誰か、呼んでいる。

俺の事を、呼んでいる。

その声は遠く、近く、漣のように寄せては返し、幾度も幾度も繰り返される。

俺を呼び覚ます、愛しい者の声。

そこにいるのか?・・・ルキア。

俺の意識は、飛んでいく。

ルキアの元に向かって、ただ、ひたすらに。






『 龍神の娘 』 番外編 目覚めの刻





魂を失った一護の体をその手の中に大切に抱き、力を取り戻し白龍と化したルキアが七日天翔けて辿り着いた先は、
人はその地の存在すら知らず、龍神族もみだりに近づく事が許されていない荘厳なる大滝の流れ落ちる伝説の地。
遥か昔に龍神と人間が深く心を繋げ、事故で命を落とした人間を龍神がその思いの深さに甦らせ、
生涯を共にしたという言い伝えが残されている聖地と崇められた場所。
ルキアも龍神とはいえみだらに足を踏み入れることは禁じられた地ではあるが、一護を失う以外に恐れの無いルキアにその掟は意味がなく、
古くからの言い伝えでしかないながらも、一護を助ける術が他にないのであればこの地で一護を復活させるしかないとルキアは信じて疑わない。

 

一護に護られ生かされた自分はその命を己の意志で破棄は出来ず、
ならば一護を救うより他に本当の意味で自分を救う事もルキアは出来なくなっていた。

 

 

一人の人間に妄執するあまり、こんな御伽噺を信じ本気ですがりつくなど、私はどこか狂ってしまったのかもしれない。

今の自分の行動に対し、冷静な判断をくだす内なる声が聞こえるがルキアは構いはしない。

誰に莫迦にされても、どれだけ自分が狂おうと、一護が救われれば、それでいい。

その地に辿り着いた時、久しぶり取り戻した龍の力を極限まで駆使したルキアは、ひどく疲れ果てておりながらも休む事無く土地を散策し、
滝の側に住むのに丁度良い岩屋を見つけると、人の姿になったルキアは一護を岩屋の中へと横たえる。
無事に一護をかの地へ連れ行くことができたルキアは、その晩一護の側にうずくまり深い深い眠りについた。

そうしてルキアと一護の二人だけの生活は始まり、
一護の体は不思議な力に護られ朽ち果てぬが目覚めぬまま、
十年以上の月日があっという間に流れたのであった。

 

 

 

 

 

古の時代に出会った龍神の男と人間の娘。

二人は出会った瞬間惹かれ合い、想いを交わすようになる。

しかし、娘は不慮の事故に合い突然生命を絶たれてしまう。

これを悲しんだ龍神は、娘の亡骸を護りこの地で一人暮らした。

長い年月が過ぎたある日、突然娘は生き返り龍神の手を取り言った。

「貴方の声が聞こえました。

何年も何年も、私を呼ぶ貴方の声が。

だから私は戻れました。

私を想う貴方の心に導かれ、迷わず貴方の元に帰る事が出来たのです。

これでもう、私達は離れる事はありません。

生きるも死ぬも一緒です。

私は、貴方の為だけに生きることができるのです。」

娘を想う心に導かれ、龍神の魂の半身として甦った娘。

その後二人は決して離れる事はなく、死しても尚一緒でいれたという、龍神と人の伝説。

 

 

 

 

 

 

 

 

重い重い瞼を大儀そうにゆっくり上げると、溢れる真っ白な光に瞳が射抜かれ、思わず固く目を閉じる。
それからもう一度、恐る恐る目を開ければ、そこは見たこともない岩屋の天井が広がっていた。

身体全体がひどくひどくだる重く、首を巡らすのもひどく苦しい。
苦しげに眉を顰め、不器用に深く息を吸い込みゆっくりと吐き出す。
そんな事を幾度か繰り返した後、突然ひどい喉の渇きを覚え、水を求めて視線だけで岩屋の中を眺め回した。

岩屋の全貌はあまり大きくなく、畳に換算すれば約八畳程であろうか。
床には綺麗な敷物が敷かれているが、家財道具の類が一切ない殺風景な中、自分は柔らかな布団の上に横になっている。
小さな窓から部屋の中には明るい光が入り込み、隅々まで掃除が行き届いているようで、清潔で気持ちの良い空気に満たされている。
目覚めたばかりで意識が混濁していながらも、無意識のうちに何かを求めて自然と唇が動いていた。

 

「・・・・・・・・・・・・る・・・・・・・・・・・・・・・あっ・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・一護!!」

 

その時突然、自分を呼ぶ声が聞こえた。
それと同時に何かを取り落とし、地面に落ちた派手な音とばしゃりと水音が響く。
しかしルキアはそれに構わず、入ってきたばかりの入り口から慌てふためき不器用に身じろぎしている一護の側に駆け寄った。

 

「一護!一護!!め・・目が覚めたのか!?
わた・・・私が・・・私が・・・わかる・・・だろうか・・・・・・?」

 

自分を覗き込むルキアの表情は、泣きたいような、笑いたいような、それでいてどこか恐れているような、ひどく複雑で困惑した表情をしている。
一護はぼんやりしたまましばしそれを眺め、それからふっと口の端にだけ小さな笑みを浮かべた。

 

「俺は・・・忘れ・・ない・・・・・他の・・誰を、忘れても・・・お前・・だけは・・・・・・ルキア・・・・・・・・・・」

 

「い・・・いちっ・・・・・・!!!!!」

 

ルキアは一護の名を呼ぼうとして喉が詰り、そしてそのまま一護に抱きつき大声で泣き出した。
全身に響くルキアの泣き声を受け止め、まだまだ動きにくい腕をなんとか持ち上げると、一護はそっとルキアの背中に優しく触れる。

 

「一護・・・!一護・・・!良かった・・・!!目が覚めて・・くれて・・・本当に・・・良かった・・・!!!」

 

一護に抱きつき嗚咽の合間に、切れ切れにルキアは声を絞り出す。
これに一護は目を細め、再びルキアと話せ、触れられる幸せを心の底から噛み締めた。

 

「ただいま、ルキア。・・・・・・・・・ありがとう・・・な・・・・・・」

 

そう言うと一護はゆっくり瞼を閉じ、その閉じられた瞳から、一筋の涙が流れ落ちる。

 

 

 

引き裂かれ失われた魂は、龍神の娘の想いの強さに引かれ甦った。

種族を超え、死さえも乗り越えた二人を阻むものなど、もうなにひとつ、ありはしないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※ノラさんからのリクエスト。龍神の娘、真の最終話となる一護復活編です。
話の盛り上がりもなんの萌えもなく、本当にただ目覚めさせただけ終わりにしてしまいましたが、私にはこれが限界でした。
折角リクエストくださったのにすみません。ノラさん本当にすみませんです・・・orz(超土下座)
本当は一護が起きれるようになり、ルキアと会話しているシーンも少し書いてはみたんですが、ただの状況説明で無駄に長い上そこにもなんの萌えもなく、
ならば思い切って全部カットし一護が目覚めてメデタシメデタシで乗り切ろう!と逃げに走りました。自分で自分に残念な終わりでしたが本当にこれが精一杯・・・
でも!一護はルキアの半身として無事目覚め、この世界の二人は今後決して離れる事はないのです!
その結末を文章に書き残せたところだけは、自分でも満足しております。でもそれも、リクエスト頂かなければ絶対に書きはしなかったでしょう。
終わりまで半端感はいなめませんが、これでハッピーエンドと言い切らせて頂きます!ノラさん!リクエスト頂き、本当にありがとうございました!!
2009.11.14

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