『 虚 言 症 』 (現代パラレル 過去編9)

いつの間にか明るかった空には、雲が広がりはじめていた。
部屋に差し込んでいた明るい日差しは消え、変わりに冷えた空気が満ちていくのが目に見えてわかるような気にさせた。


それはルキアの心情にも連携しており、
その心にかかる雲がもたらす雨がルキアの瞳からとめどなく溢れ、ルキアは時々苦しげに嗚咽を漏らす。


その姿は痛々しくも、十年もその小さな胸の中だけに押し込めた罪の告白に、ルキアは声を止めずに必死になって言葉を紡ぐ。



「先生の夢から、目が覚めると・・・寂しさと・・悲しさと・・・罪の重さに・・いつも・・いつも、押しつぶされそうになる。

あの日の・・・雨に打たれたみたいに・・・・・寒くて・・・寒くて・・・・・しばらくは、全身の震えが・・・止まらない。

先生の・・・あんな寂しそうな顔を・・夢で見るたび・・思う。

・・・自分は、許されていないと・・・先生に許されてなど、いないのだと・・・・・思い知らされているようなんだ。」




やっとの思いで胸の内を吐き出したルキアは、俯き両手で顔を覆い隠し、しばらくそのまま泣き続けていた。



ギンはルキアのその様を、微動だにせず見つめ続ける。



側に寄り添い、肩を抱き、優しい言葉をかけることもなく、ルキアの泣き声が治まるまで、そのまま静かに見つめ続けた。


なぜなら、今はまだ、その時ではないからだ。


今ルキアに優しく語りかけても、まだルキアの胸には届かない。
今はまだ、ルキアの胸の中で強固に固まった罪の意識に、やっと僅かなひびをいれただけに過ぎない。


まだだ。

まだ、徹底的に壊さなければならない。


しばらく待つと、ルキアの嗚咽がやっと少し静かになってきた。
それからギンは十分に待ってから、やっと静かな声でルキアへと語りかける。


「先生にそないな顔させとるんは、ルキアちゃんのせいや。」


「・・・そうだ。・・・私の、せいだ。」
ギンの言葉にルキアは、顔を俯きふせたまま素直に頷いた。

しかしギンは呆れたように大袈裟な溜息をつくと、わざと片膝を立て体勢を崩し、それから改めてルキアへと向き直る。



「僕が言うてるんは、ルキアちゃんが思うとるそーゆー意味やない。
笑った顔しか知らん先生に寂しそうな顔さしてるんは、今、ルキアちゃんが先生を悲しませとるからって意味なんよ。」


「今、私が悲しませている・・・?」


ギンの言いたい事が掴めず、困惑したルキアは少しだけ顔をあげ、そっとギンの方を盗み見た。

その視線に気がついてはいたものの、ギンはルキアの方は見ないまま、まるで独り言のごとく天井に向け大きな声で話す。


「先生は、今のルキアちゃん見て何て言わはるんやろね?『そない僕のこと思ってくれておーきに』なんて、喜ぶと思うてるん?
そない薄情な人、ルキアちゃんは好きになったん?」



ルキアは少しだけ瞳を見開いた。


ギンの言いたい事は良く分かっているつもりだ。

本当は先生は、私を恨んでなどいないはずだ。
こんな私でも、きっと許してくれるはずだ。


そんな人だ。



ルキアが恋した志波海燕という人はそんな、大きくて暖かい人だった。



そんなこと、ギンに言われるまでもない。
海燕と一緒にいれた自分の方が、本当は十分にわかっている。


でも、それでも辛い。苦しい。

私が、先生を殺したのだから。
だから夢で会える先生は、いつもあんなに寂しそうなのだ。


そんな思いにルキアは顔をあげ、声を荒げて叫ぶ。

息を乱し、小さな拳を握り締め、自分の誓いを護るように、必死になって全身でギンへ叫んだ。




「でも・・・!それでも・・・!!私が殺したんだ!先生を、私が!!!
・・・だ、だったら、せめて!・・・せめて、先生の・・先生のためだけに私が出来ることを・・・なにかするのは、当然ではないのか?!」




真剣なルキアとは対照的に、あくまでギンは茶化すような態度で挑む。

このルキアの心からの慟哭に、ギンは耐え切れないと言わんばかりに、くすくすと笑った。



「アホやなぁ。」




「な・・・!なんだと?!」

自分の海燕に対する想いをギンに笑われた挙句、バカにされ、ルキアは一気に気色ばんだ。


しかしギンは凝りもせず、笑いながらもう一度同じ言葉を繰り返す。



「アホやなぁルキアちゃんは。そない気ぃ張って頑張らんでも、出来ることならもうとっくにしとるやん。」


「なんだ?なんだというのだ?!私が、先生の為に出来る事は、一体なんだと言うのだ?!!」


ギンに言われた意味がわからず、ルキアは苛立ち泣き濡れた顔もそのままに、
それでも折れることを知らず、気丈にギンに向かって怒鳴りつける。

ギンは小ばかにしたような笑いを止めると、少しだけ真剣にルキアを見つめてから、ゆっくりと口を開いた。





「生きとることや。」





「・・・え?」


思ってもいなかったギンの言葉に、ルキアの顔から一瞬で怒りが消え全身から力が抜けた。



生きる?

生きること?

先生がいないこの世界で、私だけが生きているのに?

そんなことが、本当に先生への贖罪になるのだろうか?



ギンは混乱し、視線を落ち着きなく彷徨わすルキアの様子を満足そうに眺め、それから立ち上がってルキアの隣へ腰掛けた。
ルキアは隣にいるギンの存在など気付かないように、呆然と瞳を見開き、自分の思いに深く沈んでいる。


ギンはソファの背もたれに全身を預け、またしても大きな独り言のごとく、ルキアへと語りかけた。


「自分が殺したなんてそないな思いに捕らわれて、身動きできんようにならんでも、
ルキアちゃんはただ生きていて、先生の事を時々でええから思い出せばええんやないのか。
そしたらそれだけで先生は、十分嬉しいんやないかと思うんよ。

今みたいに意固地にならんと、もっと楽に考えたらええ。もっと先生を、楽にさせたげたらええんよ。」


「・・・先生を、楽に?」


「可愛ええ教え子が、自分が死んだことで十年も苦しんでいて、その上この先の未来も希望なんかもっとらん。
そしたら見たこともない寂しい顔かてしてまうよ。

今のルキアちゃん見て、先生も悲しんでいるんとちゃうの?」



「先生が、悲しい・・・。」
ルキアはぼんやりとしながらも、鸚鵡返しにギンに言われたことを口にする。


「まぁ、偉そうに言うてしもうたけど、全部僕の推測でしかないんやけどなぁ。
そうなると、どうしても信憑性薄くなるか?」


ギンは少しだけおどけて笑うが、ルキアはそれには反応せず、じっと手元に視線を落とす。



固まってしまったルキアの姿に、ギンは今までで一番声を和らげた。

「でもな、ルキアちゃん。これだけでええから信じて欲しいわ。

僕は今先生が間違いなく、ルキアちゃんに心から笑って欲しい思ってるとは思うけどな。」


「・・・心から・・・笑う?」

ぼんやりとしていたルキアは、少しだけ力強く言葉を口にした。




だって、忘れてしまった。そんな事。



事故の直前、海燕達とのデートを了承してもらい、心から嬉しくて嬉しくて。
だからそんな感情も、海燕と共にルキアの中から無くしてしまった。


ルキアの心は、海燕と一緒に、死んでしまった。



その死んだはずの心が、ルキアの身体のどこかで小さく息を吹き返すのを感じる。



長い間、罪に押しつぶされ死んだようになっていたルキアの心が、
弱弱しくもゆっくりと顔をあげ脈打ちはじめている・・・そんな、気がした。




本当だろうか?

この男の言うことは、本当に先生はそんな風に思ってくださっているのだろうか?




やっとルキアの気持ちが揺るぎそうになったが、それでも、ルキアの中で築き上げた罪の意識は胸の中に居座る。



『騙されるな。先生は許したりしない。


だって、お前が殺したではないかーーー』




十年かけて築き上げたその罪の意識は、大きな氷塊のごとく、ルキアの中心に存在し、今のルキアを形成したものだ。


考え方を少し変えただけでは、その塊はとても消失しそうにもない。

氷解が無理なのであれば、あとは無理矢理に力ずくでも叩き割るだけ。

ギンは薄く目を見開き、泣きそうになりながら揺れる気持ちに耐えている、ルキアの様子を窺いそっと小さく息を吸い込む。



「・・・ルキアちゃんは、人との付き合いほとんどないんやろ?

あの赤髪の忠犬くんに、大事に護られとったしね?

だから28になってから付き合うなんてな、騙されてもしゃーないよ?



・・・こないな風にな!!」




ギンは突然ルキアの両腕を掴み、大きなソファの上にその細い身体を押し倒した。



ルキアは涙に濡れた瞳を驚愕で見開き、突然自分の上に乗り上げて笑うギンを青ざめた顔で見上げる。


「な・・・!なにをする?!きょ、今日は話をするだけだと・・・!下心がないと・・・!!」

ギンはルキアを拘束したまま、わざと大きな溜息をつき、顔を軽く横に振る。


「あんなぁルキアちゃん。男は皆、忠犬くんとはちゃうんよ?
忠犬くんはルキアちゃんの事、ほんまに大事にしとったみたいやけど、
普通のそこらへにおる男は、どないな嘘ついてでも自分のとこに女の子連れ込みたいし、
連れ込めたらそれ以上のこと、しとうなるもんなんよ?

それに僕がルキアちゃんに会えるんも今日が最後なんやし、
そしたら最初で最後の記念に、色々試さしてもろてもええんやない?」



「・・・ふざけるな!とにかく放せ!!この変態!!」


虚ろだったルキアの瞳が、再び強い闘志に燃え盛る。
しかしギンの妖しい笑みは深くなるだけで、ルキアを拘束する力も緩みはしない。

ギンは顔をルキアへと近づけ、内緒話をするようにいやらしく囁きかけた。


「ルキアちゃんは今まで皆に大事に大事に護られてきたんやろ?
だから、本当の人との付き合い方も恐さも知らん。

男の部屋に二人きりで会うのわかっといて、スカートなんぞ履いてきたらあかんやん。
わざわざ脱がさんでも、簡単にすることできてまうやんか。

そないな子が28になって、いきなり恋愛なんて出来ると思うてんの?
今までずーっと心の中では、誰も信用せんと壁作っておったくせに?

ほんまにアホやねぇルキアちゃん。
・・・そない世間知らずな子は、今の内に少し痛い目みとった方が、後々のためにもええんやないの?」



狼狽し怒りながらも顔を逸らし、必死になって抵抗するルキアの表情を楽しみながら、
ギンは顔を背けられて目の前にあるルキアの耳に熱い息を吹きかけた。



「!!・・・やぁっ!」


ルキアは突然のことに身体を震わせ、思わず高く甘い悲鳴があがる。
その反応にギンは嬉しげに忍び笑いを漏らし、ルキアの耳元に口を寄せて囁く。


「ええ声で啼くんね?・・・あかん。僕もう、止まらへんかもしれんよ?」


そしてギンは、そのままルキアの薄い耳朶に口付ける。

びくりと、またしてもルキアの身体が敏感に震える。


「!!な、も、もう!ふざけるな!!いい加減にそこを、どけ!!!」

とうとう我慢できなくなったルキアは、真正面からギンの顔を見据え、怯えをひたかくし激しい怒りの表情でギンを睨みつけた。

しかしギンは揺るがない。
そんなことでは、揺るぎようもない。
ギンの笑みはもはやいやらしさより一種の凄みをともない、真っ直ぐにルキアを見据えた。




「ええね。ルキアちゃん。
負けん気だけは一級品かもしれんけど、そんなことで男の暴走止められる程、世の中甘く出来てないんよ?」




「・・・な?!」


ギンはルキアの足の間を片足で挿し割り、
ルキアの両腕を右手で易々と拘束し直すと、空いた片手をスカートの中に侵入させ直に太ももを撫で回す。



「・・・!やっ・・・・!!なにをしている!やめろ・・・!!!」

そこでやっと本当の恐怖心に、ルキアは声を上ずらせ、必死になって大声をあげた。


しかしギンの手は無遠慮に太ももを撫で回し続け、更に唇が首筋に吸い付く。


初めて感じる手と舌の感触に、ルキアは恐怖と恐れしか感じず、
嫌悪感に肌が粟立ち、涙が頬を濡らし堪らず身体が震えだす。




「いや・・・だ。こんな・・・嫌だ!頼む・・・お、お願いだから・・・やめてくれ・・・」



強気に叫んでいた声が、怯え懇願するものに変わり、
そこで初めてギンは太ももから手を放し、ルキアの顎を掴んで無理矢理自分の方へと向き直らせた。




「・・・わかるか?ルキアちゃん。これが、現実の人間や。

現実から逃げて自分の殻に閉じこもって、それが贖罪のつもりなんか?

そんなんで、死んだもんが浮かばれる思うてんの?

甘えたこと考えんと、しっかり現実見てみい!」




ギンの鋭い叫びにルキアは激しく泣き続け、顔を振ってギンの手を払おうと試みる。
それはあたかも、ギンの言い分には決して屈指はしないとゆうルキアの姿勢の表れでもあった。



「おま・・・お前なんかに・・・貴様に、私と先生の何がわかる!!

わた、私は・・・誓ったのだ!

先生と・・・先生と同じ歳になるまで・・・誰にも心許さないと・・・!!」




このような状況下においてまで、頑ななルキアの態度にギンは少しだけ素になって呆れかえった。

やはりルキアは男を知らぬ。

このような体勢であるのに抵抗してみせれば、逆に男の嗜虐心を煽るだけだとゆうのに。



ならばもう少し踏み込んで、ルキアの心を挫いてみせる。



「・・・強情な子やねぇ。そしたら、もう少し恐いめみせたげようか?」




言うなりギンは、涙で苦しげに喘ぎ開いた唇に唇を重ねた。



当然ギンの舌はなんなくルキアの口中に侵入し、舌を絡めとり吸い上げる。
そしてルキアの腕の拘束を解き、自由になった片手は服の上から胸を弄り、もう片方は腰を引き寄せ身体を密着させていく。



突然の事にルキアは激しく動揺し、自由になった両手で必死になってギンの胸を叩き、肩を掴んで離そうともした。
ルキアはメチャクチャに両手も動く足も振り回し、抵抗する。
その弾みで、ルキアの爪がギンの頬を引っ掻いた。
しかし、そんなことではギンの身体は微動だにせず、ルキアは唇を貪られ、胸を掴み撫で上げられ続ける。



「!!!やぁ!!」


ルキアは両腕で力一杯ギンを突き飛ばし、やっとギンは大人しくルキアの上から身体を起こす。



ギンが身体を起こすと同時に、その僅かな隙間にルキアは慌てて身を起こし、
震える身体をソファの隅に身を寄せ、信じられないものを見るようにギンを見た。




恐れと怒りと悲しみと色々な感情が渦巻く大きな瞳がギンを睨み、その視線を受けギンは酷く冷たい笑いをたたえた。



「・・・今までこないなこと、誰にもされたことないんやろうね?

でも、誰も護ってくれへんよ。

自分のことは自分で護らな。

時には逃げることも必要やけど、全部逃げとったら、ずーっと追いかけられるだけなんやから。

自分で闘って、向きあわないかんことも、世の中にはあるんよ。」




ソファの端で震える自分の身体を抱き締めていたルキアは、ギンを睨みつけたまま、よろめきながらもなんとか立ち上がる。


「・・・約束だ!これでもう二度と、貴様と会うことはない!!」


ルキアはもつれる足を叱咤し、足早に玄関へ向かった。
そして扉を開けた途端に走り出す足音が聞こえ、ギンはそのままじっと耳を傾ける。



嵐が過ぎ去った後の室内は異様に静かで、ギンは珍しく深い深い溜息を吐き出した。



「・・・あー・・・あかんわぁ。」
その呟きは、やけに小さく心細く空気を震わす。


ギンは片手で顔を覆い、苦笑するように呟いた。



「ちょっと、マジになってもうたやん・・・」



そしてギンは、先程までルキアを押し倒したソファの上にぐったりと横になると、
今まで他者の為に尽力したことなどないギンは、慣れぬお節介に疲れを覚え四肢の力を抜いた。

どれだけルキアが細く小さな体躯であっても、本気で胸を叩かれ続け、ギンの胸は痛みと赤い跡を残している。


頬につけられた爪痕が、ひりひりと痛みを感じる。



頑ななルキアの態度に、荒療治とばかりに少々乱暴なことをした。
夢見る少女のままでいるなら、現実の男の恐さを実際に体験した方が、話をするより手っ取り早く効果的だ。




しかし初めて触れたルキアの唇と舌の感触に、ギンは一瞬我を忘れて、本気で最後までいってしまおうと思ってしまった。



これが一瞬で済んだのだから、ギンは自分を褒め称えてやらねばなるまい。

これでことを成してしまえば、ギン自身がルキアの中に決し癒えぬ傷を作り出すところであった。


ギンは無理矢理猛る欲望を鎮めたことに心底疲れを覚え、深く息を吸い込み、ゆっくりと吐き出した。



自分の言いたい事が、はたしてどこまでルキアへ伝わったのだろう?



わからないが、あの強いルキアのことだ。
あれだけ煽れば、自分で作り上げた『悲しい顔の先生』に、立ち向かってくれるであろう。


そんなものは幻でしかないことに、きっと気がついてくれるはずだ。




「・・・これでもう、会えへんのか。」



胸が痛い。


ルキアに叩かれたところではない。


もっと奥の『心』の部分が、痛みに泣き声をあげている。




今後ルキアがどのように変化していくのか、今のギンには知るすべがない。





心から笑う、ルキアに会ってみたかった。





ギンは寂しげに呟き、うつ伏せたソファにルキアの匂いが残っているような気がして、
目を閉じるとルキアの面影を探しゆっくりと意識を飛ばした。

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

男は無言で娘を見つめた。

娘は美しく、そしてひどく悲しげに見えた。

この呪縛から解き放つには、この幻の花園から出す必要がある。

しかし男は、御伽噺の王子ではない。

優しく甘い言葉で呼びかけ、キスを交わす術など知らない。

ならば力づくで、娘をそこから連れ出そう。

突然男は入口を激しく叩き、無理矢理こじ開けずかずかと中に入り込む。

これに娘は仰天し、怯え後ずさりながらそれでも叫んだ。

「?!!・・・な!なんだ貴様!!出て行け!ここは、私とあの人の・・・!」

「花なんて、ありはせん。」

「な・・・?!」

男は構わず娘の腕を掴むと、そのまま外を目指して引きずり歩く。

男の足元で花々が散りゆき、娘は必死で男を止めた。

「やめてくれ!花が・・・!あの人の為の花が散ってしまう!

私はここから出てはいけない!あの人と共にあるべきなのだ!!」

娘は暴れ、男を引っかき蹴飛ばし、その反動で自らも傷を負い、それでも最後まで抵抗し続けた。

「もう十分やろう?ここにはなんもない。ただの闇ん中や。こないな所、もう出たほうがええ。」

娘の激しい抵抗に傷を負いながらそれでも男は歩みを止めず、暴れる娘を決して離しはしなかった。

 

 

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※2008.10.28

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