近所のコンビニにルキアの望む商品が置いておらず、一護は少し遠くのコンビニまで出向き目的のチョコを手に入れた。
しかしすぐ家に帰る気もせず、物思いに沈みながらいつも以上に険しい顔をしてあてもなく近所を歩くと、
昔はよく遊んだ公園の前を通りかかり、なんとなく園内に設置されたベンチへ腰を下ろした。

少し時間がたち、さっきのルキアとのやり取りを考えてみると、なんてつまらないことで激昂したものだろう。
我ながらくだらなすぎて恥ずかしくなる。

ルキアは死神で、バレンタインの風習も良くわかっていないだろう。
本命や義理の概念が、どこまで通じているかもしれない。
それなのにあそこまでムキになることはなかったと、ひどい自己嫌悪に陥りながら、
それでも少し釈然としない気持ちも抱えていた。







『 チョコレート戦争 』

中編  ビターブラック





でもあいつだって、あんなに力一杯否定なんかしなくても良かったじゃねぇか。

良くわからない風習にしても、女が男にチョコを渡すものだとゆうことくらいは、理解していたようなのに。

なぜあんなにも拒まれたのだろう。

俺と同じで、どうでもいいことなのに引くに引けずムキになりすぎただけなんだろうか。
ルキアの様子が、いつもの口喧嘩とは少々違っていたような感じが気になった。

なにか、特別なことがあっただろうか?

暗く曇った冬空の下、誰もいない公園のベンチで一人、
一護が自分の思考に深く入り込んでいると、そこに騒々しい声が聞こえてきた。



「・・・ほらっ!織姫!あそこにベンチに座ってんの、一護じゃない!?」

「本当!?たつきちゃん?・・・あっ!本当だ!おーい!黒崎くーん!!」


聞きなれた声が近づいてきて、一護は顔をあげると、そこには織姫とたつきが連れ立ってやってくるところだった。
一護はベンチから立ち上がり、近づいてくる二人を見守る。

「・・・あぁ。なんだよ?たつきに井上。珍しいとこで会うな。」

「あんたこそ、こんなとこで何やってんのよ。こんな派っ手な頭した目つきの悪い若い男が、
ぼーっと公園のベンチに座って居たんじゃ、それだけで通報されんじゃないの?」

「あぁ?なんだと?」

挨拶代わりの失礼なたつきの言い草に、一護の目つきも悪くなる。

「や、やめてよ、たつきちゃん!・・・あの、私達、今黒崎くん家に行く所だったんだ!」

「・・・俺ん家に?」

睨み合う二人の傍から、とりなすように慌てて織姫が口を挟む。
言われ織姫を見ると、その手には大事そうに、大きな白い箱を両手で支え持っていた。
そして一護の視線の先に白い箱があるのを確認し、織姫は恥ずかしそうに笑いながら、一護に向けて箱を差し出した。

「あの、これ・・・バレンタインのご挨拶!!」

「・・・へ?」

なんとなく妙な言い回しに一護は少々呆気にとられ、それからどう見てもこれはケーキの箱であろうとの考えに達すると、
噂で聞いた織姫の料理センスのすごさを思い出し、ささやかに顔色を青くした。
しかしそれをすぐに察したたつきが、溜息をつくように口を挟む。

「心配しなくても大丈夫。あたしが横について、ずっと作るの見てたから。
本の通りに作らせたし、余計なもんは一切入れさせなかったよ。」

「え〜?それどーゆー意味?たつきちゃん!」

「・・・あんた。チョコの代わりに、あんこにしようとしたでしょう。」

「あ、うん。だって、バレンタインだからチョコだけってのも芸がない感じしない?
色も近いし。きっと、おいしかったんじゃないのかなぁ。」

「バレンタインはチョコでいいのよ!人に贈るものに、変な独創性入れようとしないの!!」

「え〜?そうなの?」

「そうなの!!!」

とりあえず中身はいたってシンプルなチョコケーキらしいことに安堵し、
それからこれは受け取って良いものなのか躊躇した。

義理ならばなんの問題もないが、万が一本命ということになると・・・。

律儀な少年は、先程喧嘩したばかりの勝気な少女を思い出す。

以前は本命など面倒で断っていたものだが、
相手が戦いを共にした仲間であれば、あまり無碍な態度もとれない。
なんとなく困っている風な一護の様子に、織姫は明るく言った。

「あ、こ、これね!なんかケーキ作りたくなったんだけど、食べる人いないでしょ?
黒崎くんの家なら妹さんもいるし、御家族で食べてもらえるかなぁって!
私色々迷惑かけちゃったし、ちょっとしたお詫びの印!!」

「お・・・おぉ。そうか。・・・んじゃ。遠慮なく。」

「うん!皆で食べてね!・・・それじゃ、また学校で。バイバイ黒崎くん!!・・・行こっ!たつきちゃん。」

「・・・ちょっ!織姫!!」

おずおずと手を伸ばし、一護は織姫から箱を受け取った。
織姫の隣りで、少し驚いたような表情のたつきが何か言い出す前に、
織姫はたつきの腕を取ると、引きずるように公園から出て行った。
一人残された一護は、こんな大きな壊れ物を抱え、
どこにも行くことは出来ず、諦めたようにそのまま大人しく帰路についた。

「・・っだいまー。」

家のドアを開けると、律儀な遊子が足音も軽く玄関に出迎えに来た。

「おかえりーお兄ちゃ・・・わぁ!なにこれ!?」

「井上に貰った。作ったから、皆で食えってさ。」

「え〜!?すごーい大きいよ!織姫ちゃん、すごいねぇ。」

遊子ははしゃいでケーキをテーブルへと運び、一護はうがい手洗いをする為、洗面所へと向かう。

そこへルキアが部屋からリビングへ降りてきた。
下の様子と霊圧に一護が戻ったことを知り、なんととりなそうか悩みながら遊子達の傍へ近づいた。

「あ!ルキアちゃん!見て!これ織姫ちゃんが作ったんだよ〜!」

「もうこれ、プロの仕事だよ。金とればいいのにさ。織姫ちゃんも気前いいよね。」

「!これを・・・井上・・・さん・・・が?」

振り向いた遊子は無邪気に、開けた箱の中身をルキアにも披露した。
そこには艶やかなチョコに綺麗にコーティングされた、
売り物と見まごうまでに立派なチョコケーキが堂々と鎮座している。
細やかな飾りも全てチョコレートで出来ており、
その見事な飾りを施された素晴らしいチョコレートケーキに、ルキアは胸を潰される。

きゃあきゃあとはしゃぐ遊子とは対照的に、夏梨は顔色を変えたルキアの様子を黙って観察していた。

「あ。もうご飯出来るから!ご飯の後に、皆で食べようね〜」

遊子は大事そうにケーキを箱の中にしまうと、慎重な様子で台所へと運ぼうとする。
しかし肩を落としたルキアが、静かに言った。

「・・・すみません。遊子さん。私、少々気分が悪くて。
申し訳ないのですが、お夕飯は結構です。部屋で、少し横になっておりますから。」

「え!?ルキアちゃん!大丈夫!?お父さんに、診てもらったほうが・・・」

「いいえ。大丈夫ですわ。軽い貧血です。少し寝ていれば治りますから・・・」

元々白い肌を青くさせ、ルキアは気弱な笑みを浮かべて少し会釈し、重い足取りで階段をあがっていった。
そこへリビングに一護が戻り、心配そうな遊子に飛びつかれた。

「ねぇお兄ちゃん!ルキアちゃんが、具合悪いんだって!!大丈夫って言ってたけど・・・本当かなぁ。」

「・・・ルキアが?」

一護は自然とルキアの霊圧を探りながら、階段を仰ぎ見る。
ルキアの霊圧は不安定に揺れており、そのことに一護も少なからず動揺した。
暖かい飲み物を持っていこうと遊子は急いで台所へ戻り、
リビングには不安げな一護と、冷めた目をした夏梨が残り、
落ち着きなく動き回る一護を少しだけ見守ると、おもむろに夏梨が口を開いた。

「・・・ルキアちゃん。具合が悪いんだって。」

「!!あっ・・・あぁ・・・。そうだってな。」

「大丈夫って言ってたんだけど、少し心配だよね。・・・一兄。様子見てきたら?」

「・・・そう・・だな。・・・ちょっと、見てくるか。」

「うん。お願い。」

夏梨の言葉に押され、一護は駆け出し足早に階段を駆け上がっていく。
その様子に夏梨は可笑しそうに小さく笑う。

「・・・ったく。世話が焼けるんだから。」

それから夏梨は、台所の遊子の所へ行くと、蛇口をあげて手を洗いながら言った。

「遊子―。しばらく二階に行くの禁止ねー。」

「えぇ!?なんでぇ?今、ルキアちゃんにお茶持っていこうと思ってたのに!!」

「いいから禁止!・・・大丈夫。二人揃って降りてくるから、ご飯の準備、しておこうよ。」

「??そ、そうなの?」

「そうなの。」

上機嫌な夏梨を不思議そうに遊子は眺め、それから少しだけ不安そうに階段を見上げる。


テーブルには取り残された箱が置かれ、甘い香りを静かに振り撒いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いいわけ
 原作でも大活躍中!?の織姫登場〜!
 私の織姫の位置づけは、一護とルキアの仲を煽るだけ煽る役☆ごめんね!当てつけ役で〜♪(恋次もしかり)
 悪い子ではないのだが・・・どうにも・・・ごにょごにょ。
 でも大好きな雨竜の相手役でも嫌じゃないから、なんだか不思議。雨竜×織姫は是非見たい。
 チョコの日まであと3日・・・ギンの方も書いてるから、結構ぎりぎりかも・・・。遅れないよう頑張ります☆
 2009.2.11

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