夜の闇を細い銀糸を引く雨がそぼ降る中、一護は傘をさし歩いている。
手にはもう1本傘を握って、目指すは「浦原商店」
すぐに戻ると言って出かけたルキアが8時過ぎても帰ってこず、
いつの間にか雨も降り出したのでこうして迎えに来たわけだ。





『 独 占 欲 』





雨が世界を包む静かな夜。

なのに、一護の胸だけが妙にざわついていた。

嫌な予感がする。

普段から険しい少年の表情はいつも以上に不機嫌さを示していた。

ジーパンの裾が濡れるのも構わず、水溜りを踏みしめ早足で夜道を駆ける。
ほどなく目当ての店へ辿り着き、軒下に入り傘を畳もうとした瞬間、

ガタッ ドガタタタッ

「うわっと!」
「ひゃぁっ!!」

中から何か崩れ落ちる大きな物音と同時に、ルキアと浦原の悲鳴が聞こえてきた。

「おいっ!今の音なん・・・」

一護は慌てて挨拶もなく引き戸を開けると、目の前の光景に唖然として言葉が途切れた。

埃舞い散り荷物が散乱する店の中心に、ルキアと浦原の姿があった。
倒れたルキアの上に浦原が覆いかぶさるように乗り上げている。


顔の距離も妙に近く、一見キスする寸前の構図にさえ見えた。


「!いっ、一護!なぜここにいる?!」
「ありゃ、黒崎さん。こりゃまた良いタイミングに〜」

ルキアは慌てふためきながら浦原と離れようとするが、浦原は至って呑気なものだ。

「・・・雨が降ってきたからよ。」

一護といえばなんだか頭が混乱し、それだけ言うと惚けた様に二人を見下ろしていた。

「そっ、そうか!それはすまんな。今、荷物を持ってくる!!」
ルキアはバタバタとその場を離れ、後には一護と浦原だけが残った。

「あぁ〜折角今日掃除したばっかりなのに〜」
浦原はボヤキながらそこかしこに散らばった箱を拾い集めた。

なんとなく一護は動けず浦原を見守っていたが、
不意に浦原は懐から扇子を取り出すと、口元を覆いずずっと一護に詰め寄った。

「・・・すみません黒崎さん。つい、ね。」

その言葉に一護は目を見開き浦原を凝視するが、当の浦原はさっさと身を翻し荷物へと戻っていった。

「待たせたな一護!帰るとしよう!!」
ルキアが現れると、片付けない事を浦原に詫びながら一護を引き連れ店から飛び出した。
後ろからいつも通りとぼけた浦原の声でおやすみなさい〜と聞こえてきた。

 

帰る途中の二人は気まずい沈黙に包まれていた。

「・・・一護」

沈黙に耐えかねたルキアが小さな声で彼を呼んだ。
返答はない。

「一護?」
先程よりやや強くもう一度呼ぶ。

やはり返答がない。

「どうしたのだ一護?何をそんなに怒っている?」
ルキアには一護がこれほど怒っている理由が思いつかない。
黙って前を歩く少年にもう少し強く訴えた。

その声に反応し、一護は歩みを止めた。
「いち・・・」

小走りで走り寄ってきたルキアの左手首を無言で掴む。

驚いたルキアは途中で言葉を失った。

一護はルキアを引き連れたまま走る様に家路を急ぐ。

「なっ、なんだ一護!手を、手を離してくれ!!」
突然の事にルキアは驚き思わず叫ぶ。
しかし一護の歩みは止まることなく、ルキアは半ば引きずられるような格好で家に着いた。

玄関で傘を放り靴を脱ぎ捨てると、そのまま部屋へ連れ込まれる。

ルキアは混乱していた。

一護がここまで怒る事をした覚えが無いからだ。
すぐ戻るつもりが遅くなってしまったが、今までも全く無かった訳でもない。

とにかく殺気だっている一護がわからずなんだか恐かった。

部屋に入ると一護はやっとルキアを解放した。

きつく握られルキアの細い手首に薄く跡が残っている。
その跡を右手でそっと撫でながら、部屋の中央で立ち尽くす一護を息をのんで見守る。

部屋の灯りも点けない。

雨は激しくなり、音をたて窓を強く叩く。
まるで二人だけ水の底に閉じ込められたような錯覚に陥る。

「・・・」
一護の口から何か言葉が発せられた。

しかしそれも雨音で消され何も聞こえない。

「えっ・・・?」
問い返すルキアに一護は近づき抱きしめた。

痛い。
強く抱きすくめられ、ルキアは痛さに顔をしかめた。
でも一護の腕はますます力が込められる。

「!っ、いっ、一護痛い・・・」
我慢しきれずルキアが小さな声で呻いた。

しかし一護は意に介せず、右手を頭に左手を腰に回し更に密着しようとしているようだった。

「いい加減にせぬか?!一護!一体どうしたというのだ!!」
とうとうルキアはきれ、一護に怒鳴りつける。

一護はルキアを抱きしめたまま掠れた声で耳元で囁く。

「・・・あん時」

「なんだ?あの時?」
ルキアはなんの事を言っているのかわからず問い返す。

「浦原商店で・・・」
「おっ、おお。なんだ?」


「浦原と・・・キスしたか?」


「!!ばっ、ばかものが!!!そんな事はしておらん!!!」

思いがけない一護の言葉に頬を紅く硬直させルキアは怒鳴る。


わかっている。

本当は一護にもわかっていた。

音がしてすぐ店に飛び込んだのだ。
していたのなら一護も絶対に目撃したはずだ。


ただ。

ただ、あの時の浦原の言葉。

そしてあの場面を思い出すと、浦原は自分の下になったルキアの後頭部に片手を添えており、
浦原は店に飛び込んできた一護と目が合った瞬間、微かに不機嫌そうに目を細めた。


浦原はもし一護がいなかったら、事故を装いルキアにキスをしていただろう。


許せなかった。

浦原よりも無警戒で隙があるルキアが。


こんなにも愛らしい魅力に溢れているのに、浦原に対し全く警戒心のないルキアが。


許せなかった。


それでも少し頭が冷えてみると、ずいぶん子供じみた態度をとってしまったとも思う。
一護は堅く拘束していた腕の力をやっと解くと、やや身体を離し至近距離でルキアと向き合う。


なにか言い出そうと口を開きかけたルキアの唇に素早く己の唇を重ねた。


再びルキアは大きく目を見開いた。

舌と舌が絡み合う卑猥な感触にルキアは耳まで朱に染まり、
一護も初めてのディープキスに遮二無二舌を動かし、ルキアの口中を暴れまわる。

「ひぅっ!ふううっ・・・」
ルキアは我慢慢しようとしても、口の端から甘い吐息が漏れていく。
ルキアの瞳は硬く閉じられ、なんとか逃れようともがいていたが、徐々に体中の力が抜けていった。

ぬちゅ・・ぴちゅ・・
外の雨だけではなく二人の口元からも水音が響き、互いの唇から銀の雫が一筋流れた。

やがてルキアは膝から崩れ落ちるように力が抜け、一護はやっと唇を離し彼女の身体を抱き支える。
一護に身体を預けたままルキアは瞳を潤ませ吐息も荒く放心状態だった。
一護は膝をつき優しくルキアの頭を愛おしげに優しく撫でる。

外では雨が激しく降り続ける。

部屋の中はルキアの荒い息遣いと雨音だけが静かに満ちていく。

しばらくの沈黙の後、一護が囁く。
「ルキアごめん。」


ガキだよな俺。
格好悪い。
判っている。
でもダメなんだ。
お前のことになると、自分でもわけがわからなくなるから。


「ごめんな。」

ルキアはまだ動けない。
腕の中でぐったりしている。


「好きだ。」


最後の一言は雨音に掻き消えてしまいそうな小さな声で、一護はルキアに囁いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いいわけ
 私のイチルキデビュー作になります☆素敵サイト様の小説で勝手に触発され一気に書いてしまいました。
 そして、私の好きシチュ!ヤキモチに焼け焦げる一護。隙を突かれるルキアです。(大好物!)
 一護がやけにちっちゃい器の男で、一護ファンの方ごめんなさい・・・私も一護好きです。格好いいとか思うのに。

 実はこれには続きがありますが、それは『裏めにゅう』R18になります。興味ある方はそちらへどうぞ・・・
 2008.4

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