『むかしむかし』 でも ない
少し 『少しだけ むかし』 の おはなし
この世界に 一人の 魔法使いが おりました
その魔法使いは 強い魔力の持ち主で 彼が望み出来ないことは ないと言われておりました
しかし 魔法使いは 険しき山頂の家に籠り 誰とも交流することなく
日々を退屈に 意味もなく ただただ 漠然と 生きている だけ なのでした
『 魔女集会 月ノ裏 』
『死神魔女』と恐れられている魔女ルキアが、人買から『月の忌み子』である市丸ギンを助け共に生活し数年の月日が経っていた。
ルキアは月明りで明るい部屋の鏡台の前に座り、寝起きに乱れた髪を梳き身支度を整えている。
台所の方から美味しそうな匂いが漂っており、間もなく食事だと呼ばれるだろう。
出会った時から既にルキアより背が高かったギン少年は、今では更に背も高く涼やかな顔立ち麗しい立派な青年に成長していた。
魔法で自在に髪色を変えて真っ白なチャイナカラーを着こなした異国の行商人のフリをして町へ買い出しに出れるようになったし、
ルキアに教えられた魔術を完全にマスターし、家のことから魔女の助手としても完璧に仕事をこなしている。
ここまで魔術が使えるならば、人の世界でもなんの問題もなく暮らしていけるだろう。
ギンはまだ若い。
時が止まったような魔女の巣を出てたくさんの人に会い、伴侶を見つけ人としての幸せになる資格があるのだ。
時は、満ちた。
ギンの成長に満足しながら、ここを出る準備が完全に整った事にルキアは、窓越しの満月を見上げ役割を終えた寂しさと達成感の中で決断した。
「ルキアちゃーん。ご飯やよー。」
「・・・こらギン。私の事は師匠と呼べと言っておろう。」
「へえへえ。お師匠はん。今度から気ぃつけまーす。」
「まったく。お前という奴は・・・・・」
「なに?ルキアちゃん元気ないんとちゃう?どうかしたん?」
「ん?いや・・・いいや。
そう・・・だな・・・・・ ・・・・・そうだな。
では、ワインでも飲みながら、ゆっくり話そうか。」
何度言っても直す気もないいつもの軽口にルキアは苦笑いをし、自分の席に腰を下ろす。
食卓にはギンの作った美味しい料理が並び、いい匂いがしている。
一人の時は料理らしい料理もせず、小鳥程度にパンを齧っていたものだが、ギンのお陰ですっかり食べるのが好きになった。
こんな温かな食卓を囲むのもあと僅か。
そんな想いをギンにいち早く見抜かれてしまい、ルキアは決意し取って置きのワインの瓶を手に取った。
「・・・なんや難しい話しようとしとるの?」
「難しくはない。ただ、もう頃合いではないかと思ってな。」
「頃合いて?僕とルキアちゃんの結婚のこと?」
「・・・・・お前が、ここを出て行く頃合いだ。」
「は?なんで僕が出て行くん?」
「お前は十分成長し、魔力を使い髪の色も自由に変える事も出来る。
そろそろここを出て、人間の世界に戻るべきではないのか?」
「なんで?僕を珍獣ハンターみとうに追い回してくる奴らばっかりんとこ戻ってなんになるん?
僕はずっとルキアちゃんと一緒におるよ。」
「ここにいても変化乏しく退屈で、お前のためにはならんだろう。」
「なんでそんなんルキアちゃんが決めるん?
僕がしたいこと僕が決めてええ言うたのはルキアちゃんやろ!」
珍しく苛立ったギンの言葉に、一瞬怯みはしたが、
この程度で折れる訳にもいかずルキアは言葉を選び話し続けた。
「そ、れは・・・そうかも、しれんが・・でも、だめだ。
人は人の世界で生きるのが道理。
私は少しの間預かっただけであり、命の時間が違うお前と生涯共にあるつもりはない。
人の世界に戻る気がなければ、ここを出た後はお前の好きにすればいい。」
「・・・・・」
話は終わったと言わんばかりに、ルキアは手にしたワインの栓を抜き二人のグラスへ注ぎぐっと飲み干す。
ギンはその様子を黙って見つめていたが、自分の目の前につがれたワインを一口飲み、それから静かに口を開いた。
「・・・・・なぁ、ルキアちゃん。
ルキアちゃんは『一人ぼっちの魔法使い』のお話、知っとる?」
「え?な、なんだギン。急に、そんな・・・」
「ええから。知っとる?」
「それは・・・もちろん、知っている。
伝説の魔法使いが人間の少女に恋をした、有名なあの御伽噺であろう?」
ある夜の ことです 夜に山間を飛んでいた魔法使いの目の前に 一人の少女 が 現れました
少女は 人買に追い回され崖から落ち 意識なく息も絶え絶えで 今すぐにも天に召されてしまいそうでした
そんな少女を 目にした魔法使いは 今まで感じたことのない 痛いほどの苦しさを胸に感じました
ここで出会ったばかりの 死にかけた少女に 突如狂おしいほどの 恋慕 に 襲われたのです
宝石のような少女を大事に抱え 魔法使いは 家へ連れ帰りました
死んで欲しくない 死なせたくない
心からそう願っても 魔法使いにも どうすることもできません
なんでも出来ると思われていた魔法使いも 人を生き返らせることは 魔法では出来なかったのです
「一目見た少女に恋をし、強い魔力を持ちながら助ける事の叶わなかった悲劇の寓話であったはずだが・・・」
「せやね。そのお話なんやけど、実は、続きがあるんよ。」
「続きが?まさか!その話はこの地方の御伽噺で、長らくここに住んでいる私が知らぬのに、お前が知っているわけがない!」
「そうやね。続きは誰も知らんのも当たり前や。
『僕』はそれ以上、伝えてないんやから・・・」
「『僕』、が伝えていない?
それは・・・・・どーゆー意味だ?」
意味深な言い回しに真意が計れず、困惑するルキアに薄く微笑み、
ギンは誰も知らない『続き』を、歌うように口ずさんだ。
死にゆく少女を目の前に 魔法使いは使ったことのない 『禁断魔法』 を使う決心をしました
生き返らせることは出来ない けれど 自分の命と少女の命を取り換えることは 出来たのです
そして 自分は死にゆき 再び生まれ 少女と出会う
それが 魔法使いの 『最後の魔法』 となったのです
・・・・・そして魔法使いは生まれ変わり、魔女となった少女と無事再会し、永遠にラブラブで暮らしましたとさ。
めでたしめでたし。ゆーことや。」
「・・・・・どーゆーことだ?その『お話』に、なんの意味があるというのか。」
「せやから、僕が『魔法使い』で、ルキアちゃんが『少女』で、
僕の命をルキアちゃんにあげて、死んで生まれ変わってきたゆう話や。」
「嘘だ!
と、とてもじゃないがそんな突飛な話信じられぬ!
そんな事、本当にあるわけがない!」
「いうても、当時の僕ん魔力はチートレベルやったし。
人を『生き返らす』ことは出来んけど、自分の命をあげて『生まれ変わる』ことは出来たんや。」
人を『生き返らす』ことは出来ずに、自分の命をあげて『生まれ変わる』魔法だと?
到底理解も納得も出来ぬ説明に、ルキアはムキになり悲鳴のような声を上げた。
「嘘だ!嘘だ!!そんなデタラメな魔法があってたまるか!!!」
「せやけどルキアちゃんは生きとるし、僕もここにおるのが確かな証拠なんやけど。」
「なな、ならば!この寓話はなんだ!?どうしてこの話が途中まで伝承されている!?
目撃者なく貴様が経験した事が、寓話として世に広まっているわけがないではないか!」
「僕が生まれ変わって、万が一記憶がのうなってたら困るやろ?
メモ代わりにこの地方の言い伝えいうことで、人の記憶に流しておいたんや。」
「・・・・・そ、んな・・ば・・・・・か、な・・・」
あきらかに次元の違うギンの言い分に二の句が告げられず軽い眩暈を覚えたが、
どうしてもここで話を終わらせる気になれず、最後に思いついた疑問を問いただす。
「・・・それならば!記憶があったのにどうして今まで黙っていた!?どうして私に何も記憶がない!?」
「今みたいに混乱させても可哀想やし、ルキアちゃんからは記憶消して、最初から『魔女』として一人生活できるようにしといたんや。
僕は弟子から旦那んなれれば黙ったまんまでもえーかなーと思うてたんやけど、
どうしても人として暮らせて頑なやし、せやったらもうネタ晴らししてもえーかなーて。」
「う・・・嘘・・・だ。そんな・・そんな、御伽噺が・・・まさか・・嘘だ・・・・・」
なんでもなくとんでもない説明をしてくるギンに、最早何が常識だったかわからなくなり、
意識が飛びそうなルキアは真っ青な顔でぶつぶつと呟き始めた。
反対にギンの方は悪戯が成功した子供のような笑みを浮かべ、混乱を極めたルキアをふわりと抱き上げた。
「そ・・んな・・・ばか、な・・・・・・ひゃっ!?な、なんだギン!?いきなりなにをするっ!?」
「随分混乱しとるようやし、今すぐ全部理解せんでもええよ。
せやけど僕は随分ええ子にしとったんやし、今すぐルキアちゃんとの夫婦にならしてもらうわな!」
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※本来8〜9月にあげるつもりが・・・しかもエロなし設定説明会。いつもの事だけど全然面白くないね。
だめなんですよ私。どーでもいいところでどーでもいい細かい設定思いつくんですよ。本当にどーでもいいのに。(大事な事二回)
次回は超お久ぶりーちなエロエロ後編ですが、一応『魔法使い』設定を活かし、今までにない事を二人にさせるつもりです。
張り切って今年中には上げるつもりで頑張ります!年跨ぐ可能性も高いけど応援してね!?
2019.12.9
material by 戦場に猫