あの花は多くの者に愛されて咲き誇る。
誰かは護り、誰かは水をやり、誰かは愛でる。

だから僕が手折ろう。

護ることも水をやることも愛でることも許されないから。
小さくも凛とした強さと美しさに咲く花を。

愛するがゆえ、愛しすぎたゆえに。

誰にも渡しはしない。


僕が、手折ろう。





『 花を手折る 』







流魂街出身でありながら、大貴族朽木家の養子になったルキアは皆から敬遠されていた。

皆朽木の名に建前上は丁寧に接し、腹の中では疎み、陰口をたたき、決して歩み寄ろうとする者はいない。
その上朽木家では兄とも遠く距離をとられており、ルキアはいつも孤独だった。

そんなルキアの生活に変化が訪れたのは十三番隊へ入隊した時であった。

十三番隊隊長の浮竹は体が弱く床にふせていることが多いため、
実質取り仕切っていたのが副隊長の志波海燕であり、その人こそがルキアの心の拠り所になったのだ。

ルキアは海燕の前で素直に笑うことが出来るようになっていた。
それは普段のルキアとは別人と思えるほど愛らしい微笑み。

初めて目にした時の衝撃は忘れられない。

ギンはなんの目的もなく精霊廷を散歩していた。
散歩はギンの趣味であり、それは思いがけない場面に遭遇する楽しみがあるからだ。
その日十三番隊の隊舎付近に出たときだった。
知っているはずのなに聞きなれない楽しげな声にそちらを窺うと、声高らかに笑うルキアが居た。
その側に志波海燕の姿があり、ルキアはうっとりとしか表現できない表情で彼を見て笑っている。
自分には決して目も合わせようとはしないのに、あんな顔をして微笑むなどなんて憎らしい。

ギンの胸に闇が溜まり、化け物のようにのたうち蠢く。
ルキアが特定の者に好意を抱くなど、あってはならない。
いつでも孤独の中で憂い顔をしていればよい。


あいつを排除、せねば。


それもただ殺すだけではまだ足りない。

ルキアの心に深い傷となるような、二度と誰にも心許せなくなるような最も残酷なやり方で。


ギンは思いつくところがあり、散歩を切り上げ藍染の元へ急いだ。
藍染は五番隊隊長室にいた。
「君がここに来るなんて珍しいな市丸隊長。」
「ちょぉ提案がありまして。」
声の調子で例の件だとすぐに察した藍染は眼鏡を外し、
斬魄刀の力を使いここには誰もいない状態を作り出すと、鋭い眼差しでギンを見上げ藍染は静かに問う。
「・・・なんの提案だ。」
「最近おもろい虚作りましたやんか。あれです。」
「ああ、一日一回斬魄刀の力を失わせる奴か。
思った以上に能力は強く出来たが所詮あの程度だな。・・・あれをどうする?」

「あれ、十三番隊の管轄区域に住まわせたらええんやないかと思うたんです。」
「十三番隊?・・・浮竹のところか?」
「狙いは病弱隊長やのぉて、没落貴族様の方ですわ。」
「志波か?」
「そぉです。うまくいけば夫婦揃って掃除できるんやないかと思うたもんですから。」
藍染はしばし思案すると、やがてにやりと口の端を吊り上げた。
「・・・なるほど。面白そうだな。試しに放してみることにしよう。」
「おおきに。そしたらもう戻りますわ。」
「ああ、少しでも要領よく埃掃除をしてくれる事を期待しているよ。」
眼鏡をかけなおした藍染は刀を収め、瞬時にいつもの優しげな表情に変化する。
いつみても見事な早業にギンは内心舌を巻く。
ほんまに怖い人や。
そしてギンは自分の目論見どおりに事が運んだ事に気をよくし、鼻歌交じりに三番隊へと戻っていく。

 

 

虚が放たれ間もなくギンの策略はものの見事に的中した。
まずは三席の海燕の妻が討伐に出向いてやられ、その仇をとる為海燕が一人で戦いを挑み敗れる。
ここまでは完全に計算通りではあったが、まさか虚が乗り移った海燕をルキアが殺すことになるとは。

思った以上に成果はあったと言える。

ギンは志波の隊葬が済むと、式中見かけなかったルキアを真っ先に探した。
見つけたルキアは志波の席に放心状態で座っていた。
太陽を失った花は急速に枯れすぼみ、昔以上に表情が乏しく心が空になっている。
そんな娘をかどわかすなどひどく容易い。
出来れば闇の染め、仲間に引き入れることも難しくないかもしれない。
待ちわびた好機にギンはついに行動へ出た。

 

 

夕刻ルキアは人通りのない川辺にうずくまり、流れる水面をぼんやりと眺めている。
否、その瞳には何も映していないだろう。
ルキアは己の手にかけ死なせてしまった最愛の人を思い出している。
こんなにも夕焼けが美しいのに、ルキアの中にはあの夜の雨が降り続いている。

ギンは音もなくルキアの背後に近づき、声をかけた。
「ルキアちゃん。どないしたんこないな所で。」
ギンの呼びかけにもルキアは動かない。
まだアイツがルキアを支配している。
自分の策の成れの果てであるにも関わらず、その事実がギンの内に棲む魔物を増幅させる。

「ルキアちゃん、志波副隊長が探してたでぇ。」
「?!!なっ、海燕・・・殿が?」
色を失っていた瞳に狼狽が浮かび、悲壮な表情でルキアはギンを見上げた。
その大きな深い菫色の瞳と目を合わせると、いつもの人を食った微笑みを作る。


「あぁ、すまんすまん。志波はルキアちゃんに殺されてしもうたから、もういいひんかったんや。」
「!!!」


ギンの言葉にルキアは瞳を見開き頬を硬直させ、その場で固まってしまった。
ルキアの身体は雨に濡れているかのように小さく震え、顔を俯かせ固く唇を噛む。

志波海燕を思い出せばつらくなる。

そうルキアの心に刻み付けられた満足感がギンの中を満たす。
志波など忌まわしい記憶として刻み付ければいい。
そのルキアに空いた空虚を自分で埋めることが出来たなら。

ギンは叶わぬ一抹の希望を胸に、そっとルキアの手を取り優しく語りかけた。
「こないな所にいつまでおるん?寒ぅなってきたし、僕と一緒においで。」
ルキアを導き立たせようと手を引っ張ると、その手は簡単にギンの手から滑り落ちてしまった。
「・・・私のことは放っておいてください。」
ギンから手を膝の上に戻し、俯いたままルキアは小さな声で呟く。

放っておけるものなら、最初から放っておく。
それが出来ないからこうしているのに。
ギンは胸がざわつくのを感じながら、辛抱強く平静を装う。

「そない言われても、心配やん。風も冷たいし、暖かい所行こうか。」
ギンの言葉にルキアは一層肩を落として、宣言するように言い切った。

「・・・暖かい所など、もう、ない。」

力のないルキアの声がギンを受け入れまいとしているように響き、それはギンの最後の糸を切ってしまった。
ギンの内面はドス黒い感情が湧き出てうねり暴れだす。
それは怒り、嫉妬、そして死んでもルキアに想われ続ける男への羨望なのか、ギン自身もわからない。

ここからルキアを連れ行こう。
ギンは言葉もなく素早くルキアを抱き上げ、瞬時にその場から消え去った。

時刻は災いや魔物に逢うと言われる黄昏の逢う魔が時。
二人が居た痕跡はどこにもなく、夕日を写していた川面も暗い闇に沈んでいくだけだった。

 

 

ルキアを連れ去ったギンは自宅の隠し部屋にルキアを連れ込んだ。
幾重もの結界を張ったこの部屋は、隊長格の死神でも破ることは難しい強力な呪術を施していた。
広さは八畳位のもので、一組の夜具が置かれている。

「・・・なにをする?」
布団の上に放り出され、やや弱気に問いかけるルキアの瞳は恐れで大きく見開かれ長身のギンを見上げた。
ルキアの目の前へ立ちふさがり、ギンはいやらしく笑う。
「なにするて?まさか、ほんまにわからんの?」

ギンはしゃがむとルキアに口付け、そのまま押し倒す。
ルキアは驚き暴れながらなんとかギンを押し返そうと腕の中でもがくが、ギンは動じない。
それどころかルキアの攻撃を上手くかわしつつ、より深い口付けを行いながらルキアの衣装の帯を解いた。
「!!あっ・・・!」
ルキアが気付いたときにはもう遅く、袴を引き抜かれ細い足が剥き出しにされてしまった。
しかも太ももをギンはいやらしい手つきで、何度も撫で擦るものだからルキアは唇を塞がれたまま喉の奥で悲鳴を上げる。
足をいいように撫でまわすギンの手を払おうとルキアの意識がそちらに逸れると、
今度は簡単に上着を脱がされ、ルキアは一糸纏わぬ姿にさせられた。


「・・・ルキアちゃんはどこもかしこもほんまに白いんやなぁ。」
「やっ・・・めろ・・・!!」
やっと唇を離し、ギンはルキアの裸体を眺め心底嬉しげに呟いた。
ルキアは必死に唇を噛み、手で胸と下半身を覆い隠そうとする。
「手ぇどかさんと見えへんよ。」
「うるさい!装束を返せ!!」
「隊長に対してなんちゅう言い草や。ルキアちゃんは口が悪いなぁ。」
「黙れ!早く衣装を寄こして、私を返せ!」
ルキアの双眸が怒りで燃え上がり、その強い光にあてられギンの背筋にぞくぞくとした痺れが走る。

度重なるギンの狼藉にルキアは本来の気丈さを取り戻しつつあった。
誰にも見られたことのない姿をよりにもよって市丸ギンに見られている。
ギンは気味が悪い薄ら笑いをたたえ、ルキアの方へとにじり寄る。
その姿はまさに蛇が獲物を追い詰める姿に酷似しており、
ルキアは足元から恐怖がせりあがりともすれば凍り付いてしまいそうな身体を励まし、なんとか身体を捻らせ逃れようと試みる。

しかし当然ながらギンの腕はルキアを捉え、易々と両手を頭の上で拘束し、解いた衣装の帯で縛り上げた。
「なっ!なにをする!!」
「せやかて、両手が邪魔でよう見えへんのやもん。・・・腕切り落とす訳にもいかんやろうし?」
「・・・・!」
「ああ、でも。」
ルキアの顔の間近まで迫ったギンが薄く目を開け眼光を光らせる。

「大好きな副隊長さんを殺した手なんかいらんのやったら、取ってあげてもかまへんよ?」

ルキアは両目を完全に見開き、全身から冷たい汗が吹き出てくる。


海燕殿。

いまこの一時、ギンに翻弄されルキアは海燕を思っていられなかった。

私が殺したのに。海燕殿を殺したのに。

激しい後悔の念は濁流になりルキアの自我を簡単に決壊させる。
あとは羞恥も怒りもなにもなく、恐ろしいまでの完全な空虚が支配する。
拘束など必要がない程ルキアの目から急速に力が抜けていくのを確認し、残忍な銀狐は声なく嗤う。

「大人しゅうしてたら、優しくしたる。副隊長さんも忘れさせたるわ・・・」
もうギンの声など聞こえていないルキアは、死人のように動きを止めた。

ギンは構わず目の前の小ぶりで形良い真っ白な胸をすくうようにもみあげ、長い舌をルキアの首筋に這わせる。
その手触りと感触にギンはひどく満足した。
一見幼女のような体躯にみえても肌を晒したその姿はまぎれもなく女であり、
完全に成熟しきれていない未発達な部分も多い身体は余計に淫靡で妖しい興奮を掻き立てる。

数多の女を抱き、初めての行為でもこんなものかと酷く冷静でいられたのに、
ギンは浅ましい程夢中になってルキアの身体に溺れていった。
舌で舌を絡め、胸の頂を摘み擦り、内ももを撫で、秘部に指を挿入した。
「はぁ・・・ふぅっ・・・やぁ、あっ、あぁぁ・・・」
ギンの執拗な愛撫にルキアは僅かに反応し、小さく甘い吐息をこぼす。
控えめながらも感じているルキアの声にギンの劣情はますます煽られた。
秘部を掻き回す指は熱い蜜に濡れ、受け入れ態勢が整った事を報せている。
なんの抵抗も示さぬ両腕の戒めを解き、その手を己の首を抱えるように巻きつかせた。
「ちょぉ痛いかもしれんけど、辛抱してや。」
「!!ひぃっ・・・!!!」
ギンがルキアを貫き、ルキアはギンの首に必死でしがみつき、つらそうに声をあげた。
ルキアのそこは初めての侵入者に警戒し、身体を強張らせ拒む。
「・・・ルキアちゃん。もうちょっと力抜かんと痛いままやで?」
「あっ、あっ、あぁぁ・・・」
ギンの動きに合わせ繋がった部分が軋むように、ルキアはただ声をあげた。
それでもギンはできる限りの配慮でルキアを気遣いながら律動を繰り返す。

それなのに。

「・・・の・・・・の。」
やがてルキアの震える唇は喘ぎではない言葉を掠れながら紡ぐ。

ギンはその声を聞き、驚愕し動きを止めた。

今自分の下に横たわる少女の目は空を彷徨い、決してギンを見てなどいない。
挙句今囁かれた言葉は呪詛のようにギンを侵し、真っ黒に染めた。
「なんて?ルキアちゃん・・・なんて言うた?」
静かで深い殺意にも似た怒りを潜ませた声でギンは問う。
しかしルキアは怯えもせず、同じ言葉を繰り返した。


「・・・海燕・・殿。・・・海燕殿・・・」


ルキアの美しい菫色の瞳は霧に覆われ、心は自分が殺した愛しい男の元へ飛んでいってしまった。
ルキアはここにいない。
なのに抜け殻の身体を抱き、喜んでいた自分のなんて愚かなことか。
瞬時に芯が冷えたギンはこのままルキアを殺してしまおうか本気で逡巡するが、
それでは愛しい男の元へ送ることになりルキアを楽にしてしまうだけだと無理矢理自分を諌めた。

何ものにも動じぬ神経を持っているギンは、ルキアにかかりいともたやすく揺さぶられ苛立ちを募らせる。
許さない。絶対に許さない。

「そう・・か。僕に抱かれとぉないから・・・死んだ男に縋るんか・・・。」
ギンは心底おかしくてたまらないように、くっくっと喉を鳴らしそして叫んだ。


「死人と情交なんてえろぉ背徳的やね。ええやろ!愛しい副隊長さんに好きなだけ犯されや!!」


ギンは黒い怒りを込め、遠慮も気遣いも投げ捨て激しく激しくその身体を己で貫く。
もうルキアの口から言葉は出ず、ただ獣のように喘ぎ啼き喚くだけ。
ギンのもっている全ての愛しさと憎しみで、ルキアの全てを侵食すべく攻め続けた。

その拷問のような行為は明け方まで続き、ルキアは完全に意識を失った。
ギンは眠るルキアに剥ぎ取った衣装を着させ、誰にも知られる事なく隊舎の部屋へと寝かせておいた。

その日ルキアは高熱を出し四番隊へ世話になっていたが、
夕べの情事の痕跡を身体に残していなかったのでその事を誰にも知られる事はなかった。

きっとルキアは憶えていない。

海燕を殺した事は辛くても覚えていなければならないが、
ギンとの行為は悪い夢であったと記憶することすら拒むであろう。
それならそれでもいい。
ギンは誓う。
頭は憶えていなくても、身体は覚えているはずだ。
ルキアはずっと本能的にギンを恐れ、嫌悪を抱いているのだから。
好かれる事がないのなら、せめて徹底的に嫌われルキアの中に居座ることができる。
愛する人を思うように、憎い相手も考えたくはないのに考えてしまう。


志波海燕とは正反対の位置に僕はいる。
対極で紙一重の感情。


激情が過ぎ去ったギンの顔は、いつもの人を欺く笑みが浮かぶ。
ルキアが己が犯した罪の重さに耐え抜き、立ち直ろうとしたその瞬間。

僕が殺そう。

そうすることでルキアを永遠に自分のものにしてしまおう。
ギンはルキアが好きだった。
ルキアは藍染を除いてギンの発する邪心に気付いた唯一の存在であったのだ。
皆得たいが知れぬと言うだけで、本性までは知りえていなかった。
白哉と話している時でも、後ろに控えたルキアは怯えいつでもギンを警戒していた。
あの朽木白哉でさえ気付かなかったのに。
幼い頃共に暮らした大切な幼馴染、松本乱菊でさえも気付かなかったのに。
ルキアは気付いた。
本当の僕に気付いていた。
あの美しく大きい瞳に恐怖を宿らせギンを見る。
僕を見て。
そして怯えて。
もっともっと怯えて、嫌い憎めばいい。
そうされる事でルキアの中を侵食し蝕み巣くっていられる。

意識をされて僕は幸せ。
そして、僕が殺してあげる。
どうしても手に入らないなら、愛しい花を優しく手折る。

ギンはその時を思い、高揚する気持ちを抑えきれず珍しく声をあげ高らかに嗤った。

 

 

しかし事態は急変する。

朽木ルキアの魂魄に藍染の捜し求めた『崩玉』が埋め込まれていた事がわかり、
その崩玉を取り出す方法として藍染は策を巡らせ双極を使いルキアを処刑することを決めた。

計画を聞かされギンは内心落胆していた。
大事な花を他の者に手折られるなんて。
あきらめはつかないが、どうしようもない事態にギンは深く溜息をつく。

それならばせめて一言声をかけよう。
死にゆく君に最期の意地悪を。
ギンが出来るせめてもの行為。
ルキアの処刑日、ギンは自分に課せられた役割をそつなくこなし時間を作ると、
処刑場へ移動するルキアの元へ急ぐ。
高く長い吊り橋の途中、ルキアは赤い髪の幼馴染の霊圧が消えその名を叫んでいるところだった。

その姿にギンは苦笑しつつ、吊り橋を軋ませゆっくりと歩み寄る。
ほんまに君はいつでも他の男の事ばかり追いかけている。
大好きな副隊長に大好きなお兄様。
そのお兄様と闘っているのはルキアを救おうとする幼馴染。
挙句、現世の少年までルキアを救う為やってきた。
何人もの男達がルキアの為に躍起になっている。

しかし立場は違えど自分もそうなのかもしれない。
ただ彼らは花を護ろうとし、自分は手折ろうとしているだけで。

近づくギンに気付いたルキアは一瞬で冷や汗を浮かべ、驚愕と恐れを混ぜ合わせた表情で睨みつけた。
僕にだけ見せるいい顔だ。
満足気にギンは微笑む。
「ボクとキミの仲やないの。」
言葉の意味を理解していないルキアはただ黙って睨むだけ。

憶えてないようやけど、僕はその身体を喰らった事があるんや。
久しぶりに会えたルキアと話すのが嬉しくて、ギンの嗤いは止まらない。
ギンのこの行動は当然ながら藍染に計画されたものではない。

最期にルキアと言葉を交わしたかった。
ギンなりに純粋な想いでもある。

他の男達の窮地を餌に優しい言葉でルキアを揺さぶり、信じそうになった途端簡単に奈落の底へ突き放す。
ルキアの頭を撫でその感触を楽しみ、様々な感情が入り乱れた大きな瞳を間近で見れた。
本当は口付けたかったのだが、それではあまりに甘すぎるだろうと思いやめた。

身体は殺せなかったので心を手折る。

背を向け去っていくギンの後方からルキアの激しい慟哭が響き、ギンは心から満足した。
これで思い残すことはない。
これから処刑されるのは唯一愛した少女ではなく、崩玉の器。
ギンは感情を割り切り、処刑場に参列する。

なのに状況は一転二転し、ルキアは助け出された後、結局藍染の手の中にあった。
藍染の戦いを邪魔せず傍観していたギンは、今度こそ最期にルキアへと近づき首の拘束具を引っ張り立たせる。
藍染はルキアを受け取ると簡単に崩玉を抜き取り、ギンに命ずる。
「殺せ、ギン。」

その時急速に近づくあの男の気配を感じ取り、ギンはゆっくりと柄に手をかけ呟く。
「・・・しゃあないなァ。」
ギンは口元の笑みを覆うように袖を閃かせた。
「射殺せ『神鎗』」
微妙に時間を稼ぐように間合いをとり、ルキアへと刃を向けた。
ルキアはぐったりしながらも自分を貫く刃の方へ顔を捻らせ、その瞬間を待っている。

しかし神鎗はルキアを捕らえず、変わりにルキアを庇った義兄に突き刺さった。

やるやないか。朽木のぼっちゃん。

その様子をギンは今までにない厳しい表情で見つめる。
多くの者に護られて、やっぱりこの花は手折れない。

でも今はそれでいい。

あとは状況が流れるままに傍観を徹し、時が来ると拘束してい幼馴染の手を払い藍染らと共に大虚の元へ導かれた。

浮上し遠くなる地面を眺め、多くの死神の中から傷つき倒れこんだ義兄の頭を抱くルキアを見つめる。
君は最後まで僕を見てはくれへんかった。
ならば次の機会を待つとしよう。
唯一の心残りを未来への希望へ繋げる。
ギンは今後の展開を心待ち、いつもの笑みを浮かべたまま虚圏へ消えた。



愛しい花よ、今しばらくは咲いていてくれ。





僕が、迎えにいくまでは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

裏 top

いいわけ
 私が考えられた真っ黒ギン。・・・黒い、ですよね?
 ギンルキ書くためルキア救済編を読み直し、この妄想で捏造に成功?しました。
 面白いかどうかよくわかりませんが、本編をなぞらえられて話しが作れたのでそこは満足しています。
 ・・・でもやっぱり暗い終わりは性に合わない!いちゃこくギンルキ書きたいです。
 2008.5.25

material by 戦場に猫

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