『 真紅の絆 』 第六話


瀞霊廷から追われた一護は、流魂街の外れへ身を隠すハメになっていた。

「くそっ!なんなんだよ!どうなってるんだ!?」

破壊された瀞霊廷の街並みで会うことができた知り合いの死神達から、お前は誰だと問われた挙句刀を向けられ追い回された。
皆一護がわからないらしく、『旅禍』と叫ばれ幾度も戦闘になったのだ。
いくら声を嗄らして「俺は一護だ!」と叫んでも、誰もわかってはくれず、その上ルキアの事も誰一人として知る者はいなかった。

これは一体どういうことだ?
なぜ、俺とルキアの事を皆忘れてしまっているんだろう?

一護は膨れゆく不安に胸を押さえ、それからひどく退廃した街並みを物陰から眺めた。

ここが、ルキアと恋次の育った所。
南流魂街78地区『犬吊』か。

瀞霊廷にルキアの影はなく、他にはなにも手がかりのない一護は、刃を交え相対した恋次から何とか育った流魂街区域の名を聞きだした。
汚れた空気と街並み。
道端で死んだように眠る者、下卑た笑を響かせる大人達。
どう見ても子供だけで住みゆくには向かぬ、全てが薄汚れた印象の軒が連なっている。
こんな所でルキアと恋次は、毎日どんな思いで暮らしていたんだろうか。
幼い日の二人の事を考えれば胸は痛むが、今はそんな感傷に浸っている場合ではない。

「!!・・・・・・あっちか!」

一護は僅かに感じたルキアの霊圧を探り、町外れの小高い丘目指し猛然と駆け出した。

 

 

 

 

 

目指す丘の上に着くとまさに思い人が丘の上に立ち、ぼんやりと街を眺め見下ろしているところであった。
死覇装ではなく普通の着物を着ていたが、その見慣れた後姿を目にし一護は懐かしさと安堵に胸を詰まらせながら力一杯その者の名を叫ぶ。

「・・・・・・ルキアッ!」

「・・・・・・・・・・!」

一護の叫びに驚き弾けた様に振り返るルキア。
しかし、会えた喜びに微笑む一護とは対照的に、ルキアは訝しげに眉をひそめるだけで、何も言葉を発しはしない。
だが一護はそんなルキアの様子には気づかず、とにかくルキアの側へと駆け寄った。

「良かった無事で・・・・・・心配したんだぞ!
瀞霊廷があんなになってんのに、お前なんでこんな所にいるんだ!?」

「・・・・・・・・・・・」

一護がそう言いながら手を差し出せば、それを避けるようにルキアは身をかわす。
自分を見るルキアの瞳に強い警戒心が見て取られ、そこで初めて一護はルキアの様子がおかしいことに気がついた。

「・・・・・?どうしたんだよ。ルキア。なんで・・・・・・逃げるんだ?」

ルキアは一護を拒むように数歩後ずさり、距離をとると改めて一護を睨みつける。

「・・・・・・・・・・・貴様は・・・誰だ・・・・?」

「・・・・・・!!」

ざわり

二人の間を風が吹きぬけ、一護の全身の産毛が逆立ち、ショックに言葉も出なくなる。
数刻無言で見合った後、一護は震える声音でルキアへと語りかけた。

「!・・・・ルキア・・・・・お前・・・も・・・俺の事、わからねぇのかよ・・・・・・?」

「・・・・・なんだ、お前は。なぜ私を、そのような名で呼ぶのだ・・・?」

「そのようなって・・・・・・・なんだよ・・それ・・・・・!」

「ルキアとは・・・・・・・私の事・・・・・・・・・なのか?」

自信なさ気に囁くルキアのか細い声。
そして、自分を見つめるルキアの眼差しは、得体の知れぬ者を見る目つきで、それが一護の心を尚一層ひび割れさせる。
最早一護の心は、一瞬前に感じていた、やっとルキアに会えた安堵は跡形もなく消え去り、
ルキアに忘れられてしまった膨大な焦燥に押し潰されそうになりながら、その不安を打ち消そうと大声を上げルキアに詰め寄るしかできない。

「・・・・・!
なんだよそれ・・・なんで、お前、自分の事もわかんねぇんだよ。それに・・・・・俺の事も!」

「・・・・・・・・・・・・・」

やけに必死な様子の一護に、ルキアは警戒心より妙に憐れな気持ちで一護を見つめた。


やめろ、見るな。

ルキア。俺を、そんな目で見ないでくれ。

一護は声にならない気持ちを胸の内で叫び、自分を見つめるルキアの深い紫紺の瞳を、絶望的な思いで見つめ返すだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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※映画を見ての感想のひとつ。ルキアの消息を聞きだすのは、兄様じゃなくて一緒に生活していた恋次でも良かったんじゃないのかと。
恋次より兄様の方が話を聞きだしやすい・・か・・・?とてもそうとは思えないのだが・・・・
まぁ結果的に何かを察していたであろう兄様は、あっさり教えてくれたんだけど。
私的に兄様より恋次の方が、何かの弾みにぽろりと質問に答えてくれそうな気がしたもので、戦いの最中無理矢理聞きだしたって事にしてみました。
・・・なんてどうでも良い設定ですね。それよりやっと出会えた二人ですが、ルキアに忘れられたうちの一護は、ラブ増しな分気持ちはどん底ですよ。憐れなり・・・
2009.10.20

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