『 バレンタイン事変 その7 』

「ちょっと・・ううん。本当は、すっごく興味があったの。
女の事であんな風に取り乱す、あいつ見るのは初めてだったし。ただ聞いても貴方も答えづらいでしょ?
だからつい、まるで浮気相手であるように振舞っちゃたんだけど・・・」

「・・・・・」

申し訳なさそうに乱菊はそう言うが、乱菊の言い分をイマイチ信じきれないルキアは、
これになんと返答すべきか迷い無言で視線を泳がせた。
そんなルキアの様子に乱菊は苦笑する。

「その顔は信じてないわね?まぁ仕方がないけど。・・・じゃあひとつだけ、言わせて頂戴。
わたし、あんなに男の趣味、悪くなんかないから!」

「・・・え?」

「・・・って言ったら、今度はあなたに失礼よね?やっぱり、ごめんなさい。」

唖然としたルキアに、今度は悪戯っぽい笑みをみせると、乱菊は大袈裟なため息つく。

「でも仕方ないわよね?あいつは本っ当にろくでなしだもの!
女は自分の都合いいようにしか扱わないし、しかもすぐに飽きたとか言い出すし。
昔から救いようのない奴だって、ずーっと思ってたんだけど、それがねぇ・・・ぶぷっ!!」

何かを思い出した乱菊は、そこで言葉を切ると突然思い切り良く噴出し、
そのまま笑い声を必死になって殺し、身体を震わせ悶絶した。
訳のわからぬルキアはそんな乱菊を見守り、笑いが収まるのをただ黙って待つしかない。
やがて乱菊は涙の滲んだ目元を拭いながら、やっとの事で口を開く。


「昔から女を、都合いい性欲処理ぐらいにしか思ってないような、そんな奴がさぁ!
け、携帯の待ち受け画像・・・携帯の待ち受けをよ!?
・・・か、隠し撮りした、あなたの写真にしてるんだから、本当に参ったわよ〜〜〜!」

「か、隠し撮り!?」

「明らかに隠し撮りね!だってあなた、全然カメラの方は見てなかったもの!
わたしはこっそりギンの携帯覗いたから、あなたが『ルキアちゃん』だってわかったんだけどね。
・・・それにしても!あいつがどんな顔してそんな事してたのかも知りたいけど、
それを携帯の待ち受けにするって・・・・!キテるわ!かなり、重症だとあなたも思うでしょ!?」

「・・・・・」

ここで堪らず乱菊は爆笑し、ルキアは恥ずかしさに顔を赤らめ下を向いてしまう。
そしてまた乱菊の笑いが収まるまで待ち続け、しばらくしてやっと乱菊は顔をあげ、何事もなかったかのように会話を続けた。

「・・・挙句、真っ青な顔で部屋の中ウロウロして、ルキアちゃんルキアちゃん独り言言いながら、
ずーっと繋がらない携帯かけてたかと思ったら、あなた探しに部屋飛び出しちゃうし。

あいつとは長い付き合いだけど、あんなに動揺してるとこ見たのは初めてよ。
・・・まぁ、あなたに本気なのは、充分に伝わったけどね。」

そう言って乱菊はにっこりと微笑みルキアを見つめ、
その微笑の美麗さにルキアも頬を赤らめ、呟くように乱菊へと問う。

「あの。あなたは、一体・・・」

「私はねぇ、あいつの幼馴染なの。
小学生の頃からの付き合いで、ほとんど兄弟みたいなもんね。
もっとも、あんな性格悪い兄貴なんて、全然欲しくなかったけど。
便利な場所にあいつが住んでるから、時々、飲んだ帰りとかホテル代わりに部屋を使ったりしてたのよ。」

「幼馴染・・・」

「信じられない?」

「・・・!い、いいえ!そ、そんな事は・・・」

「一応弁護しておけば、今回私が泊まること、ギンはすごく嫌がったのよ。
でも私が強引に押し切って泊めさせたんだけどね。
あいつがどんなに困ろうと関係ないけど、あなたには本当に悪かったと思ってる。
軽率な事して傷つけちゃったわね。ショックだったでしょ?ごめんなさい。私が悪かったわ。」

「あ・・・あの!いえ、も、もういいんです!あの、頭を上げてください。」

そう言い乱菊はまた丁寧に頭を下げる。ルキアは困りオロオロと手を振った。

「こんな事、もう二度としないから安心して?
用事があれば部屋に行くくらいするかもしれないけど、泊る事は絶対しないから。
私達、本っ当に何もないわよ。お互い異性とは認知してないから。・・・それに第一、私には隊長がいるからね〜〜〜♪」

「隊長・・・?」

突然乱菊の声が弾みだし、ルキアは思わず呟けば、それを逃さず乱菊は瞳を煌めかせてルキアへと詰め寄った。

「そう!見る!?」

「は・・はぁ・・・」

乱菊の迫力に押され頷けば、乱菊は嬉々とした様子で携帯電話を開きルキアへと渡す。
ルキアが携帯電話を覗き込むと、待ち受け画面に銀髪を勇ましくかきあげた涼やかな目元の、凛々しい顔をした少年が写っていた。

「・・・?これは?」

「隊長よ!格好良いでしょう〜〜〜!?」

乱菊は嬉しげに声をあげ、ルキアはもう一度画面を見直した。

格好いい。
確かに格好いいであろうが、輪郭にあどけなさが残る。

どうみてもかなり年下の少年であろう。
しかも、この少年は視線はあさってを向いていて、これもどうみても隠し撮りとしか思えない。
先程ギンの隠し撮りであれだけ大爆笑をしているのに、
やっていることは乱菊も変わらない事に少なからずルキアは動揺しつつ慎重に言葉を選ぶ。

「え、えぇ。格好良いと思います。とても凛々しく、強い目をされていて・・・」

しかしここで乱菊はハッとしたようにルキアから携帯を取り上げ、必死な様子で叫んだ。

「あ!・・・だからってだめよ!!隊長の事、好きになったら!」

「な、なりませんよ!!」

ルキアも負けずに叫び返し、乱菊は訝しげにルキアを眺めながらも、携帯を抱き締める。

「そう?・・・ならいいわ。
今日は受験勉強するのを無理言って、一時間だけ会ってくれるんだもの!今度こそ、ばっちり決めなきゃね!!」

「なにを、決めるのですか?」

素朴な疑問を口にしたルキアを、乱菊は信じられないといったように声を荒げて叫ぶ。

「何言ってるの!?今日は恋する乙女が奮起する日!バレンタインじゃない!」

「・・・・・」

およそ『恋する乙女』の称号はまるで似合いそうもなかったが、
乱菊本人はひどく真剣で、そのあまりの真剣ぶりにルキアは口を閉ざしてしまう。
そんな困惑したルキアの事は置き去りに、乱菊は強い口調で決意を語る。

「今日こそばっちり決めて、絶対彼女にしてもらうんだから!・・・ねぇ!何を贈ればいいと思う!?」

「え!?」

「隊長、固くって、今まで色々プレゼント贈ったけど、食べるもの以外、何も受け取ってくれないのよ・・・」

「・・・今までは、何を贈られたのですか?」

「う〜ん。やっぱり、アクセサリーが多いわね。あとは財布や靴とか。
でも隊長、『こんな高価なもん受け取れるわけねぇだろ!』とか言っちゃって・・・。
で・も!そんな頑ななところも素敵でしょ〜!?」

「そ、そうですね・・・」

「でもねー。一年以上アタックしてるけど全然進展なくて、私も焦ってきてるの。
だって、隊長こんなに格好良いんだもの。共学の高校になんか入ったら、絶対モテまくるに決まってるでしょ?
だから小娘共には、わたし!っていう彼女がいるってこと知らしめておきたいし。
・・・でも、今日は朝から色々物色してるんだけ、なかなかコレ!ってものが見つからないのよね・・・」

そう言うと乱菊ははぁっと、大きなため息をついて視線を落とす。
例え片思いのままだとしても、乱菊のような強力な恋のライバルがいると知れば、
自然と恋敵はいなくなりそうなものではあるが。
真剣に悩んでいる様子の乱菊に、ルキアは微笑ましく思え、ふと思いついた事を口にした。

「それならば、手作りなどいかがですか?」

「・・・手作り?」

ルキアからの意外な進言に、乱菊は驚いたように視線をあげた。

「高価な物は受け取れないなら、何か作って差し上げてみてはどうでしょう?・・・例えば、受験のお守りだとか。」

「お守り。・・・いいわね、それ!すごく恋する乙女が作りそうだし!うん!そうするわ!!」

「そうですか。それは良かった。」

こんなに懸命な乱菊の役に立てたことが嬉しく、ルキアは微笑み頷いた。
しかし乱菊は突然手を伸ばし、テーブルの上に乗せられたルキアの手をがっちりと掴んで言った。

「手伝ってくれる?」

「・・・え?」

「わたし、あんまり裁縫得意じゃないの。今から材料買てきて、お願い!お守り作るの、手伝って頂戴!!」

「は・・・はい。」

「やったぁ♪じゃ、早速買い物に行きましょう!!」

鬼気迫る乱菊の迫力に押され、ルキアは逆らえずに頷けば、
すぐに乱菊は美しい笑みを浮かべ、嬉々として立ち上がる。

やっぱり、すごく綺麗な人。
・・・こんな人がライバルでなくて、本当に良かった。

と、ルキアは胸の内でこっそりと呟いた。

 

 

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gin top

※無駄に長い乱菊ターンですみません。
また、日番谷×乱菊要素ありで、嫌いな方もすみません。
私は大好きなので、ここは外せませんでした。私は今後も日乱でいきます!(宣言)
えーと。この回では、ギンと乱菊の間柄、つまりは幼馴染でそれ以上はなく、
おまけに好きな人に対してやることが似ているよーって事の説明の回でした。
今回は説明のみの、なんの萌えもないツマラナイ回ですみませんorz
次回でやっとギンが出てきます。半分はギンの出ないギンルキ連載って大問題?
2009.5.4

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