『 バレンタイン事変 その8 』

ルキアが乱菊に付き合い、お守りが出来上がるまで二時間の時間を要した。

「あなたのお陰よ。本当にありがとう!」

「いいえ。私は何も・・・」

出来あがったピンクのフェルトに真っ赤なハートが縫い付けられたお守りを大事にしまい、
ルキアの手を握り乱菊は満面の笑みを浮かべていたが、視線がふと腕時計に移ると瞬時に表情が一変した。

「あっ!やだ!!もうこんな時間!?隊長、時間守れないだらしない奴大嫌いなのよね〜急がないと!」

「そうですか。それは、急がれた方が宜しいですね。」

「この恩は後で絶対返すから、きっとまた会いましょう!!あっ・・・それからね・・・」

走り出そうとした乱菊は慌てて踵を返すとルキアへ近づき、耳元にこっそりと何事か囁く。
それに反応したルキアは途端に顔が真っ赤になり、その様子に乱菊は嬉しそうにくすくすと笑みをこぼすと、
元気に手を振り意気揚々と愛しい隊長の元へと去って行った。

嵐のように吹き荒れた乱菊の勢いに巻かれ、その間、ルキアはギンに連絡することをすっかり失念しており、
時刻は既に三時過ぎてからやっと、ルキアは携帯を取り出し電源を入れた。



その途端携帯は鳴り響き、ディスプレイには『性悪狐』と表示されている。
ルキアは少しだけ躊躇し、決意を固めるのに8コール数え、慎重に受信のボタンを押した。


「ルキアちゃん!?やっと繋がった・・・!あぁ!頼むから切らんといて!とにかく、僕ら話せなあかんよ!!」

ルキアが電話に出ると同時に息巻く様子でギンは喋り、それに対しルキアは落ち着き静かに返す。

「・・・もう。いいのだ。話なら済ませた。」

「話が済んだて・・・!?なんやそれ!こないつまらん誤解で、だめになってしまうん?いやや!僕は、絶対いややから!!」

「落ち着け、ギン。今、会ったのだよ。・・・その・・松本殿に。」

「はぁっ!?松本・・・会うたて・・・会うたって・・・・・乱菊にぃっ!?」

「そうだ。乱菊殿にだ。・・・喫茶店で、お茶を飲んでいたところ、偶然出会って色々話をした。
だから、もう誤解は解けた。・・・私の勘違いだったと、よく、わかったよ。」

「ほんまに?ほんま・・・なんやそれ〜!・・あぁ・・・でも、良かったわ〜!!
ほんまに誤解やったって、ルキアちゃんわかってくれたんよね?」

「うむ・・・」

「そしたら今どこなん!僕、すぐ迎えに行くわ!!」

ギンは急ぎそう叫ぶが、ルキアは小さな声で呟いた。

「・・・迎えには、来なくていい。」

この一言にギンは一瞬絶句し、しかしすぐに搾り出すように言葉を紡ぐ。

「な、なんで?誤解やったってわかったんやろ?
それでも僕に、会いとうないん?ほんまは、まだ疑っとるの!?」

「そうではない。・・・迎えには、来なくていい。・・・・・私が、お前の部屋へ行く。」

「!!ぼ、僕の部屋・・・?」


ルキアからの意外な申し出にギンは今度こそ口を噤み、その様子にルキアは声を落とす。

「・・・迷惑なら、いい。」

「迷惑なわけやない!迷惑なはずないやん。・・・ただ、ルキアちゃん。ほんまに、来てくれるん?」

「必ず、いく。」

「・・・わかった。・・・そしたら・・部屋で、待っとるわ。」

「・・・では、また後で。」

ルキアは即座に電話を切ると、微かに震える両手で携帯を抱き、深く深く緊張した溜息を吐き出した。

 

 

 

 

 

ルキアが朝と同じようにギンの扉の前に立ち、緊張した面持ちでインターホンを押そうと手を持ち上げたが、
それを押す前に勢い良く扉が開かれ、ルキアは驚き手を引いた。

「・・・!!ど、どうして・・・?」

ギンは無言のうちにルキアを抱き締め、頭に頬寄せ自然と安堵の溜息をこぼす。

「ここで、待っとったんよ。・・・あぁ・・・良かった・・・ほんまに、来てくれたんや。」

「必ず来ると言ったではないか。・・・入っても、いいのか?」

ギンに抱かれたまま胸の中でルキアは呟き、すぐにギンは身体を離すとやや自信なさげに言葉を濁す。

「もちろんや。・・・ただ、朝慌てて飛び出したもんやから、部屋ん中、汚いままやけど。」

「汚い部屋は、恋次で慣れている。・・・それでは、邪魔するぞ。」

「・・・あいつ、部屋まで入れとって、なんもせんかったんか?忠犬ぶりは、筋金入りやね。」

そんなギンの呟きには気付かぬまま、先に部屋へと足を踏み入れたルキアは、
部屋の様子が以前と全く違うことに目を丸くした。

「・・・汚い。」

前来た時に感じた生活感のないスッキリした部屋は、家具の配置こそ変わらないものの、
テーブルには使ったカップがだしっぱなしになり、幾つかの開けた菓子やパン類の袋が床にも落ちており、
数枚のタオルも使いっぱなしのままそこら辺になげだされている状態だった。
他にもドライヤーやタオルケットなど、色々な物が散乱しており、
何もなかったリビングは典型的な独身男性の様相を呈している。

ルキアの呟きに、後ろに立っていたギンはひどく迷惑そうに顔をしかめ、ぼそぼそと言い訳をした。

「せから言うたやん。汚いて。でもな、これ僕のせいちゃうよ。
全部乱菊が出しっぱなしにしていったんやから。
ルキアちゃん来る前に片しておけば良かったんやろうけど、待っとる間僕もそんな余裕なかってん。
・・・あいつはほんまに片すゆうこと知らん奴で、人ん家泊まるたんびに、こないな事になってしまうんや。
せやからほんま、乱菊泊めるんは僕もいややなんよ。」

深夜に泊り、朝もすぐに出たらしいのに、その短時間にここまで乱すことができるのは一種の才能かもしれないと、
妙な感心さえ憶えつつ、ルキアはバックを足元へ置き、腕をまくり果敢に部屋の中へと踏み進んだ。

「ならば、とにかくここを片付けよう。こんな部屋では、とても落ち着けん。」

「そーやねー。面倒やけど、せんといかんなぁ・・・」

まずはタオルケットを拾い折りたたむルキアに続き、
ギンは溜息をつきながらテーブルの上のカップを持つと台所へと運ぶ。

そんな風に5分程二人は無言で片付けをしていたが、突然ギンは手を止め、作業しているルキアの背中へと語りかけた。

「今日は、ほんまにごめんな。ルキアちゃん。」

「・・・・なんの、ことだ?」

ルキアも手を止め振り向けば、ギンはややうなだれており、弱く微笑みルキアを見つめている。

「乱菊と僕の間にはなんもあらんけど、ルキアちゃんからしたら、最大の裏切り行為やもんね。
でも、もう二度と乱菊でも泊めたりせんよ。絶対に。約束するわ。ほんまに、ごめん。」

ギンはルキアに向かって頭を下げ、ルキアはそれから視線を外す。

「・・・松本殿も、そう約束してくれた。・・・妹、なのだろう?
それなら私にとっての恋次も同じだ。だから、もう良いのだよ。」

「まさか、ルキアちゃん!忠犬や思うて、あいつ部屋に泊めたりしてたん!?」

ルキアの返答に驚き顔をあげたギンを、すぐにルキアはキッと睨みつけて一喝した。

「莫迦者!恋次の気持ちは知っているのに、そんな事するわけがなかろう!そこまで私は無神経ではない!!」

「・・・仮に泊めてもろうても、忠犬やもんな。生真面目やろうし、やっぱり手ぇだせんような気はする。」

「たわけた事を言わず、もっと手を動かせ!!ゴミ袋は、どこにある!?」

「あぁ・・・面倒臭いなぁ・・・」

ルキアの指令にギンは素直に従い、ゴミ袋を出すべく台所へと姿を消した。

 

 

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gin top

※ぶっちゃけますが、この連載は次の回を書きたいが為だけに始めました!
今回はその前フリ?にあたり、割とどーでもいい感じ・・・今更だけど、ギンの偽者ぶりがもう・・・・・
いや、ギンとルキアが仲直りしたし、これはこれで大事・・・うん。大事なはずだよね・・・たぶん・・・
なので次回を早く書きたくて、更新も急いでおりました〜☆
頑張ったお陰でもう次だ!日曜にでも更新したい☆読んでくださる方以上に、次の展開私が楽しみwww
2009.5.8

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