『 弁 解 ド ビ ュ ッ シ ー 』 (現代パラレル 未来編1)

海燕と夢で会えてから約一週間後。
以前吉良から聞いていたビルの近くに、大きな車道を挟んだ歩道へルキアは立っていた。

ギンとイヅルはその世界では割と有名は、いわゆる一流企業に勤めており、そのオフィスは丸の内にあった。

ルキアは困っていた。

ここまで来たはいいが、これ以上の事は本当に何も考えていなかったからだ。

吉良を呼び出し、ギンに礼を言ってもらったほうがいいのであろうか?
しかしなんと、言付ければ良いものか。


あの日はもう二度とギンの顔など見たくないと思ったが、その日の夜に笑っていた海燕に会えた。

たかが夢とはいえ、その夢に怯え罪の意識に悩んでいたルキアにとって、それは奇跡的なものであった。


それは認めたくはないが、自分の考えが間違いであり、あの男の言っていた言葉に真実があったのかもしれない。
大体何が真実で何が間違いであるのか明確に判別がつくことではないが、
あの夢で海燕と話せたことでルキアの心の中の罪の意識の氷塊は、確実に小さく心が楽になっていったことを感じていた。

そう思うと、ルキアの性質上自分の非を認めないまま、どうしてもこのままギンに何も言わずにはいられなかった。


そんな衝動的な思いでここまで来たはいいが、ルキアは途方に暮れていた。


自分の方からもう二度と会わないと条件にしておきながら、はたしてどのような顔でギンと対峙すれば良いものか。
それはやはり決まり悪く、気まずい思いにルキアは息苦しさを感じる。

電話する勇気も持てず、なんの策もないまま、ルキアは思わずここまで来てしまったのだ。


時刻は18時。


ビルの出入り口がよく見える喫茶店の窓際に座り、ルキアはどうしたものかと重いため息を何度もつく。

ちらほらビルから人が出て来るが、今の所あの長身の姿はない。


もっと言えばギンが今日出社しているのか、何時に帰るのか、一切の情報はない。
下手に吉良へ連絡を取り確認してしまえば、なんらかの形で奴に知られるのがルキアは恐かった。

最悪休んでいたり、出張だったり、残業だったりとの可能性も高いのだが、とにかくルキアは22時まではここで待っていようと決めた。


だがギンに会って、どうすればいい?


ルキアの心は、揺れ動く。


本当は、待つだけ待って会えなかったら、それで良いことにしようかとの思いもあった。

それに、ギンに今更何をしにきたと言われてしまったらどうしようとの不安も常につきまとう。


会いたいようで、会いたくない。


ただひとめ、遠くからでもギンを見つけて、自分がなんと思うか確かめてみたい気持ちもあった。
だからルキアは今日、思いつきで無意味でもいいからギンを待とうと決めたのだ。



しかしそれから30分後、ギンは予想外に早く姿を現した。


張り込み開始から僅か30分では、正面きって会う覚悟はまだ固まっていない。
2〜3時間も待った後なら待ち飽きた衝動で、ギンの前に飛び出せたかもしれないのに。


どくり

ビルの扉から出てくるギンの姿を認めて、ルキアは胸が大きく跳ね上がるのを感じる。


その長身のシルエットは、特別に存在感を放ち、少し離れたここからでも間違いなくギンであるとルキアにはわかった。


ルキアはドクドクと波打つ胸を押さえ、慌てて席を立ち、支払いを済ませ店を飛び出した。


ギンはたぶん普通に歩いているのだろうが、その足の長さにずんずん先に進んでしまい、ルキアは反対側の歩道から小走りになって後を追いかけた。

するとギンは間もなく、道路に面した小さなガラス張りの喫茶店に入っていった。


それを確認して、ルキアは怯む。


会社帰りにこんな近場でお茶をするとは思えない。

誰かとの先約があってのことだろう。



待つべきか?このまま去るべきか?



ルキアは悩みながらも、ガラス窓の店内を覗き込み、動きが止まった。


ギンは窓際の椅子へ、腰掛けたところだった。

向かいには一人の女が、座っている。


遠めに見ても、美人なのがよくわかる面立ちをしていた。

癖のない長い髪。小さな顔立ち。流行をさりげなく取り入れた最新のファッション。


まるでモデルのような美しい容姿に、ふいにギンと初めて会った夜、吉良が叫んだ声が聞こえた。

『モデル系の美人の彼女』

その彼女かもしれないし、他の彼女かもしれない。



ルキアの鼓動が、やけに早まる。



ギンが席に座ると、女はにこやかに微笑み、待ちかねたようにテーブルの上に置かれたギンの手に自分の手を重ね、
ギンはされるがままにしており、女はなにか話しとても嬉しげに笑っていた。


ここまで見れば、十分だ。

人のデートを覗き見た上、待っている程莫迦ではない。


ルキアはよくわからない衝撃を自分が受けていることを感じながら、この先にある駅目指し歩き出そうとした。


その瞬間。


店から視線を外そうとしたルキアの視線の端でギンが表に視線を移し、驚いたように動きが止まったかに見えた。



まさか、見つかった?



ルキアは焦り、もうギンの方を見ることが出来ずに慌てて走り出す。

ギンが席を立ち店内を走り外に飛び出したのと同時に、ルキアは丁度目の前で停車したバスの行き先も見ずに乗り込んだ。



「ルキアちゃん!」



赤信号と多くの車に行く手を阻まれ、道路を渡れずギンがそう叫んだような気はしたが、
ルキアは固く瞳を閉じたまま顔を伏せ小さく丸またまま、バスはゆっくりとその場からルキアを連れ出してくれた。

 

 

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gin top

※すみません。私は丸の内を知りません。歌のタイトルになぞらえ、丸の内を舞台にしたものの、どんな所か全然知らないので、
知っている方には「こんな場所丸の内にない!」と思われても、私のイメージ状に存在する丸の内なので、どうぞご容赦下さいませ・・・。
2008.11.16

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