一護は首をゴキッとならすと、座ったまま仰け反り伸びをする。
なぜか異様に疲れた。
教室は最後の授業が終わって、賑やかにざわめいている。
一護は皆と同じように帰り支度もせずに、座ったまま大きくタメ息をついた。





『 黒崎一護の憂鬱 』・前編






「いいっちごーーーー!かっえろーぜぇっ
すでに鞄を抱えたケイゴが側に駆け寄って来た。
その後から水色もやって来る。
「どしたのさ?ずいぶんぼんやりしてるけど?」
「・・・なんでもねぇよ。」
普段以上の仏頂面で一護は鞄を開き、だるそうに教科書類をしまい始める。

そこへ何気なく校庭を見ていたケイゴが、突然窓にへばりつき大声で叫んだ。
「ややっ?!あそこにいるのは朽木さんっ!なんであんな変な赤毛頭と下校デートぉ?!」


バサササッ


一護はつい反応してしまい、手にしていたノートを派手に床へと散らばした。

玄関から出たばかりの所に正門に向って一緒に歩く、やたら背の高い赤い髪の男と、やけに背の低い黒髪の女がいた。
その二人は間違いなく阿散井恋次と朽木ルキアであった。

一護は落としたノートを慌てて拾い集めていると、頭上から水色の声が降る。

「・・・フラレちゃったの?」
「だっ!誰がだよ!!!」

声の方へ勢いよく振り向き、思いっきり言い放ったが、
「へーっ」
にまっと笑った水色と目が合った。

「『なにが』じゃなく、『誰が』なんだね−
「!!!っ」

身に覚えがあるんだぁ。と明るく笑い飛ばす水色に、一護はうまい言い訳が思いつかず、
やおら立ち上がると満身の力を込め頭めがけて殴りつけるのだった。
 

 

『浦原から招集。今日は恋次と一緒に帰る』

さっき渡された小さなメモ。ノートの端を切り取ったものだ。
授業中に落とした消しゴムを拾われ、共に渡された。
二人の関係が噂になることを嫌がる一護の為、ルキアなりに気遣っての行為だった。

学校にいる間、余程緊急でない限りルキアはほとんど話し掛けてはこない。
挙句隣席にもかかわらず、一護の方もあまり向かない。

ちょっと極端すぎるルキアの対応に、言い様のない苛立ちを覚える。

今一番ルキアの『恋人』と噂されているのは、もちろん長身赤髪の『阿波来恋次』だ。

そうは言っても二人きりより死神仲間と団体行動も多いのだが、
たまに二人になるのは決まって恋次なので噂になるのも当然といえば当然だった。

幼馴染の二人は周囲を気にすることなく、ひどく仲睦まじい。

ルキアも恋次の前ではお嬢様キャラを忘れがちになり、素のまま笑っていたりするので、
彼の前では自然体になれるのだと皆囁いている。

(・・・・・)
当の一護は鬱陶しい思いをしなくて済み、せいせいしているはずなのだが・・・


今は別の感情に悩んでいた。

 

 

「・・・っだいまー」
自宅に着くとすぐにリビングのソファへ制服のままぐったりと寝そべる。

「おかえり・・って、あーっ!お兄ちゃん!!制服シワになるから着替えてきてよぅ!」
すかさず台所で夕飯の支度をしていた遊子から注意が飛んだ。

「・・・少し休んだらな。」
力なく返答を返し、静かに目を閉じる。

「・・・お兄ちゃん?どうかした?具合でも悪いの?」
普段と違う一護の様子に心配した遊子は、すぐソファまで駆け寄ってきた。
「いや、大丈夫だ。・・・今日はちょっと疲れたからな。」
妹思いの一護はすぐ目を開け、安心させる為に笑って見せながら遊子の頭を軽く叩く。
その様子に安心した遊子は、はりきって腕をまくる。
「じゃあすぐご飯にするからね!」
とだけ言うと台所へと戻り返った。

(・・・あんまり長いこと居れねぇな。)
夕飯までずーっとこうしていたら、また入らぬ心配をかけてしまいそうで、仕方なく一護は部屋へと向かう。

「あっ、お兄ちゃん!ルキアちゃんは?」


ドクッ


遊子が言った名が心臓を掴む。
その名に激しく反応する自分にやや驚きながら、つとめて冷静に返事を返す。
「いやっ、あ、ああっ。友達の家行ってるみたいだ。たぶん夕飯には帰ると思うけどな。」
そっかーと遊子の声が聞こえたが、すぐ逃げるように階段を駆け上がり自室へと飛び込んだ。

 

飛び込んだ部屋は夕日に染まり、完全な静寂に沈んでいる。
自分仕様に育ち馴染んだ部屋なのに、妙な違和感を感じ寒々しくて物足りない。

なにが足りない?

そう思った途端、すぐ頭の中に黒髪の小さな死神が浮かんだ。

(なんなんだ?俺はどうした?!)


今まで経験したことのない気分。
胸がモヤモヤして晴れない気持ち。
いてもたってもいられない。
でも何をすればいいのかわからない。
イライラとフワフワとウズウズするようなこの感覚はなんなのか?


訳がわからず動揺する。


わからないが色んな感情が胸の中で渦巻き過ぎて、気持ちが悪い。
突然一護は勢いよく部屋の窓を開けると、そのまま外に向かって大声で吼えた。

「うっ・・・わあああああああああああああああぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!」

この感情を全て吐き出すことを願っての咆哮。


この感情の名を、俺はまだ知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いいわけ
 ルキアを意識しているのに認められない、認めたくない一護を表現したかったのですが・・・(説明しちゃった☆)
 こんな奴いないですよね?いたらヤバい(笑)内容なくてスミマセン。
 でも素直になれなくて意地っ張りな一護が好きなもので。
 2008.5

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