校庭の片隅に立派な大木がそびえ、その下で二人の男女が楽しげに語らっている。

「ああぁぁぁ〜〜〜〜っ。なぜっ!!なぜなんですか朽木さんーーー。
そんな変な赤頭のどこが良いのでしょう〜〜?!」
教室の窓にへばりつき、ケイゴはおいおいと泣き濡れた。

(・・・泣きたいのはこっちだよ。)
一護は窓から背を向け、ひどく不機嫌な表情で机に突っ伏す。





『 黒崎一護の憂鬱 』・後編





見なくてもわかる。
ケイゴが見ているのは朽木ルキアに阿散井恋次。
空座第一高等学校で今一番熱い噂の二人だ。
周囲の目をまるで気にしない二人の様子はまさに今が旬。

簡単に言えば『ラブラブ』状態。

毎日必ず二人の事を誰かが噂していた。
「屋上で抱き合っていた。」や
「踊り場でキスをしていた。」
等の芸能界ゴシップ記事に、勝るとも劣らぬものばかり。

嘘丸出しではあるものの、聞こえるたび一護の身体を負の熱が駆け巡るのを感じる。

そんな毎日に耐えかね、一度それとなくルキアに注意を促がした事があった。

 

「おめぇー、もう少し気をつけろよ。」
「なんのことだ?」

数日前の夜。
一護の部屋でテーブルを挟み、向かい合う形で座っていた。

湯上りにパジャマ姿でテレビを見ていたルキアは、大きな瞳をきょんと見開き一護を見つめる。
その瞳を直視できず、手元の雑誌に目を落としたまま一護は言う。

「恋次とデキてるって噂で持ちきりだぞ。」
「なんだ?なにがデキるんだ?」
「・・・付き合ってるって言われてんだよ。」
「あぁっ!どうやらそうことになっているらしいな。」

明るく言われ一護は正直心底うんざりした。
(知ってんなら注意しろよ・・・)

俺のように、学校では恋次と距離をおく選択肢はなかったようだ。
そう思うと余計腹が立つ。

「そういうことって、お前なぁ。」
「良いのだ。」
もう話は終わったとばかりに、ルキアの視線はテレビに戻り、一護はやっぱりその態度に苛つきを感じる。
「恋次は昔からの友人だ。あいつも気にしてもいない。だからいいんだ。
本当になんでもない風に言い切られ、一護はしばし唖然とした。

(俺とは違う・・・ってことだよな。)

強い敗北感にもう言うべき言葉が見つからず、そんな自分を誤魔化す為に、
その夜は全く内容が頭に入らない雑誌をいつまでもいつまでもめくっていた。

 

うおおおおっ!!
「にゃっ!にゃにしてんだぁーーーー!!!!!」

一護の思考はケイゴの叫びと、教室を満たすどよめきによって遮断された。

ケイゴの方を見ると、窓際に皆集まり皆口々に何か言っていた。
「・・・どうかしたのか?」
「くっ、朽木さぁぁぁぁぁん・・・」
ケイゴは恨めしげに呻き、これ以上ないほど窓へ顔を押し付け、一点を凝視する。

そちらへ視線を移すと、一護はその場で凍りつく。

二人は木の下で抱き合っているようだった。

真実はコケたルキアを恋次が受け止めた程度ではあったのだが、
注目されているのを承知の上で、皆をからかおうと悪ふざけをした二人の悪戯でもあった。

(あいつ・・・!!)
一護は知らず唇をきつく噛み、その場に居ることさえ耐え切れず拳を固く握り締めながら踵を返し足早に教室を出た。

 

 

「一護!」
階段上から呼びかけられ、一護はハッと振り仰ぐ。

呼びかけてきたのは恋次。
噂の一人だ。
正直あまり見たくなかった顔に、自然と顔が不機嫌に歪むのがわかった。

「?どうかしたか?」
「・・・いや、別に。」

恋次が悪い訳ではない。
でもどうしても気分が悪い。
さっさと会話を切り上げ、この場を去りたかった。

「用件はなんだよ。俺ちょっと用事あっから・・・」
「あぁっ?!なんだ、そうかよ。んじゃいいや。たいした話じゃねぇしな。」
一護の言葉に微かな棘を感じ取り、恋次も憮然とした態度になる。

(俺ってどーしよーもねー・・・)
自己嫌悪を感じながらも制御できない感情を、これ以上露呈してしまわないうちに去ろうとしたその時。


「あら、阿散井くん。」
階段を上がってきたルキアに会った。


一護の横から恋次にだけ声をかける。
一護の胸がその瞬間に黒く焦げた。

二人が揃ったことで、階段付近にいた生徒達はなんとなくザワつきはじめ、
無関心を装いながらそちらの様子に全神経を集めていくのがわかった。

「ちょうど良かったですわ。お聞きしたい事がありましたから。」
「へーへー。朽木さん。なんでしょうかねぇ?」
妙な演技をするルキアをおかしがり、おどけた風に恋次も返す。

一護の横を素通りすると、ルキアは恋次目指して階段を上がる。

一護は自分でも知らないうちに身体が動き、後ろからルキアの腕を自分の方へ思い切り引っ張った。

「なっ?!」
力ずくで腕を引かれ、当然ルキアはなすすべも無く一護の元へ後ろから倒れこむ。


「恋次恋次って、いい加減にしろ!!」
倒れこんできたルキアを後ろからしっかりと抱きとめると、上から顔を覗き込みながら一護は怒鳴った。


「・・・いち・・ご?」
呆然とルキアは呟く。

恋次も唖然として二人を見下ろす。
周囲の生徒達も言葉もなく三人を見守る。

短くも果てしなく長い静寂の数秒後、最初に正気に戻ったのは一護だった。

「!!なっ、なっ、なっ、なっ、なーんてな!!!」
瞬時に顔を真っ赤にすると、あせってルキアを解放し、ざざざっと後方へ飛びのいた。

冗談で誤魔化すつもりだったが、こんな様子で誤魔化されるものなど当然だがいなかった。

魔法が解けたように、目撃者達のざわめきが起こる。
「ルッ、ルキア!あれ!あれねぇのか?あの・・なんかこう・・・ボーンってなると記憶消すやつ!!」
「・・・忘れた。」
「恋次!恋次!お前ないのか?!」
「持ってねぇよ。」
「〜〜〜〜んじゃ、どーすりゃいいんだよ?!」
「俺が知るか。」

少々錯乱気味に恋次と言い合う一護達を残し、周囲の生徒達はこのニュースを広く伝えるため、足早く散っていた。


次の日から「噂の二人」に一人増えていた事は言うまでもない・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いいわけ
 うちの一護は意地っ張りの格好つけなので、追い詰められないと行動出来ません。
 更にうちの恋次はルキアに片恋していますが、ルキアが一護を好きなのを知っているので行動できません。いい奴。
 最近ブリーチ読み直したら、ビックリする位恋次がルキアルキア言っててこんなに好きなのか!って思いました。
 でも私はイチルキ推奨なんで、ごめんね恋次。ここでは成就させないよ(笑)
 2008.5

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