『リモート コントローラー』 (現代パラレル 出会い編4)
散々悩んだ挙句、ルキアは吉良に頼むことにした。
それはどうしてもあの男と、もう一度会う気になれなかったからだ。
ギンにつけられた腕のキスマークはなかなか消えず、結局三日間もルキアの腕に居座り続け、
ルキアは見るたびギンを思い出しては、屈辱と恥辱に唇を噛み、バンソーコーで覆い隠した。
面倒ごとに吉良を巻き込むようで忍びなかったが、一週間悩みに悩んで今朝やっとこの結論に達することが出来た。
思い立ったが吉日と、ルキアは吉良の昼休みの時間帯を狙って携帯へ電話をかけると、五度めのコールで本人が出た。
「・・・あ、朽木さん?!こ、この前はごめんね?大丈夫だった?!」
慌てたような吉良の声が聞こえてきて、ルキアは小さく苦笑する。
周囲からコピーの動いている音が響いているから察するに、吉良はまだ会社にいるようだ。
「すまない吉良殿。まだ仕事中のようだが、少しだけ話しても良いだろうか?」
「今、終わったところだから大丈夫だよ。」
「・・・今、吉良殿お一人か?」
「皆お昼で出てるから僕一人だけだけど。・・・それで、あの、先輩になにかされたり・・した?」
吉良の声が潜められ、ルキアは軽く溜息をつく。
「・・・あの男は、なにか・・その・・・言っていた?」
「い、いや!先輩は・・・二人だけの秘密だとかなんとか・・・」
その言葉にルキアの瞳がつり上がり、声が思わず荒ぶる。
「なにもない!なにが二人だけの秘密か!!断じて!あの男とは、なにもない!!!」
「く、朽木さん・・・?」
普段と違うルキアの態度に、吉良はなにかあったと思わずにはいられなかったが、それは地雷だと確信し、あえてそのことに触れることをやめた。
そして我に返ったルキアは、やや決まり悪く黙り込んでから本題について話す。
「・・・それで、申し訳ないのだが、今日にでも仕事が終わってから、少し会ってはもらえないだろうか?」
「今日?あぁ、今日なら大丈夫。でも七時は過ぎると思うけど、それでもいいかな?」
「こちらは大丈夫だ。・・・すまない吉良殿。」
そして待ち合わせの店を決めると電話を切った。
吉良は椅子の背もたれに体重を預け、ふーっと長い溜息をつく。
ルキアから吉良へ電話がくることなどほとんどなく、用件が市丸ギン絡みなのは明白なことだ。
ギンのあの態度を見れば、余程ルキアを気に入りなにかしでかしたに違いない。
(一体先輩は、朽木さんに何をしたんだろう・・・?)
吉良がぼんやりと物思いに沈みかけた時だった。
「イーヅールー♪」
「ひっ?!・・・うっ!わぁっ!!!」
ガッターン
頭上から突然声が降ってきて、吉良は派手に椅子から転がり落ちた。
「どないしたん?会議の書類もう出来たんか?頑張る可愛ええ後輩に、差し入れ持ってきたんよ。」
慌てて身体を起こした吉良は、片手にファーストフードの包みを掲げにこにこ笑う長身のギンをやや強張った表情で見上げた。
「あ、あの先輩。いつからいらっしゃったんですか・・・?」
「今来たとこやけど、どないした?なんぞあったん?」
「い、いえ!!なにも!なにもありません!!そ、それ頂いても宜しいですか?!僕お腹が空いてしまいまして!」
「ええよ。早よぉ食べとき。」
吉良はギンから包みを受け取ると、急いで中身を取り出しかぶりつく。
どうやらあの会話をギンは聞いていなかったようだ。
もし聞かれていたら、間違いなくルキアに会うため一緒に行くと言い出しただろう。
安堵感に吉良は夢中で食べはじめ、ギンは傍らで黙ってコーヒーを飲んでいた。
「・・・はぁ。先輩本当にご馳走さまでした。もう時間もなくて、昼抜き覚悟だったんですよ。」
「そら良かったな。あと、書類の最終チェックもしときや。部長は色々うるさい人やから。」
「は、はい!」
吉良は食事の後片付けし、仕上げたばかりの書類を手に取った。
「あとな、イヅル。」
「はい?」
呼ばれギンを振り仰ぐと、企み顔で微笑むギンとばっちり目が合った。
「僕からの差し入れ、全部喰いよったな?」
「は?・・・い、頂きましたけど?」
ギンはそこで大袈裟に頷いてみせ、ぽかんとする吉良の肩に手を置いた。
「そしたら今夜、どこでルキアちゃんと会うん?」
バサササ・・・
吉良は顔面蒼白になると言葉もなく、手にした書類を床へと滑り落とした。
※ギンとルキアが絡んでなくてごめんなさい。この回は吉良を顔面蒼白にさせたくて考えました。
吉良はギンのせいでいつも大変な思いをさせられています。そーゆー子なんです。
2008.9.7