『君の 瞳に 恋 してる』 (現代パラレル 出会い編2)
落ち着いたバーのカウンターに、それぞれの気持ちを表情に投影させながら三人は並んで座っていた。
ルキアは居心地悪そうに。吉良はおろおろと。ギンだけは心底楽しそうに。
そもそもこの並びがおかしい。とルキアは思う。
吉良殿の隣も空いているのに、なぜこの男は私の隣に座っているのか。
いや、一体この男は何を考えてここへ来たのか。
ルキアには、ギンの考えていることが一向にわからず、そのことに嫌な苛立ちを覚える。
往来でギンと別れて間のなく、イヅルのお気に入りのバーに着き、
カウンターへ腰掛けそれぞれ飲み物をオーダーした瞬間、すぐにギンが店へとやって来た。
「やっぱりなぁ。イヅルのことやから、ここに来る思うたわ。」
「?!せ、先輩!!どうしてここに?デ、デートじゃなかったんですか?」
さっき別れたばかりのギンの出現に、吉良は思わず立ち上がりルキアも驚きが隠せない。
「別れてきた。」
しかしギンはまるでなんでもないように言い捨て、さっさとルキアの隣のスツールに腰を下ろす。
ルキアは初対面にもかかわらず、つい一喝してしまった気まずさに顔を向けることが出来ず、助けを求めて吉良を見た。
「せ、先輩?そっちじゃなくて、こちらの方で飲まれては・・・」
「ここがええ。」
ギンはすぐに飲み物をオーダーして、それからルキアへにっこりと微笑む。
「僕、イヅルの会社の先輩で、市丸ギンいいます。キミのお名前、教えてくれへん?」
さすがに無視することもできない状況に、ルキアは俯き加減のまま小さな声で呟いた。
「・・・朽木、ルキアです。」
「ルキアちゃんか。ええ名前やね。」
ギンはにこにことルキアを見続け、ルキアはどう対処しようか悩んでいるところへ酒が運ばれてきた。
「そしたら、乾杯しとこうか?」
「・・・なににですか?」
訝しげに問いかけるイヅルを無視して、ギンはルキアへ微笑んだ。
「素晴らしい出会いに。や!」
ギンは一人浮かれてグラスを持ち上げ、ついていけない様子の二人にも同じようにグラスを掲げ上げさせ、カツンと音をたてグラスを合わせた。
こうして、愉快とは言いがたい、奇妙な夜は始まったのだった。
ギンはよく喋り、よく飲んだ。
仕事先での面白話やどうでもいいような雑学まで、とにかく喋り二人を引き込む。
その話の間にルキアへも軽いちょっかいをだしては、ルキアに睨まれ、吉良がオロオロとしていた。
居心地の悪さにすぐ帰ろうにも、吉良の顔を立て一時間は我慢しようと思っていたルキアだが、
いつの間にか話術に引き込まれ二時間近くたっていた。
「なんやイヅル。もう飲まんのか?」
「・・・勘弁してください。僕は先輩と違って、そんなに強くないんですから。」
「そしたら、イヅルの話でもしよか?この前酔っ払ってしもうた時、熱弁奮ってたひなちゃん言う子の・・・」
「?!の、飲みます!先輩!飲みますから、余計なことは言わないで下さい!!」
ギンの挑発に負け、イヅルはまたしてもグラスを空ける。
そしてギンは、隣で静かにしているルキアへと顔を向けた。
「ルキアちゃんは、もう飲まんの?」
「・・・わたしは、そろそろ失礼しますので。もう結構です。」
「まだええやん。遅ぅなっても、僕が送ってあげるしな。」
にこにことギンは人好きする笑みを浮かべるが、それはルキアの警戒心をかえって強くする。
先ほどとはまるで違った態度のルキアをギンは心から愉快に思い、どうしても煽らずにはいられなくなる。
あの強い輝きを宿した、美しい瞳が見たい。
そう、あの瞳にギンの心は掴まれたのだから。
「なんや。さっきと違って、ほんまはずいぶん大人しいんやね?」
「!!・・・さ、先ほどは、あなたの物言いが、ずいぶん尊大に聞こえたものですから。」
「尊大?自分の気持ちに正直言うて欲しいなぁ。
あの娘といてもつまらんから、別れてきたんやし。」
「・・・ずいぶんと、冷たいのですね。」
「だから、正直過ぎるだけなんや。」
ルキアは鋭い視線でギンを一瞥し、それからカウンター下に置いたバックを手にして財布を探し出すと、
財布から千円札を三枚程取り出して、カウンターへ置き、席をたつ。
「これはわたしの分です。お先に失礼します。・・・吉良殿。それでは、また。」
「ちょお、待ってな。」
そしてギンは飲まされすぎて、ぐったりとしている吉良を揺さぶり起こす。
「なんやイヅル。もうあかんのか?」
「・・・っ、へ、平気です。」
「そしたら、これな。僕ら出てるわ。」
「えっ?!あ、あの・・・!」
ギンはイヅルの手に金を握らせ、カウンターに置かれた札をルキアのポケットに突っ込んでから腕を取り強引に一緒に店から出た。
「あ、あの!吉良殿は平気でしょうか・・・?」
「イヅルはな、ほんまにあかんかったら、返事も出来んようになる。だからまだ平気や。」
ルキアの腕をとったままギンは駅とは反対方向へ歩き続け、ルキアは引きずられるように歩いた。
「あ、あの!」
「ん?なに?」
「どこに、行くんですか?」
ルキアの問いかけに、ギンは立ち止まりニヤリと微笑みかける。
「どこって、帰るんやろ?」
嘘くさい。
瞬時にルキアは警戒心を露わにする。
ギンは薄く笑ったまま、掴んでいた腕を放しルキアへと向き直る。
「ルキアちゃん。僕と、お付き合いせえへん?」
「・・・え?」
あまりに突拍子のないギンの申し出に、ルキアは目を丸くする。
「僕と、お付き合いして、ください。」
発音の違う標準語で、ギンは笑ったままもう一度言った。
ルキアはやっと言われた言葉の意味を理解すると、思わずかっとして力一杯叫んだ。
「断る!!!」
そしてギンから背を向け、駅目指して足早に歩き出す。
馬鹿にして。馬鹿にして。馬鹿にして。
ほんの二時間前に会ったばかりなのに(私は初対面なのに怒鳴りつけている。)、なんて軽薄な男なのか。
しかも、ついさっきまで彼女がいた身の上なのに。
ルキアのもっとも苦手で、大嫌いなタイプのど真ん中。
苛々とムカムカする気持ちを抱え、少しでも遠くギンから離れたくてルキアは精一杯歩幅を広げ駅へと急いだ。
※平成20年の9月はギンの誕生月でもありますし、ギンルキ強化月間。と、しました。なんだか色々ネタが思いついたので、出来る限り書いてみようと思います。
私の書くギンルキでもOKの方は、一緒に楽しんでくださると嬉しいです〜☆
2008.9.1