流れていく。
今日も、時間は流れていく。
その流れは止まらない。
あの日から俺の心は止まっているのに、それでも時は流れていくのだから。
それは、誰の上にも平等に。
どんなにあの時に戻りたいと願っても、非情なまでに、残酷に、決して立ち止まることなく、
どこまでも、流れ続けていくんだ。
『 Flow 』
昨日と変わりなく朝日が昇り夜がしらじらと明けていく様を、
一護は布団の上に起き上がった状態で微動だにせずじっと見つめている。
ああ・・・朝だ。
今日も変わらず、いつもの朝がやってきた。
窓から覗く空は快晴で、今日も良い天気になりそうだ。
見上げる空はぬけるように青く静かで、霊のひとつも飛んでいない。
聞こえてくるのも小鳥の声だけで、平穏な朝そのもの。
なのに・・・
それなのに、俺は、俺はなぜこんなにも・・・・・
「おにいちゃーん!朝ですよー!!起きてー!!」
階下からシンと響く静寂を破る妹の元気な声に、一護は小さく溜息をつくと、何か諦めたようにそっと視線を伏せた。
そして、気配はわからずとも、もしや見ているかもしれぬ誰かに言い訳するように、一護はぽつりと呟きを落とす。
「眠みィ」
平和と静寂に満ちた、いつもの『空白の一日』が、始まる。
時の流れは早いもので、俺が霊力を失ったばかりのあの頃小学生だった妹達が中学生になり、一護は17歳で高三になっていた。
でも、一護が霊力を失くした事以外はあの頃と大きな違いは特になく、
クラスは違うが水色とは変わらず一緒に登校してるし、啓吾は相変わらずウザいままだ。
そういえば、あの頃と大きく違うことがひとつあった。
空座町担当の死神が予想以上に頼りにならないらしく、一護の変わりに石田が虚退治に教室を飛び出して行くようになっている。
石田は義骸で誤魔化すことが出来ないので、やけに元気よく保健室へ行くと言いながらどこかへ飛び出していくのが今では当たり前になっていた。石田の成績は首席のままだから担任も下手に怒れないらしい。その辺のデキが一護とは違うところだろう。
一護は霊力を失い死神代行の身分を返上し自由な時間を手に入れたものの、やっと手に入れた自由な時間をあまり有効に生かすことが出来ずにいた。とりあえず静か過ぎる日常の空虚を埋めようとバイトを始めてみたものの、何をしていても身が入らず、とにかくぼーっとしていることが多くなった。そのせいかテストの順位も段々と下降していき、今では中のぎりぎり上をキープするのがやっとの状態。将来の夢も定まらず、時の流れにただ身を任せこなしていくだけの日々。
霊に邪魔されない静かで平穏な毎日。
これだったのだろうか。
俺は、こんな生活に憧れていたのか?
俺が本当に欲しかったのは、こんなものだったのだろうか?
明らかに違うと思いながら、そんな疑問を覚える自分の気持ちを誤魔化すように、俺はいつも呪文のように唱える。
『俺は 憧れていたものに なれたんだ』
それなのに。
「・・・ルキアちゃん 何してんだろうな」
授業の合間の休み時間。
やけに天気が良く、俺はいつもの紙パックジュースを片手に啓吾と屋上へと来ていた。
まだ定まらぬ漠然とした将来への不安を呟いた後に、そんな俺の思いを知ってか知らずか、
あの戦いの後、妙に勘の鋭くなった啓吾が無造作にあいつの事を言い出した。
あれからルキアは、空座町に来ていない・・・らしい。
一瞬、口にしたジュースを噴出しそうになるのを必死でこらえ無理に飲み下し、
それからこちらもできるだけ無造作にあいつの名を口にした。
「なんでソコでルキアが出てくんだよ」
「だってさー たまにはカオぐらい見せてくれても良くね?」
折角見せてくれたとしても、義骸に入ってくれなきゃ今の俺には見えねーんだよ!
そんな苛立ちを隠しながら、更に冷たく啓吾を突き放す。
しかし啓吾は譲らない。
「・・・淋しくね?」
「淋しいワケねえだろ」
『あれだけの戦いを共に戦い抜いた同士なのだから、あいつらもたまにはこっちに遊びにくればいいのにな。』
と、でも言ってくれた方がまだ本心を偽れたのに。
一護のあの返答が、背中が、隠しきれない寂しさを語っている。
どうしようもなく強がりな間髪入れず即答する一護の背中を見て、やはり何かを感じ取った啓吾はそこで質問を諦めた。
淋しいと認めたところで会えるわけでもないのなら、淋しくないと言い張るしか出来ない不器用な友人を啓吾は見守るしか出来ないのだから。
霊力を失ったあの日から。
ルキアを失ったあの日から。
一護の心は止まっている。
それは、かつて大切な母を己の責任で失った時とは違う喪失感。
霊の存在が見えぬ憧れの生活を手に入れたはずなのに、
これで良かったはずなのに、
使命を果たしたはずなのに、
なぜ俺はこんなにも前を向いて進めないのだろう。
あれからずっとよく眠れぬ夜を過ごしては、
目覚めた時突然霊力が戻っているかもしれぬと思っては、
結局何も聞こえず見えない朝を迎え、何度でも絶望を繰り返す。
一護の毎日は空虚で、単調で、緩慢に、ただただ流れ過ぎていく。
言うまでもない。
理由はひとつ。
誰よりも大切な人を失ったのだ。
その人を失った未来に夢など持てるはずもない。
わかってる。
そんなこと、本当はわかってるんだ。
あいつに会えなくてそりゃ淋しいさ。
淋しいなんて言葉ひとつで片がつかねーくらい。
俺の中が空っぽになったと思う位、淋しくて淋しくて仕方ない。
ただ、それを口にしたところで、なんにもならないこともわかっている。
ならば、誰にもこの気持ちを知られぬようにしておかねばならない。
俺の心に住む彼女の存在を、誰ともわかちあいたくはない。
この気持ちは、あいつを想う気持ちは、俺だけのものだから。
それくらいのエゴはいいよな?
もう二度と会えはしないのに、いつまでもお前を想い続けることを許してくれ。
それともこの空虚な時が流れに流れれば、いつかお前を忘れられるだろうか?
お前の顔も声も全て忘れ、お前以上に大切な存在が現れるんだろうか?
そんな時もあった。なんて、心から笑える日がくるんだろうか?
今の俺にはとても信じられないし、信じたくもないことだが。
あと何度、絶望の朝を迎えれば俺はお前に会えるだろう。
俺は今でも、お前だけを、求めている。
どんなに時間が経とうとも。
ルキア。
お前を知った今となっては、憧れていたはずの生活が、苦痛でしかないみたいだ。
※新章再開!が、あまりにも無視できないイチルキっぷりに捏造魂が疼く疼く!
だってさ!原作であんなにも露骨に一護→ルキア描写ってさ!すっごい幸せ!最高だよね☆
立ち読みしようと本誌を開いた瞬間に、一護がとっくに起きてるとか、カーテンがすでに開けられキチンと留められてるとか、それってよく眠れなくてとっくに起きてたってことで、眠れてない原因がルキアの事でしかないんじゃん!?と思い込んだら捏造話が閃いてしまいかなりときめいたwww
でも実際、原作一護はルキアの事を恋焦がれているのだし(その証拠に自由になった時間が増えたにも関わらず成績が下降していったって・・・!それって時間あるのに勉強する気が起きなくて、それはつまりルキアに会えないからであってと・・・あああああ!叫)
私の捏造話も案外嘘八百ってわけじゃないと信じてる。(信じたい)
そして次ルキアと一護が再会したら、今度こそ互いを意識した甘酸っぱいラブコメ展開希望して期待。しかしイチルキはいいよ・・・!
2010.12.31
material by 戦場に猫