『 真紅の絆 』 第四話


ルキアは眠りから覚め、睫を細やかに震わせ重たげに目を開けた。
ひどく深い眠りだった為か、体はだるく思考がはっきりしない。
しかし、目に飛びこんできた風景は記憶にはないがやけに馴染み深く、ルキアはぼろぼろの天井板から射し込んでくる光を黙って見つめていた。

ここは・・・どこだ・・・・・?

小屋の中は廃屋同然と言えるほど古びてはいるものの、埃等は綺麗に掃き清められており、
ルキアが横になっている寝台はひどく粗末ながら、敷かれた布団は清潔で、ルキアは気だるい気分でゆっくりと起き上がる。

見覚えないがないのに、やけに懐かしい。
その奇妙な感覚に目を細め、降り注ぐ日差しを眩しげに眺めた。

「・・・・・・・あ!起きたんだね!!」

「・・・・・・・・・・・・・・っ!?」

ルキアがぼんやりと寝台に腰掛けていると、小屋の扉が開かれ明るい日差しと共に誰かが大きな声を上げ、これにルキアはビクリと身を竦ませる。
しかし声の主はそんな事にはお構いナシに、弾むような足取りでルキアの元へと駆け寄り突然ルキアを抱き締めた。
ルキアは驚きと混乱に言葉もなく体を硬直させていると、後から背の高い人影がやってきて、ルキアの目の前に立ち止った。

「姉さん。あんまり大声を出すから、怖がっているじゃないか。もっと、静かに話しかけるべきだよ。」

「だぁって、嬉しいんだから仕方ないでしょ!・・・でも、そうね。一日以上寝てたんだもんね。少し、びっくりさせちゃったかしら?」

弟からの冷静な戒めに呼びかけられた姉はルキアから離れると、少しだけ声を潜め安心させるようにニッコリと微笑む。
この様子を黙って聞いていたルキアはやっとの事で、一番の疑問を真っ先に口にした。

「・・・・・・・・・・・・・・・・お主達は、何者だ?」

この問いかけに二人は少しだけ寂しそうに表情を曇らせ、姉と弟は一瞬顔を見合わせると、それから二人揃ってルキアへと向き直った。

「もう記憶は戻したのに、まだ思い出せない?・・・・・ね。
よく見て。私達を、よく、見て・・・・・・」

そう言いながら姉は緑の瞳を光らせ、ルキアへと近づいていく。
ルキアは僅かに身を引くが、その緑の瞳の深い煌きに魅入られ視線が逸らせなくなる。

この瞳。
知っている。
私は、この瞳を、とてもとても綺麗で大好きだと思っていた。

「・・・・・・・・・・・・・っ!」

その瞬間、ルキアの頭に記憶がフラッシュバックし甦る。

自分に向かい、微笑み手を差し伸ばす女の記憶。
自分を抱き上げ、明るい笑みを湛えた男の記憶。
その他にも様々な二人の記憶がルキアの頭の中を巡り、その記憶が覚えていなかった、自分の小さい頃のものであると気がつき驚愕した。

「思い・・・・出した・・・・・・私は、私は幼い頃、お前達と・・・一緒に・・・暮らしていたのか・・・・・?」

「思い出した?私達の事!!赤ちゃんだった貴方を見つけて、大きくなるまで三人で暮らしていたんだよ!」

「本当に?僕の事も・・・覚えているかな・・・・?」

「あぁ・・・・・覚えている。覚えて・・・いる・・・・・・」

怒涛のように流れ込んでくる、失われていた過去の記憶の濁流に飲まれ、
放心したように呟くルキアを姉は嬉しげに抱き締め、その傍らで弟も安堵したように柔らかな笑みを浮かべる。
この二人は捨てられていた自分を拾い育ててくれた恩人だ。
そんな育ての親と感動の対面をひとしきり済ませると、今度は神妙な様子で姉は視線を落とし、ルキアの手を取り握り締めた。

「ずっと一人にさせてごめんね?でも、絶対迎えに来るって約束したでしょ?だから、貴方を迎えに来たのよ。」

「お前達・・・そうだ。お前達は今まで、どこに行っていたのだ?」

「ちょっと遠くに・・・でも、これからはずっと一緒だよ!!!ずーっとずっと!ね?嬉しいでしょ?ね!!」

「姉さん・・・・・・・・・」

「あ・・あぁ。嬉しい。嬉しいよ。まさか、本当に迎えに来てくれたなんて・・・・・・」

今の今まで全く思い出せなかった幼い日の記憶。
二人は膝を折って小さな自分に目線を合わせ、悲しげな表情で話しかけていた。

『ごめんね・・・私達、少し遠い所に行かなきゃならないの。
すっごく危険な旅だから、小さな貴方を連れてはいけない。
・・・・・でもね、約束するわ。
時が来たら、必ず貴方を迎えに来る。
だから・・・だから、一人でも、強く生き抜くのよ・・・・・!』

そう言って泣きながら自分を抱き締めた女の胸のぬくもりさえも思い出し、ルキアは大きな瞳から一筋の涙を流す。
すると男は立膝をつき、ルキアの頬に手を差し出し流れた涙をそっと拭った。
ルキアが視線を男に移せば、男はルキアを見つめてふわりと笑い、そんな二人の間に女は勢いよく立ち上がり、両手を広げ嬉しそうに声を張り上げた。

「来るわよ!約束したんだもの!時が来たの!憎い死神を全員殺して、私達がここの支配者になる時が来たんだよ!!」

「死神を、殺す・・・?」

「姉さん!」

女からの思いがけない言葉にルキアが思わず言葉を繰り返し、男が慌てたように声を荒げ姉の前に立ち上がる。
しかし女は動じもせず自分の前に立ち塞がる弟を見上げ、不服そうに睨みつけた。

「なによ?別に嘘じゃないでしょ?
だって死神達の方が、先に私達を殺そうとしたんだもの!
そのせいでこの子とずーっと離れ離れになったんじゃない!憎んで当然よ!!」

「でも、この子の立場も考えて・・・・」

「なによ立場って!この子はもう、私達の仲間なのよ!
あんたと結婚して、本当の家族になって、三人でいつまでも一緒に暮らすんだから!!!」

「私と、結婚・・・・・?」

次から次へと出てくる疑問に、最早思考は追いつかず、ルキアは鸚鵡のように同じ言葉を繰り返すだけになってしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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※さて、やっと私妄想パロ設定爆発の回となりました。
まずあの姉弟。私は映画設定とは全く別で、緋真さんに捨てられた赤ちゃんルキアを、二人が拾い育てたんではないかと妄想してました。
未だに謎のルキアの過去。姉さんに捨てられた赤ちゃんルキアは、生きるに過酷な状況で恋次に会うまで一体どうやって、誰によって育てられたんでしょう?
だからその謎の部分に二人が関わり、ルキアを育てていたと思ったんですが・・・実際は真逆の設定だったなんて!
でも映画設定ならば、ルキアが面倒を見ていた姉弟達を、一緒にいた恋次が知っててもおかしくなかったはずではないのか?疑問が残るなぁ・・・
2009.10.9

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