ルキアと初めて出会った日の夜、一護は、あの夢を見た。
地の奥底に浮かぶ、不思議な月の夢。

しかしその日みた夢は、いつもと少し違っていた。

自分が幼子のまま泣きじゃくっていると、足元が揺らめきあの月が見える。
そこまではいつも通りであったが、ここから先に変化があった。

幼子であった自分は、今現在の姿に成長し、地面に膝をつけ、今までになく遠く深くある月を見つめている。
そうして、気がついた。
月はひとつではなく、ふたつ浮かんでいることに。
ゆらゆらと揺らめく水底を映した神秘的な色を宿した月は、まるで、ルキアの双眸のように、ふたつ並んで一護を見つめる。



この世であらん限りの、優しさに溢れた光で。






『 龍神の娘 』 第三話





夕刻、沈んだまま村に着いた一護の元へ、
一護のたった一人の肉親であり村長である長く白い髭を蓄えた老人が、いつも付き添う二人の屈強な若者を従えてやってきた。

「一護。最近どこへ行っているのだ?」

「・・・・・おじぃ。」

「村がこのように大変な時期に何をしておる?少しでも働き、皆の助けになってやれ。」

「・・・・・・・・」


これに一護は俯き黙れば、村長は重いため息を吐き、厳しい口調で一護へと詰問する。

「一護、お前・・・・・最近、妖の森へ行っているそうであるな?」

「!!!だ・・・誰に、それを・・・」

「誰でもよい。・・・驚くと言う事は、本当なのだな?」

「で、でも!あいつは、悪い奴じゃない!!俺の事、助けてくれたんだ!」

「・・・やはり、行っているのだな?」

「あっ・・・・!」

一護がルキアの元へ通っているたのはもちろん誰にも黙っていた。
ただでさえ禁忌の森に入り込んでいるのだからそれは当然でもあるが、それは何よりルキアの存在を知られたくなかったからだ。
いくら力を失っていてもルキアは妖だ。未知なる存在が近くにあっては、誰がどんな事を言い出すかわかりはしない。
だからこそ隠し通したかったのに、一護は自分のあさはかさを呪いながら、慌てたように口を噤む。

そんな風に一護がハッとした様子で黙り込めば、その様子に村長は更に声を厳しく怒らせる。

「あいつとは妖か?それは、どんな者なのだ?」

「あいつは・・・・・ルキアは龍神だ。
小さな泉に、一人きりで暮らしている。
俺、森に迷い込んで困ってたら、帰り道を教えてくれたんだ。
それに水も恵んでくれた。・・・あいつは、いい妖なんだよ!!」

一護の叫びが完全に消えるまで村長は一護をひたと見つめる。
それからやけに緊迫した時間が流れるが、誰も口を開かずゆるゆると時が流れるのを一護が肌で感じていた。
目の前の村長はなにか深く思案にくれている。

やがて村長は、俯き加減だった顔を上げるとおもむろに口を開き、とんでもない事を口にした。


「・・・・・そ奴が、水を占有しているのか。」

「・・・・・・・・・・・・え?」

思いがけない村長の言葉に、一護は一瞬理解出来ずぽかんとして見つめるが、逆に村長の声に静かに力が満ちていく。


「その妖のせいで、ここには雨が降らず、病人が増え、作物が育たないのだな?」

「な、何を言ってるんだ!?違う!ルキアが、そんな事をしてる訳じゃない!!」

必死になって自分に詰め寄る孫の様子に、村長は少しだけ声音を優しく緩め、一護を労わるような眼差しを向ける。

「・・・・・可哀想に一護。お前はその妖に、たぶらかされている。」

「違う違う!!!ルキアは・・・・・ルキアは、俺を助けてくれたんだよ!!」

「もう良い。後の事はわしらに任せよ。お前は部屋で、大人しく待っていろ。・・・・・今夜の内に、全てが終わる。」

「いやだ!!おじぃ・・・!なにする気なんだよ?ルキアに、なにをする気なんだ!!!言えよ!!」

「一護・・・・・」

「許さねぇぞ!いくらおじぃでも、ルキアに何かしたら、絶対に許さねぇ!!」

「目を覚ませ一護!お前ももう立派な大人だ!あと二月もしたら隣村から嫁を向い入れる準備もしておるのだぞ!?
婚姻を済ませれば、後はわしの跡を継いで、お前はこの村を護っていく役目があるのだ!!!」

「そんなの・・・そんなのおじぃが勝手に決めたことだろう!?
俺は、嫁なんていらない!村長を継いだりする気もねぇんだ!
ルキアを殺してまで水が欲しいのか?俺は・・・俺は、そうまでしてこの村を護りたいなんて思わない!!!」

一護の叫びに老人は驚愕し、目を見開く。
こんな様子の一護を見るのは初めてなだけに、受けた衝撃は強く、老人は悲しげに声を下とした。

「お前は完全に妖に魅入られてしまった。そこまで、おかしくなっているのか?」

「俺はおかしくなんかねぇ!おかしいのは、おじぃの方だ!!!俺が護るのはルキアだ!ルキアは・・・ルキアは俺が護る!!」

「・・・・・やむをえまい。」

ひどく激昂しながら自分の腕を掴む孫の姿を憐れに思い、村長は側に控えた付き添いの者に頷き合図を送る。
その合図を受けた一人が音もなく一護の背後へと忍び寄り、素早く首に当て身をくらわせた。

「!?うっ・・・・・」

「許せよ一護。こうすることが、お前の為なのだ・・・」

短く呻き倒れた一護の姿を支えた村長は、もう一人控えていた者にその身を預け、静かに命じた。

「一護を牢へと、いれておけ。そして、早急に戦える者達を集めよ。今夜の内に、妖退治をせねばならん。」

命を受けた若者は小さく頷くと、すぐにその場から走り去る。
一人その場に残された老人は、きたる妖退治の準備をすべく、自室へと足早に歩み去った。






意識を失う瞬間、一護はルキアを思い強く願った。



逃げろ。ルキア。

どこか遠くに、逃げてくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いいわけ
 一護のおじいちゃんで村長さんは、山じぃのイメージでお願いします。
 山じぃ。・・・強くて頼りがいがあるけど、ちょっと人の意見聞かず、誤った判断しがちかなぁ・・・と思ったり。
 (ルキア処刑の時とかね。なんかちょっと色々・・・○都さんごめん!でも、素敵じじだと思うよ!)
 村を護るため、孫を護るため、村の長として危険分子の排除に向います。
 一護とルキア。二人を待ち受ける運命やいかに・・・!
 2009.6.17

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