『 本  能 』 (現代パラレル 過去編4)

当然ギンは考えていた。

二人以外誰もいなくなったオフィスで、せっせと残業をこなす吉良の側、ギンは窓の外に広がるビル郡を眺めている。


ルキアを縛る呪縛の鍵。


それは『中学時代』と『28歳』であろう。


とりあえずルキアと付き合いのある身近な人物に、それとなく話を聞いてみることにした。

「なぁイヅル。ルキアちゃんて、どこの中学出てん?」

ギンに話しかけられ、イヅルは手を止め、パソコンから顔を上げた。
「朽木さんですか?確か・・・空座白薔薇女子中学だっはずですが。」


「なんや、めちゃめちゃお嬢様学校やん。」

「でも高校は阿散井君と同じ、空座第一高等学校ですよ。」

「は?なんで?白薔薇女子ゆうたら大学までエスカレーターやろ?」

「理由は聞いたことないですけど・・・。阿散井君と、一緒が良かったんじゃないですか?」

「・・・」



ビシッ



この返答が気に入らぬギンは、満身の力を込め無言で吉良のおでこにデコピンを喰らわせる。



「痛ッ〜〜〜!じょ、冗談じゃないですか〜。だってあの二人、小学校からの付き合いなんですよ?
本気で付き合う気なら、もうとっくの昔に付き合ってますよ〜」


「・・・それでも、そないな事言われるんは、おもんない。」

ギンは子供のようにむくれ、イヅルからそっぽを向く。


吉良は涙目で傷むおでこを擦りながら、そんなギンを見つめて言う。
「あ、あの、先輩。・・・本当に、本当に朽木さんが好きなんですか?」

「なんやの急にイヅルまで。こない好きやー言うてんのに、なんで信じられんのや?」


ややおどけて返すギンに、イヅルはしばし迷った末に、険しい表情でぽつぽつと語りだす。

「朽木さん。大学時代から、本当にすっごくモテてたんですよ。
阿散井くんが側でガードしてても、隙を狙って近づこうとする人達も後を絶たないくらいで・・・。
でも、朽木さんは誰とも付き合ったことないんです。」

イヅルの様子になにか感じたギンは、黙って話の続きを聞き入った。
イヅルは続ける。


「一回冗談のふりして聞いてみたことがあったんです。こんなにモテるのにどうして誰とも付き合わないの?って。
そしたら朽木さん・・・不思議なこと言ったんですよね。」





『私は28歳になるまで恋愛はしない。恋愛をする資格もない。だから今は、誰とも付き合えないし、付き合う気もない。』





「なんで?って聞き返したんですけど、あとは有耶無耶にされて答えてもらえませんでした。
・・・でも朽木さん。すごく寂しそうな顔をしてました。だから何かあったんだろうって事くらいは思いましたけど・・・」



「・・・恋愛する資格・・・」

ギンは呟き、そして考えた。



また出てきた『28歳』


これはかなり重要なキーワードらしい。


そして新たな鍵。



『恋愛する資格もない。』



もしそんなものがあるとしたら、自分こそそんなものないであろうとも思う。


ルキアに会うまで、付き合ってきた者全て適当に遊んできた。
なんとなく気に入った相手を口先だけで落としては、毎回短期ながらも心の通わぬ付き合いを繰り返す。

相手の事を考えたことなど、一度もないのではないか。

そんな自分に『恋愛の資格』はあるとも思えないが、そんなもの、なくても関係ないだろう。


誰からも、なんの許しを得られなくても関係ない。

好きになってしまったのだから。


「・・・先輩。お願いが、あります。」
いつになく真剣な声で吉良がギンを見つめている。


「どないしたんイヅル。おっかない顔して。なんや?言うてみ?」


「僕、朽木さんって、いつも・・・心から笑ってないように見えるんです。

もちろん誰かおかしいことを言えば笑ったり怒ったりしますけど、なんとなく・・・違うような感じがして。

周囲に合わせてるだけに見えるんです。

でもそれが、先輩に対している時、本当に怒ってるような気がするんです。仮面じゃなくて、本当の朽木さんじゃないかって。

・・・だから先輩。朽木さんを、助けてあげてください。

僕にはわからないけど、何かに捕らえられている。彼女を助けてあげて欲しいんです。」




ギンは驚いた。

イヅルは気がついていた事に。

そして、想い人でもない友人に対し、心から心配しているその優しさに。



ギンは笑い、吉良の肩を軽く叩いた。
「もちろんルキアちゃんのことは、僕にまかしとき。
イヅルは優しいええ子やね。そないなとこ見せたら、ヒナちゃんかて一発で恋に落ちるかもしれんよ?」


「!!!な、なんですか!ひ、雛森さんは、かかか関係ないですよ?!!!」


ギンは笑って慌てるイヅルから離れた。
「そしたら今日はお先さしてもらうわ。イヅルも適当なとこで切り上げて早よ帰りぃ。」


「あ、はい!・・・お疲れ様でした。」

ギンは笑顔で手を振りオフィスを出る。



そして部屋を出た途端、にこやかだった表情を一変させ、厳しい顔で方針を考える。

「・・・・・とりあえず、中学校で検索してみよか?」



まずは事のとっかかりに、インターネットでルキアの中学時代でなにか事件が起きなかったか、調べてみることに決めた。

 

 

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※今の構想だけで、20回は行きそうな勢い。もはやパラレルとゆーよりただの創作になってる気もちょっとする・・・。
私が楽しいだけのお話になっておりますが、もし宜しければまだまだお付き合い頂けると嬉しいです・・・!
2008.10.10

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