梅雨が明け、これから暑くなりはじめる気持ちの良い初夏。
ルキアと一護は連れ立って浦原商店へやってきた。
開け放たれた扉の前で店内に向かってそれぞれ声を掛ける。

「邪魔するぞ。」
「うぃーす。」





『 甘 い 罠 』






浦原商店はおやつの時間らしく、店内に設置されたたたきの上にある小さな畳のスペースに皆座って、
おやつのシュークリームを頬張っていた。
「おや、これはこれはお二人共。丁度いいところに。」
「げっ・・・なんだよ。」
「・・・こんにちは。」
「いらっしゃいませ。」

向って右から見回すと、浦原は機嫌良く二人を招き入れ、ジン太はふてくされた顔で睨みつけ、
ウルルはいつも通りぼんやりした様子で頭を下げ、テッサイは異様に姿勢よく背筋をピンと伸ばしたまま正座をしていた。

「休憩時間か。これは悪い所に来たな。」
「ぜーんぜんですよ。たくさんあるので、お二人もどーぞ
詫びるルキアに、浦原は扇子を振って自分の側に空きを作る。
「良いのか?ならば遠慮なく御馳走になろうか?」
ルキアは明らかに瞳を輝かせ一護に問う。
「・・・んじゃ、いただきます。」

一護はあまり乗り気でもなかったが、折角の誘いを断るのも失礼だし、なによりルキアが喜んでいる。
浦原の側にルキアが座り、一護はテッサイの手前に空きを見つけ座る。

テッサイは手早く二人の為に茶と茶菓子を用意してくれた。
(・・・シュークリームに緑茶は合うのだろうか?)
などと一護は心で疑問に思いながらも、とりあず茶を一口啜った。

「ごっちそーさーん。」
来客のせいで居心地が悪くなったのか、ジン太が立ち上がり勢い良く店を飛び出す。
「御馳走様でした。」
ウルルはボソっと呟き、自分とジン太の分の後片付けを始める。
それをテッサイが優しく制し、ウルルはペコっとお辞儀をして店の奥へ去った。
テッサイはすぐに三人分の食器をまとめると、
「どうぞごゆっくり。」
と二人に声をかけ、一礼して台所へ向い、後には三人だけが残った。

「おぉっ?!これはうまいな!!」
ルキアは一口食べると、更に瞳が輝かせ驚嘆の声を出す。
「でしょう?1時間で売り切れる伝説のシュークリームですから。」
浦原もニコニコと得意げに語る。

二人から少し離れた場所で、なんとなく疎外感を感じつつ一護も一口かぶりついてみた。
「あっ、うまい。」
「なんだ、つまらんやつだな。こんなにうまいのだからもっと感動せんか!」
ルキアは無邪気にはしゃぎながら、夢中になって食べ始める。

そんな彼女の様子に一護は自然と頬が緩むのを感じ、慌てて表情を引き締めた。
(危なねぇ。ルキア見ながらニヤけてんの見られたら・・・)
からかうのが好きな浦原の事、何を言い出されるかわかったもんじゃない。

可愛いルキアから無理矢理目をそむけ、残った緑茶をグイッと飲み干す。
「なんだ一護、そんなに残すのか?もったいない!私がもらってやろう。」
すでに食べ終わったルキアは、一口しか食べられていない一護のシュークリームに狙いをつける。

「ばぁーか。今から食うんだよ。」
いつもの調子で軽く応じ、ルキアを見ると一護は思わず吹き出した。

「?なんだ?人の顔を見て噴出すとは失礼な奴だ。」
ルキアは軽くむくれて抗議するが無理もない。

彼女の唇の横に真っ白なクリームがちょこんとついている。

ルキアの顔を覗き込んだ浦原もありゃりゃ〜と間抜けな声を出す。
二人の様子に慌てたルキアは片手で頬を擦る。
「なんだ?なにかついているのか?」

全く見当違いな場所を一生懸命探るので、たまらず一護は声をかけた。
「違う違う、そっちじゃねぇって。こっちの・・・!!!」

クリームを指差し場所を示そうとした声は途中で止まる。

ぺろり

横から浦原がそのクリームを舐めとった。


一護もルキアも完全に動きが止まる。


「!!!!っ、なっ、なっ、なっ、なにをする?!」
「はい。綺麗になりましたよ。」

突然の事に狼狽し、身を引き頬を真っ赤に硬直させ怒鳴るルキアに対し、
にこーっと浦原は悪びれもせず、良かったですねぇ。とも付け加えた。


ぐわばっ

音がしそうな勢いで一護はルキアを抱え、背中に庇う。

「・・・なにしやがる。」
一護は怒鳴るより強い怒りを感じる低い声で浦原を睨みつけた。

「なにって、綺麗にしてさしあげたかっただけなんですけどねぇ。」
あくまで惚けた対応しかしない浦原だったが、帽子の奥から光る目が妙に鋭く一護を見ていた。

(!・・・やろう!!)

挑発してやがる。

その目に一護は理解した。
浦原は二人の間柄を知った上でこんな事をしていたのだ。

すぐ熱くなる一護を見て笑っているのか、ルキアに好意を持っているのか、
あるいはその両方なのか全く別の理由か定かではないが、明らかな意志を持っての行為だと知った。


「っ!!帰るぞ!!!」
一護は搾り出すように怒鳴ると、まだ赤い顔で硬直したままのルキアを半ば引きずるようにともない足音荒く店を後にする。

怒り狂う一護の背中に
「はいはい、またどうぞー♪」
と、どこまでも癇に障る呑気な声が追いかけてきた。


(もうこねぇよ!!!)
一護は心で叫び飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いいわけ
 私の書くものは大体こんな感じです。ルキアがモテるので苛々させられてばかりの一護。ワンパターン。
 でも大大好物なのできっと止まらないと思います!(堂々)
 今後もこんな感じばかりになると思いますが、それでも宜しければお付き合い願います。
 実はこれには続きがありますが、それは『裏めにゅう』R18になります。興味ある方はそちらへどうぞ・・・                       2008.4

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