキア。」


一護の呟きは目の前に広げられた教科書の上に落ち、そのまま霧散していった。


『今宵 月を見上げ誰想う』  #2・ルキア  2/5


尺魂界に浮かぶ、頼りない半月。
その姿は片割れを失い、ひどく心もとなく淋しげに映る。
ルキアは隊舎からその月を見上げ、思わず呟きを漏らす。
「・・・ずいぶん、淋しそうに見えるな。」
本当は欠けてなどいないのに、半身がないその様はまるで今の自分の心を表している。
わざと横柄な物言いをするくせに、実は誰よりも気遣う優しさに満ちた、死神の力を持った人間の少年。
「なぜこんなにも、こころもとない気持ちになるのか・・・」
現世にいる一護を思い、ルキアは苦笑するように呟いていた。
一護と離れて二日しかたっていないのに、この心もとない気持ちはなんだ。
会いたい。姿が見たい。声が聞きたい。そして・・・触れ合えたらいいのに。


「早く戻りたいよ・・・一護。」


ルキアの呟きは夜風にさらわれ流れると、そのまま霧散していった。


『今宵 月を見上げ誰想う』  #3・ギン  3/5


虚圏に浮かぶ、虚構の満月。
藍染の戯れに、模倣された美しき月夜。
この宮殿以外は多くの砂に埋もれた不毛なる大地を見下ろし、ギンはそれから月へと目と向けた。
「・・・元気に、しとるやろうか。」
闇を照らす淡い光を放つ、孤高の月を見ると思い出す。
あの漆黒の髪と白雪のように白い肌。宝玉のように煌めく紫紺の瞳。


「あぁ・・・会いたいなぁ。・・・ルキアちゃん。」


華奢で折れそうに細い身体を、力一杯抱き締めたい。
あの娘のことだ。このまま尺魂界で大人しくしてはいないだろう。
自分の命を狙い、ここまで乗り込んでくるはずだ。
その時はもう二度と放しはしない。有無を言わさず攫っていこう。


「早よぉきてな・・・僕もう、限界や。」


ギンの呟きは風に流れ、なにもない砂の荒野に漂い霧散していった。


『今宵 月を見上げ誰想う』  #4・ルキア  4/5


尺魂界に浮かぶ、細い細い弓月。
闇夜を切り裂いた後のように、そこだけぽっかり穴が空いているようだ。
朽木家の自室から庭に降り出たルキアは、その月を見つめ憎憎しげに呟いた。
「・・・嫌な奴を、思わす月だ。」
その鋭利な細いシルエットは、あ奴の心無い笑みを浮かべた口元を思い出させる。
全てを欺く威嚇の微笑。飄々とした物腰。何ものも見ていなかった瞳。
「私の心を好きに玩び、裏切るとは・・・・!」
決して決して、許しはしない。
必ずや袖白雪でその身体を貫き倒そう。
ルキアは気付いていない。この強い想いが憎しみ意外のなにかであることに。


「待っていろ市丸!・・・私が、貴様に引導を渡してやる・・・!」


ルキアの決然とした呟きや風に流れ、鮮やかな木々溢れる庭に漂い霧散していった。


『今宵 月を見上げ誰想う』  #5心  5/5


闇を照らす、淡くも強い月の光。
あの月に何を思う?
あの月に誰を思う?
闇に沈んだ心を、照らす月の光。
その光は、あなたしかいない。
私の心を照らすのは、あなたしかいないのです。
月を見上げて紡ぐ愛の言葉は、あなたへの告白。


その闇を切り裂く光を持って、早く早く、私をここから連れ出して。


※2009.1.1

Side top

inserted by FC2 system