『 バレンタイン事変 その4 』

一夜明け、本日はバレンタインディ。
結局一晩中悶々として眠れなかったルキアは、朝になり思いきった行動に出た。

寝不足で妙に目の冴えたルキアが、今立っているのはギンの部屋の扉の前。

そう。ルキアは朝からギンの部屋の前に、やってきていたのだ。

電話する事が出来ないのに、私にこんな行動力があるなんて。
変に自分の行動力に感心しつつも、胸の中は不安が膨れ今にも破裂してしまいそうになりながら、
もう十分近く、ルキアはずっと扉を眺めていた。

昨夜の男がギンであればこの時間、きっと部屋にはいないであろう。
部屋に女はあげないと公言していたのだし、何かあれば女の所にいるはずだ。

突然こんな事をして恐い女だと思われるか、気持ちが悪いとも思われるかもしれない。
そんな不安はもちろんあったが、でも、どうしても止められなかった。

頭では信じると唱え続けても、心が全く納得出来ない。
それならば、自分の目で確かめるしかないであろう。

これが、ルキアの出した結論だった。

ルキアはそんな自分にあきれつつも、緊張に動悸が激しい胸を押さえ、またしばし部屋のインターホンを睨み続けていたが、
意を決し微かに震える手を持ち上げ、ボタンに向かってゆっくりと伸ばす。

ピンポー・・・ン

静かな部屋に確実に音が鳴り響き、その響きに中で人が動く気配にルキアは心底安堵する。
やはりギンは部屋にいた。
いてくれたのだ。

そしてやっと、ルキアはそこで気がついた。

扉の横についている排気口から、勢いよく湯気が排出されていることに。
十分近くここにいたのにこんな事にも気がつかないほど、私は周りが見えていなかったのか。

ルキアはそんな自分に嫌気を感じながら、扉に向かい近づいてくる気配にまた緊張が高まっていく。
なんと言えば、よいであろう。
素直に、昨夜似た人物を見かけ不安になって、顔が見たくなったと言えば許してくれるだろうか。
そしたらまたあの笑顔で、あほやなぁルキアちゃんと笑ってくれるだろうか。
そうであればいい。
でももしかして、ギンにひどく迷惑な顔をされても文句は言えない。
そう思うと、ルキアは静かに後悔する。
排気口だけ確認して、黙って帰れば良かった。
今これだけ蒸気が排気しているのは、朝からシャワーを使用していた証ではないか。

しかし時既に遅く、ガチャリと中で音がして鍵が外され、それと同時に無造作に扉が開く。

「なに〜?こんな朝早よぉから。おっちゃん、荷物やったら昼頃にしといて言うてるやん・・・」

上半身は裸で下だけパジャマの格好で、まだ眠そうでやや不機嫌なギンの声が聞こえ、ルキアは思い切って口を開く。

「・・・すまんな。こんな朝から。」

「ルっ・・・ルキアちゃん!!!???」

扉を開けたギンは予想以上に驚きに飛び上がり、
その顔は驚きにひどく引きつり、やや青ざめているように見えた。

「突然すまない。・・・ただ、どうしても確認したい事があって・・・」

「やっ!いや!!ちょぉ・・ちょぉ待っといてくれへん!?」

「え・・・?お、おい、ギン・・・!!」

バタン!!

と勢いよく扉は閉められ、玄関先でバタバタと大きな音が響いてきた。
明らかにすぐそこで何かをしている音に、ルキアは思わず扉を開け中を覗き込む。

「おい、ギン。一体何を・・・」

ルキアの声にギンは大慌てて振り向き、見たこともない程動揺していた。

「!!ル・・・ルキアちゃん!まだ来たらあかんよ!!!」

「・・・え?」

ゴトン・・・

そしてその絶妙のタイミングで、今ギンが閉めたばかりの下駄箱から女もののブーツが転がり出てきた。
そしてルキアの頭が空白になったその瞬間、更に室内で扉がガチャリと開く音がする。

「ちょっと〜ギン!ボディシャンプーきれてるんだけど〜」

「!!!!!」

「・・・・・」

大人びた女の声と同時に、シャワーの音と甘いシャンプーの香りが室内に流れ込み、
あまりの状況にギンは絶句し、ルキアも言葉を失った。

しかしその二人の空白の時間にも、女の声は続いている。

「・・・ギン?ねぇギン!!早くしてよ!私、急いでるんだから!」


そこで先に我に返ったのはルキアの方で、
ルキアは握っていたドアノブをすぐに離すと、その場から踵を返し一目散に逃げ出した。

「!!!ルキ・・・」


すぐにギンも扉を開け、駆け出すルキアの背中を追った。
しかしルキアはタイミング良く開いたエレベーターに乗り込むと、
すぐさま閉じるボタンを押してしまい、無情にも扉はギンの目の前で閉じてしまう。
しかしここでギンも諦めるわけにはいかない。
すぐさま脇の階段を長い足を最大限に活用し、サンダルにも関わらず二段飛びに飛び降りる。
そのかいあって、5階から降りたルキアに先回り、ギンはエレベーターの前で待ち構えた。
ポンという電子音がするとすぐにエレベーターの扉が開き、中から青ざめたルキアが飛び出してきたので、それをギンは捕まえる。

「ルキアちゃん!ちょぉ待ってや!」

「!!!ギ・・・ギン・・・」

ギンに両肩を掴まれ、ルキアは驚き表情が強張り、しかしすぐに顔を背けてしまった。
ギンは荒く息を吐きながら、それでも必死になってルキアに訴える。

「あ、あんなん見て、こない言うても嘘や思うやろうけど、僕、浮気はしとらんよ!!!」

「・・・・・」

そんなギンの必死の訴えも、ルキアは顔を背けたまま何も答えてくれようとはせず、
焦りにギンはますます多弁に言い訳を連ねていく。

「あれは、お、女みたいやけど、ほんまは女ちゃうんよ!!」

「・・・女ではない?ではなんだ?・・元は、男だったとでも言いたいのか?」

「そ・・・そうゆうわけでも、ないんやけど・・・」

「ならば普通に女ではないか!!・・・もういい・・・いいから、手を・・離してくれ。」

「せやからあれは・・・い、妹、みたいなもんやって!」

「・・・いいから、離せ!」

ロビーの清掃をしていたやけに筋肉隆々とした体格の良い管理人が、
上半身裸のまま、朝からエレベーターの前で揉み合うギン達の様子に、
不審げに視線を送ってくるが、ギンはそれどころではない。
しかし、ギンが必死になればなるほど、逆にルキアの不信感は募っていき、
あまりのショックに大きな瞳が潤んでくるのを感じたルキアは、
この場から早く逃げ出したくて、ギンの手を払おうと暴れながら大声で叫んだ。

「いやぁ!!離せ!・・・誰か、助けて!!!」

「!?なんっ・・・ル、ルキアちゃん?」

「助けて!やだ!!離せ!離せーーー!!!」

「ど、どうしたん?急に・・・」

「やだやだやだ!!!離せ離せ離せーーー!!!」

「落ち着いてや。ルキアちゃん。そない騒がんで・・・」


この事態に管理人は、箒をおくと眉を顰めて二人に近づいてきた。

「・・・なにをしておられるか市丸殿。そちらのお嬢さんは、ずいぶん困っておいでのようだが。」

「へぇ!?ちゃ、ちゃうんよおっちゃん!!これは・・・ちょぉ誤解なんやって!」

「とにかくその手を離されよ。ずいぶんと、怯えていらっしゃる。」

「せ・・・せやけど・・・」

管理人の登場で動揺にルキアの肩に置かれたギンの手から力が緩んだ一瞬の隙を逃さず、
ルキアはすぐさまその手を振り落とし、二人の脇をすり抜け、マンションから飛び出してしまった。

「!!ルキ・・・」

すぐさまこれをギンも追おうとしたが、今度はギンの腕が管理人によって拘束される。

「市丸殿。そのようなお姿で外へ出れば、すぐに捕まってしまいますぞ。とにかく今は、一旦お引きなさい。」

「うるさいわ!おっちゃん、ええから手ぇ離してや!!」

「・・・そうですか。ならば、私を突き飛ばしてご覧なさい!!」

「!?お・・おっちゃ・・・!!お・・・折れる!!それ以上やったら!ほんま!折れてまう〜〜〜!!!」

管理人の太い腕に力がこもり、掴まれたギンの腕がミシミシと悲鳴をあげ、同じようにギン自身も悲鳴をあげることになり、
結局ギンはそのままルキアを見失い、その後仕方なく部屋に戻りギンがかけた電話も、決してルキアに繋がりはしなかった。

 

 

<back   next>

gin top

※前回で意外にイヅル可哀想コメが多くてびっくりしましたwだってイヅルは不憫が似合う子なんだもの☆
とか、それはさておき事件ですよ!姉さん!(古)
もうこの状況、何言ってもダメですよね?少なくとも私だったらダメだろう。うん。
最初管理人は名もなきオリキャラだったんですが、箒が似合って体格のいいおじさんって・・・テッサイじゃん!!
ってことで、更新寸前に急遽テッサイさんってことにしてみました。きっと今後は出ないけどwテッサイさん超好きです!
2009.4.17

inserted by FC2 system