『初恋 観覧車』 最終話   ―観覧車―


自分を見上げるルキアの熱い瞳に、言葉よりも明確な意志が読み取れ、一護は安堵して胸を撫で下ろす。
それから手をかけていた柵を背にして、悪戯っぽい笑みでルキアの顔を覗き込んだ。

「やっと了解してもらえたんだよな?・・・でさ、俺、今日誕生日だったんだけど?」

「あ!!・・・わ、忘れてなどおらぬぞ!ちゃんと前から準備して、浦原の家に置いてあるのだから!!」

慌てて弁明するルキアの様子を可笑しそうに眺めると、
一護はゆっくりと身体を起こしつつ、少しだけ言いにくそうにもごもごと口の中で呟く。

「実はさっき、浦原さんに聞いた。・・・・・・金、取られたけど。」

「金を取られた?なんだそれは!?なぜ、そうなるのだ!?」

「あの人、散々気になる言い方した挙句、ただじゃ話せないとか言い出すからさ・・・」

「浦原〜〜〜〜〜!全く、あの悪徳商人め!!!」

一護の説明にルキアは表情も豊かに歪め、握った拳をわなわなと震わせる。
しかし一護は、苦笑しながら言葉を続けた。

「それでも、誕生日割引で弐千円におまけしてくれた。
中身までは聞かなかったけど、俺の為に、何か作ってくれたって。
プラス千円で、極秘で俺の部屋に置いててくれるらしいから、それも頼んでおいた。
・・・あの人も、ただ話すんじゃ、話しにくかったんだろ?それくらいは、俺もわかるよ。」

「そうか・・・。すまんな一護。本当に、色々と・・・・・」

一護がルキアについて自分の元を訪れるのは、浦原には読めていた行動だ。
ただ教えるのではツマラナイし、からかいついでに少々利益を得ても問題はないと思ったのだろう。

自分があまりにも頑なな態度をとってしまった為、しなくてよい心配と喧嘩と出費をさせてしまった。
ルキアは申し訳なさそうに俯けば、一護は困ったように視線を落とす。

「気にすんなって。お前の事、知りたかったんだ。
俺が知らなくて、浦原さんは全部知ってて・・・・・餓鬼だよな。俺。男の嫉妬なんて、見苦しいだけなのに。」

「そんな事はない!私を気にかけてくれて・・・う、嬉しかったのだから。」

「そうか?・・・ありがとうな、ルキア。そして、ごめん。あんな事言って。」

「私の方こそ、配慮に欠けた言い方しか出来なくて、本当に、すまなかった。」

互いに頭を下げあい、同時に顔を上げて見つめれば、どちらからともなく笑い声が小さく響く。
つまらぬ意地をはりあってすれ違った気持ちが重なり合い、二人は満ち足りた想いで相手を見つめ微笑を溢れさせた。
なんとなく、まだ帰る気になれぬ思いに、一護はある提案をしてみる。

「・・・あのさ。もう一回、乗らないか?」

「乗る?観覧車にか?」

「そう。さっきは俺、久しぶりなのに全然風景楽しめなかった。・・・・・お前も、そうだろう?」

「本当に、いいのか?」

この提案に瞳を輝かすルキアの無防備な顔に、一護は笑いを堪え促す。

「良くなきゃ誘わねぇ。・・・じゃあ、行こうぜ。」

「うむ!・・・・・あっ・・・!」

またしても前を行く一護を、追い越す勢いで駆け出しそうなルキアの手を、狙いすました一護はしっかりと捕らえた。

「もう一人で・・・・勝手に行くなよ。」

「う・・・・む・・・・・・」

一護に手を繋がれ、ルキアは頬を赤らめながらも、従順に側に寄り添い歩いていく。
目の前の観覧車はライトに照らせ、先程とはまた違った厳かな様相で佇んでいる。
ルキアはこれを見上げ、本日何度目かの胸の高鳴りに、空いている手で胸元を押さえるのだった。

 

 

 

 

 

「・・・・・本当に、綺麗だな。」

「そうだな。やっと、ちゃんと見れた。」

「そ・・・そうだな。・・・・・私も、そうだ。」

初観覧車は一護にばかり気がいき、風景を楽しむどころではなかった。
昼と夜の狭間の瞬間も良かったが、完全に夜に包まれ、灯った明かりに彩られた風景もルキアには目新しく、
両手を窓にぺたりと張り付かせ、子供のように夢中になっている。
今度は最初からルキアの隣に座っている一護も、ルキアの頭の上から同じ方向を眺めていた。

「・・・・・そーいや俺、誕生日に家で過ごさなかったの、初めてだ。」

「!!そ、そうだ!妹君のことだから、今日はお前のお祝いに、とても張り切っていたのではないか!?」

焦ったように自分を見上げるルキアには視線を合わせず、一護は外を見たまま照れ臭そうに呟いた。

「ずいぶん前に、言っておいた。今日は、予定があるから後にしてくれって。」

「・・・・・一護。」

「俺だって、前から色々考えて、計画立ててたんだよ。・・・・その分なんか、色々裏目にばっか出てた気もするけど。」

「ありがとう、一護。こんなに嬉しい事は初めてだ。・・・本当に、本当に・・・本当に、ありがとう。」

ルキアは熱く潤む瞳で熱心に一護を見つめ、心からの感謝の言葉を伝える。
観覧車はそろそろ完全な死角になる天辺に到着する。
これに無意識に一護の喉がごくりと動き、すぐ下にいるルキアを見つめた。

「・・・・・そんなに感謝されんなら・・・俺も、お前から貰っていいか?」

「貰う?それはいいが、何が欲しい?ケーキはここにないし・・・・・後でもよいか?」

「いや・・・・今じゃなきゃ、だめなんだ。」

一護はルキアの顎にそっと手を添え上向かせると、慣れぬ行為にやや緊張したような面持ちで、二人の距離を縮めようとした。
これに驚いたルキアは、思わず身を引き、逃げ出しそうになりながら声を上げる。

「・・・いちっ・・・!」

「少し、黙ってろ。」



一護はこれを許さず、すぐルキアを窓際に追い詰め、軽く触れ合うだけのキスをその唇にそっと落とした。

 

 

 

 

 

「・・・・・まだ、見えているな。」

「あぁ。でかいからな。」

駅まで来た二人は振り向き、夜の闇にも負けず煌く巨大なその姿を見つめる。

観覧車。
あんなに乗りたいと思っていたが、まさかこんな形で夢が叶うなんて思わなかった。

ルキアは慣れぬ幸せな気持ちを噛み締めながらも、漠然と感じる一抹の不安に一護のシャツを僅かに掴み寄り添い呟く。

「なぁ一護。・・・・・また、来年、連れてきてくれるか?」

「別に一年待つことねーよ。来たかったら、いつでも連れてきてやる。」

「そうか・・・。そうだな。・・・・・ありがとう。」

そんなルキアの心情を察したのか、一護はシャツを掴む手を解くとしっかりと手に握り直し、安心させるように力強く言い切った。
これにルキアは嬉しげに微笑み頷く。
それから一護は観覧車へと背を向け、駅に向かって歩き始めた。

「家に、帰ろうぜ。」

「うむ。・・・・帰ろう。」


帰ろう。

二人の家に。


一護に引かれ、ルキアも大人しくその後へとついて行く。
これからもずっと、この手についていけばいい。
明確な理由もなく、心からルキアはそう信じる事が出来た。

繋いだ手から、温もりが伝わる。
それが嬉しくて。
その熱を少しでも強く感じたくて。
二人はどちらともなく少しだけ強く握り返す。



観覧車はそんな二人を見守るように、そこで静かに回り続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※2009年7月いっぱいをかけて、一護誕生をお祝いしてみました。
喧嘩して、すれ違って、それでも寄り添って。この二人はそれの繰り返しではないかと思われます。
原作で互いに代わりになれる人がいないと、早く気づいてくれることを願ってやみません。
前回乗った時は、告白だけでタイムアウトにしてしまったので、最後は観覧車でのお約束?『天辺でキス』をして頂きました。
うちの一護は結構奥手な部類だと思うので、告白した勢いで・・・!には至らず、
ルキアの真意を確かめてから後再チャレンジしてもらったのですが、それって慎重過ぎて逆にアウトか?
定番ながらも、観覧車に乗ってるのにナニもないってそれどーよ!?とか思ったのは私だけ・・・?
ベタなお約束って、ベタだな〜とは思っても、それがないと寂しくなる不思議な魔力があると思うのですがw
なにはともあれ、無事最後まで更新する事ができました!これも応援してくださる皆様のお陰でございます!
このような稚拙な駄文に最後までお付き合い下さり、本当にありがとうございました☆
2009.7.31

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