小雨降る休日の昼下がり。
静寂を破り、一護の部屋のドアが勢い良く開かれる。
「一護、遊びに行こう!」
「・・・・あぁ?」
『 二人の休日 』
机に座っていた一護はドアへと振り向き眉間に皺を寄せ、飛び込んでいたルキアを見るが、
ルキアはまるで気にせずてこてこと一護のすぐ側に近づいた。
「折角の休日を自宅で過ごすなどつまらんではないか!どこかに連れて行け!」
「・・・雨、降ってんのにか?」
「建物の中まで、雨は降らんであろう。」
「あーのーなぁ!今、俺がなにやってっか、見えねぇのか?」
「む?なにをしているのだ?」
「勉強だよ。お勉強してんだよ!」
一護は机の上に広げられた教科書やノートを軽く叩きルキアの注意を引く。
ルキアはそれらを見下ろし、きょとんとした様子で言った。
「勉強?休みの日にまでか?貴様、意外にも頭はいい方なのであろう?」
「意外は余計だっつーの!・・・休みの日でも勉強すっから、頭いい方でいられんだろうが。
大体、今週はやたら虚が出て、ただでさえ時間なくて予習も復習も出来てねぇんだから、休みの日くらい好きにさせろ!」
「・・・若いくせに、つまらん奴だな。」
「なんか言ったか!?」
「なんでもない。」
一護が思い切り睨みつければ、ルキアはすぐさま澄ました様子で顔を背ける。
すぐに一護は諦めたようにルキアから視線を逸らし、頬杖をつき溜息をついた。
そこでルキアは視線を一護へと戻し、一護の明るいオレンジの髪を眺めながら口の中で何事か呟やく。
「・・・・でも、そうだな。
今週は夜中に三度も虚が出たことだし、特別に貴様を労ってやっても良い。・・・では来い!一護!!」
「うわっ!?な、なにすんだ!おまっ・・・!人の話し、聞いてなかったのか!?」
頬杖をついていた方の腕を突然グンッと引っ張られ、バランスを崩し椅子から転げ落ちそうになりながら、
一護は叫ぶがルキアは全く気にもせず、少しだけ部屋をうろついた後さっさとベットへ腰掛け、その隣りをバンバンと叩く。
「座れ!」
「・・・・完全に聞いてねぇな。」
「いいから座れ!ぐずぐずするな!」
「な、なんだよ一体!?」
仕方なく一護が座れば、今度はルキアは一護を見つめたまま自分の膝を両手で軽く叩く。
「よし!良いぞ!」
「・・・はぁ?なにがいいんだ?」
「察しの悪い奴だ!ここに、頭を乗せろ。」
「・・・・・はあぁっ???」
ルキアの申し出に一護は顔を赤らめ思わず身を引く。
しかしルキアはまたしても一護の腕を引き、強引に引き倒そうとした。
「良いから!早く!!」
「なっ・・・!お、おい・・・!!!」
動揺する一護に構わず、ルキアは膝の上に一護の頭を抱え満足そうに微笑んだ。
しかし一護は全身から奇妙な汗が噴出すのを感じながら、顔を赤くしつつも極力冷静さを装い演じる。
「ふむ。やっと言う事を聞いたな。」
「これは、なんなんですか。朽木さん・・・」
「なんだ知らんのか?これは、膝枕だ。」
「や・・・。そうではなくて・・・なぜ、膝枕をする必要が・・・」
「だから!特別に労ってやると言っている!・・・危ないから、動くなよ。」
「危ない?おい!なにしようと・・・!!」
「こら!動くと危ないであろう!!」
「・・・・・・・・」
危ないの一言に驚き動こうとした一護の頭を、ルキアは両手でしっかりと押さえ込む。
そしてその手に耳かきが握られているのを確認し、一護は無言で動きを止めた。
そうしてやっと目的を遂行することが出来、ルキアは嬉々として一護の耳を軽く摘む。
「ほー。結構溜め込んでおるな。取りがいがありそうなやつがいる。」
「・・・汚くて、すみませんね。」
「何を言う!取る物があってこそ、耳かきの醍醐味だ!・・・少し、ジッとしていろ・・・」
「・・・・・・」
意外にも器用な手つきで、ルキアはうまく耳かきを操りだす。
ルキアの手元の慎重さに、一護はひとまず安堵し、それからふと考えた。
そういえば、誰かに耳かきをしてもらうなんて、いつ以来の事だったろう?
思い出せるのは、母が生きていた時代。
それだけ遠い昔の出来事。
父親は幼い妹達の世話に忙しく、耳の違和感に綿棒を使い、いつの間にか一護は自分でやるようになっていた。
この年になって、また誰かにやってもらえるなんて。
それは気恥ずかしくもあるが、なんだか嬉しいことでもあり、一護は静かに亡き母の幸せな思い出に浸る。
「・・・よし!こっちはもう良いぞ。次は反対を向け。」
「お・・・おぉっ・・・」
しかし反対を向くと、今度は目の前がルキアの腹部になり、それは母の思い出を消し去り、別の思いに一護の鼓動は早くなる。
義骸は精巧に出来ており、感触は本物そっくりで、ルキアの身体から少しだけ熱く体温を感じ、
その熱を意識した一護の頬はどんどん熱くなっていった。
そんな一護の頭上で、ルキアの呑気な叫びが響く。
「おぉっ!?一護!!こっちにはすごいのがおるぞ!!!久々の大物だ!貴様、これで良く聞こえたものだ!」
「う、うるせぇよ・・・・・」
「待っておれ。すぐに・・・取り出してやる・・・」
「・・・・」
ルキアは耳に顔を寄せ、それに伴いルキアの胸が一護の顔に近づく。
一護は心の中で意識するな意識するなと呪文のように繰り返しつつ、
それでも意識は息づくルキアの吐息や、すぐそこにある胸へと集中する。
最早一護の心臓はバクバクと脈打ち、おかしな汗は全身から垂れ流れ、
ベットを濡らしてしまうのではないかと一護が危惧し始めた頃、頭上から満足そうなルキアの声が響いた。
「よし!取れたぞ!!・・・どうだ一護!これはすごいだろう!?」
「・・・まじで、でっけーな。オイ。」
得意満面のルキアは、耳かきを一護の目の前に差し出した。
そこには確かに大物が居座り、一護も驚き身体を起こそうとする。
しかしその頭は、またしてもルキアによって乱暴に押さえつけられた。
「あぁこら!まだ終わりではない!細かいものがまだ残っている。もう一度ちゃんと見せろ!」
「ま、まだかよ・・・」
文句を言うフリをしながら、まだルキアと密着していられることの嬉しさに、今度は大人しく頭を乗せた。
ルキアはティッシュで耳かきを拭いてから、また一護の耳を覗き込みつつ呟く。
「・・・ふふっ。でもこうしていると、昔の事を思い出すな。」
「思い出す?・・・・・何を?」
俺が母さんを思い出したように、お前にもこれで思い出す思い出があるのか。
ルキアは丸めたティッシュを、ゴミ箱めがけて投げながらそう言うので、
一護はそのティッシュの軌道を目で追いながら何気なく聞いた。
一護の問いに、ルキアも何気なく答える。
そう、とても何気なく。
ルキアの投げたゴミが、スポンと入るのを見届けてからルキアは言った。
「恋次を。」
「・・・・・・・・・・・はあああああっ!???」
少々の時間差で一護は堪らずがばっ!と身体を起こし、ルキアと顔を見合わせた。
「ば、莫迦者!!急に動くな!鬼道で治せるとはいえ、耳の中を傷つけては大変であろう!!」
ルキアといえば、今まさに耳に棒を差し込もうとしていた所で、あまりの危ない行為に目を見開き怒鳴りつける。
しかし一護にしたらそれどころではない。
自分も母を思い出しはしたが、それはあくまでも肉親だ。
ルキアにとっては幼少時から共に育った恋次は肉親みたいなものかもしれないが、
恋次の秘めた想いを知る一護は気が気ではなく、
同時にひどく腹立たしい思いでいっぱいになりながら、叫ぶようにルキアへと問う。
「それより!お前、なんでこれで、恋次なんか思い出すんだよ!」
「?恋次は耳かきが苦手で、子供の頃、私がよくしてやったからだが?」
「ひ、膝枕でか?」
「当然であろう。」
「なんで!?」
「なんで?なんでとはなんだ?膝枕せず耳かきをする方法があるのか?
お前が何を疑問に思っているのか、私にはさっぱりわからん。」
一護の突然の剣幕にびっくりしながら、眉間に皺寄せルキアは不思議そうにしている。
すると一護はぐっと押し黙り、無言のままルキアへ背中を向けながらも、もう一度膝に頭を乗せて横たわる。
これにはルキアも驚き、気遣わしげな視線で一護を見下ろしながら、なんとなくその明るい髪を優しく撫でた。
「・・・・・・・・」
「・・・どうしたんだ?一護。私は何か、気に障ることをしてしまったか??」
「・・・・・・・」
「なぁ、一護。具合でも、悪いのか?」
「・・・・・・ムカつくなー。」
「え?」
「俺がこうしてて、思いだすのが別の男って・・・なんか・・・・・すげー・・・・すげームカつく。」
「・・・なんだ?一護。よく聞こえない・・・・・んっ!!」
膝の上でぼそぼそと呟く一護の声が聞き取れず顔を近づけたルキアの頭を、
一護は突然片腕を伸ばし、後頭部を掴むようにして自分の方へ引き寄せ、その唇に唇を重ね吐息ごと奪う。
しかしそれも一瞬で、一護はすぐに唇を離すと、驚き顔を真っ赤にした涙目のルキアと見つめ合い、一護は少しだけ切なげな声で囁く。
「・・・これでもか?」
「・・・え?・・・なに・・・」
「これでも・・・俺より、恋次の事、思い出すのか?」
「い、一護・・・・!んっ・・・!!」
ルキアの返事を待たず、一護は再びルキアの唇の唇に吸い付き塞いでしまう。
そしてそのままルキアを抱き締め、熱い熱い口付けは長い時間繰り返された。
「また、してくれよ。」
熱い口付けの後、ルキアと一緒にベットの上で寝転がりながら一護は囁き、
それに反応したルキアは真っ赤な顔で一護を見上げ怒鳴る。
「・・・な、なにをする気だ!!」
「なにって、耳かき。だろ?」
「・・・・・・・!!」
「お前今、何想像したんだよ。・・・・・やらしー。」
「た、たわけ!!いやらしいのは、貴様であろう!!」
動揺したルキアの様子が愛おしくも可笑しく、一護はからかうように笑いながら言えば、
ムキになったルキアは腕を振り上げ思い切り頭を殴りつけてきた。
「ってぇっ!!おま・・・ちょっとは力抜け!本気で痛ぇんだぞ!?」
「煩い!折角たまには、労ってやろうと思えば貴様という奴は・・・!」
「だから、充分労われたって。
・・・耳かきしてもらうなんて、久しぶりで嬉しかった。ありがとうな。ルキア。」
「・・・う・・うむ。・・・そ、そうか。・・・それなら、良かった。」
素直に一護に礼を言われ、ルキアは気恥ずかしげに俯いた。
その様があまりにも可愛らしく、一護は余計な一言を黙っている気になれず、またからかうようにルキアを覗き込む。
「・・・でもやっぱ、キスの方が良かったかもな?」
「!!・・・た、たわけ」
また振り上げられた手拳を、今度は優しく手のひらで包みながら一護は笑う。
「じゃあ今度は、俺がお前を労ってやる。雨も上がったし、遊びに行くか?」
「・・・・・え?」
「どこか行きたかったんだろ?どこ行く?あ、でもあんま金はねーからな。高いモン欲しがったりすんなよ。」
窓を叩いていた雨粒はいつの間にか止んでおり、厚い雲間から僅かに日の光が差し込んでいる。
一護は出かける準備をすべく起き上がるが、しかしルキアは寝転んだまま動こうとせず、やけに小さな声で呟いた。
「・・・・・今日は、いい。」
「どうしたんだ?行きたかったんだろ?」
これに一護は振り向きルキアを見れば、ルキアはベットにうつ伏せ、軽く足をバタつかせている。
「出かけなくて良い。き、貴様のせいで、なんだか疲れた。
・・・今日はこのまま、部屋でのんびり過ごすことにする。」
一護は少しだけ黙り込んでルキアを見下ろしていたが、すぐにニヤリと笑みを浮かべ、
ルキアのすぐ傍に片手をつき、嬉しげに声を潜めた。
「・・・なんだ。本当は結構、気に入ってたのか。」
「だ!誰がそのような事を・・・!」
これにルキアは勢いよく上半身を起こしかっとして声を上げるが、そんなことは一護は気にせず、
起き上がったルキアの顎を軽く押さえ、互いの息が絡み合うまでに顔を近づけ囁く。
「出かけなくていいんだろ?・・・じゃ、さっきの続きでもしようぜ?」
「な、なぜそうなる!?調子に乗るなよ・・・いち・・・!やっ・・・!!」
一護は素直ではない恋人の唇を奪うと、ルキアの身体をそのまま柔らかく拘束し、
二人の身体はそのままベットの上に倒れこむ。
二人だけの休日は、こうして熱く過ぎていく。
・・・・・今日も、勉強は出来そうに、ない。
いいわけ
ずいぶん前に頂いていたリクエストシリーズ?沙奈さんからのお題『イチルキ自宅でいちゃこら』です。
・・・最後の方の二人のやり取りが自分の作品盗用・・・わ、わかってるから!知ってるから、改めて言わないで!!
・・・そうです。先に出した作品と展開一緒じゃん!とか思いつつ、変えることができなかったのです・・・アイディアが・・・もう・・・!(涙)
今回は全体的にはすぐに思いついたのに、やり取りやら〆やらなんだかやたらと苦労した。
もう限界・・・?それでも!それでも書き続けますよー!・・・そんな私を・・許してください!!
ちなみにバックに選んだお花はポピー。偶然選んだものですが、花言葉に『休息』が入っていてちょっと嬉しかった。・・・それ・・・だけ・・・・・
2009.5.24
material by sweety