『 真夜中 は  純 潔 』 (現代パラレル 未来編7)

窓を叩く微かな雨音。
真夜中にギンは、ゆっくりと意識が浮上したのを感じた。

久しぶりの熱に、身体はだるくやけに汗ばみ、ひどい喉の渇きをおぼえる。

「・・あー・・・しんどぉ・・」

すぐには自分の状況が思い出せなかったギンだが、目覚めてしばしぼんやりとしており、
静かに響く雨音にだんだん記憶が甦る。


公園でルキアと別れ、あまりの絶望感にその場から動けなくなり、
ずっと雨に打たれた挙句、ルキアに抱かれた夢を見たような気がするがーーー

いつの間に帰ったのかそこら辺の記憶があやふやではあったが、
今自分は部屋のベットに横たわっているのを知り、ギンは息つき顔をあげると、
サイドテーブルにミネラルウォーターのペットボトルが置いてあるのを見つけ、
何故そんなものがそこにあるのか不思議に思いながらも、
水を求めて身体を起こそうとしてからやっと、隣に寄り添う暖かく柔らかな存在に気がついた。

「・・・へぇ?」

見た瞬間、我ながらひどく間抜けな声が出た。

それも仕方あるまい。
一緒の布団で眠っているのは、紛れもなくルキアだったからだ。

サイドテーブルにあるスタンドの柔らかな明りに照らされ、それは幻覚でもなんでもなく、右腕に確かに重みを感じている。

間違いなくルキアが、自分の腕の中に眠っているのだ。

ルキアは着ていた服を脱ぎ、ギンのシャツを着ていた。
ギンが無意識に部屋を見回し、ルキアの着ていたシャツがハンガーにかけられているのを見つけると、
今の状況がどれほどとんでもないものなのか一気に認識できてしまった。

寒がるギンを暖めようと、ルキアは濡れた服を脱ぎ、シャツを借りて布団の中に潜り込みギンの傍に寄り添ったのだ。

普段のギンであれば少し考えればすぐにもわかりそうなものだが、
熱で冷静さを欠いた上にあやふやな記憶のギンは激しく混乱しながら、ルキアから目が離せない。

ルキアはひどく健やかにすうすうと寝息を漏らし、ギンの腕の中で眠っている。

自分はルキアを抱き締めていたらしく、腕枕をし、もう片腕はその細い腰に回していた。

布団の中は自分の発熱のせいで、むんむんとした熱に蒸れ、それに混じってルキアの甘い匂いがギンの鼻をくすぐった。
ただでさえルキアと出会ってから、他の女達との交流をすべて断った人生で初めての長い禁欲生活に、
その香りの甘さやぴたりと密着した身体の柔らかさや胸にかかる熱い寝息は、凶暴なまでに強くギンの本能を掴んで揺らす。

(・・・なんやの・・・これ。)

自分がどんな状況かわかると、ギンの思考は急激に暴走しかける。



−−−これは、つまりいいってことなん?いや、もうしてしもうたのか?
−−−え?でも全然覚えとらんし、それやったらもう一回ちゃんとーーー?!



ギンは混乱し腰に回していた腕に力が入り、自然とルキアを強く抱き寄せていた。

「・・・ん?・・痛・・・」

しかし痛みを感じたルキアの寝顔が微かに歪み、それでギンは瞬時に正気に戻る。

とりあえず腕の力を抜くと、ルキアの顔も元に戻り、ギンはほーっと心底安堵して、
それから少しだけ落ち着きを取り戻し、もう一度よくルキアを見つめた。

「・・・ほんまに・・可愛ええなぁ・・・」

無防備に眠るルキアに見とれ、ギンは小さく呟いた。

真っ白な肌に、艶やかな黒髪。
整った目鼻立ちに、影落とす程長く縁取られた睫毛。
小さな唇はほんのりと赤く、それは熟したさくらんぼのように美味しそうにギンを誘う。

「・・・あかんわ!」

ギンは顔を逸らすとルキアが起きない程度に、自分に突っ込みをいれた。

このまま唇を喰らえば、もういきつくとこまでいくしかない。
熱のせいで自制心を保っていられる自信がない。
しかもこの状況は、普通の男であれば我慢しろ!という方が絶対無理なシチュエーション。

すべてを熱のせいにして最後までいくことは簡単だが、
そうすればやっとここまで気を許してくれたのに、
極度に警戒心の強い黒猫のようなこの娘とは永遠の別れが訪れるだろう。
どんなに苦しく辛くても、それだけは回避せねばならない。

それからギンは、ふと思いつく。

(・・・まさか・・そんなん・・あるわけ、ないやろう・・・けど・・・)

ギンは自分の思いつきに腰に回した手を、慎重に少しずつ下に降ろしてそこを探ると、剥き出しになった生太ももに行き当たった。

「・・・もう僕に、どないせぇいうん?」

ギンはひどく情けない声が出て、やはり眠り続けるルキアを見た。
まさかこのような形でルキアの太ももを再び撫でることになろうとは。

ギンのシャツはルキアにはひどく大きく、手軽なズボンも見つけられなかった為、ルキアはシャツ一枚の姿であった。
しかもルキアの片足はギンの足の間に差し入れられ、ギンの欲望は容赦なく煽られ続ける。

ルキアはこの歳までなにも知らぬ、純粋培養されたお嬢様でありながら、
またその純粋さゆえに寒がるギンを放っておけず、恥ずかしさを押して、このような姿でギンを暖めることに決めたのだろう。

その気持ちは純粋で、それだけにタチが悪い。

少しでもそんなつもりが混じっているなら、遠慮なく全て喰らい尽くせるのに、残念なことにルキアの思いに不純物が一切ない。


相手は無自覚で最強の小悪魔だ。
これでは非情な悪魔も、簡単には手がだせない。


これはいかん。
これはいかんて。

太ももを撫でた手を、ひどく名残惜しくもゆっくりと引っ込め、再び腰の位置に戻す。
滾った熱が体中巡り、風邪で全身がぐったり疲れているにも関わらず、抑えようのない欲望が力をつける。
でも、その濁った欲望はどこにも行き場がなく、ギンを余計に辛く切ない気持ちにさせるだけ。

ギンは若くして初めてその行為を知った日から今まで、そのことに対し困ったことなどなかった。
気に入った女は大抵落とせたし、たまに失敗しても他で代用できるそんな程度の思いしかない。
そして今初めてギンは、自分の欲望と闘わなければいけない状況に陥ってしまったのだ。

布団の中でシャツ一枚のルキアを腕の中に抱きながらも、決して手をだしてはいけないこの状況は、
ルキアの為に尽力を尽くしたご褒美なのか、はたまた、今まで散々雑に女を扱い続けてきた天罰なのか。

・・・それは間違いなく、後者の方が当てはまるであろう。


なんにせよ、ギンは風邪とは違う汗を全身にかきながら、それでも腕の中の存在を手放すことなど出来もせず、
正におあずけ状態の生殺し気分で、ルキアが身動ぎするたび過剰に反応しながらも、
悶々としたまま朝方まで寝付くことができないでいた。



しかし外では雨が止んでおり、朝を告げるため太陽が顔を出す準備を始めていた。

 

 

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gin top

※少年誌ではありがちな、そうなりそうでならない寸止め展開。
 少年誌ではムカつくなぁとか思いつつ、少女漫画ではそれなりに萌えていた気がします。
 あぁそうだ!少年誌はいっつもそんな展開ばっかだから嫌なんだ!
 そこまでするなら、もういくとこいけよ!!って思ってたw
 2009.1.24

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