『 闇に 降る 雨 3 』 (現代パラレル 過去編7)

娘は、その美しい花園に捕らわれている。

花園の入口は赤い番犬が守りを固め、何者の侵入も許しはしない。

娘は死んだ男の為に、毎日花を捧げて過ごす。

その花も朽ちることがない。

生まれることも、死ぬこともない。

どれだけの時が流れ去ろうとも、

変化することはなにもない。

美しくも空虚な世界。

永遠無限の花園。

娘の心も男と共に、死んだ。

そして花園には、いつでも冷たい雨が降り注ぐ。

娘は冷たい雨に打たれたまま、毎日毎日、男の為に花を摘み捧げるのだ。

罪の意識に支配され、心を失くした娘を縛る美しき呪縛の花園。

その存在も、幻でしかないのに。

そこを出る術を、娘は知らない。



知りたいとも、思わない。

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

ルキアは恐れている。

時間が流れることを。

変化していく事を。


自分が大人になっていくことを。



それは海燕がいなくとも、世界は何も変わらず、
同じように、自分も平気になってしまうことを。




殺したのに。



私が大好きな先生を、殺したのに。


なぜあの時、声をかけてしまったのか。


あの場に先生を留まらせ、殺してしまった。


あの時私がいなければ、先生は死なずに済んだのに。



殺した。



殺してしまった。



私が先生を殺したのに、私は生きて成長していく。


世界は変わらず、私は変わる。



先生が、いないのに。



せめて、先生のために誓おう。


先生の歳になるまで、恋愛はしない。

先生と同い年になるまで、誰にも心許さずに一人で生きる。



先生。



そんな事では許してはもらえないだろうけど、

せめてせめて、


先生の歳までは、先生の為だけに生きよう。



それが、私のたてた誓い。





ルキアは事故の後恋次の前でだけ、みっともなく泣き狂った。

泣いて泣いて泣いて、その度にこの誓いを口にした。



「私は、先生と同じ歳になるまで、恋愛はしない。」



それを恋次は、悲しい顔で、黙って聞いているだけだった。




あの後のことはよく覚えていない。



あの時長時間雨に濡れていたせいで、高熱を出して長い間臥せっていたし、
また、事故を目の前で見ていたショックで、前後のことをよく覚えていなかったせいもある。


ほんの短い期間ではあるが、無理矢理海燕が生きていると思い込み、
おかしなことを言って周囲の者達を困惑させたこともあった。

しかしすぐに現実に引き戻され正気に戻った時に、そのまま心も身体も壊れてしまえば良かったとさえ思った。



ずいぶんたってから恋次に聞くと、あれだけ派手な事故だったのに、死亡したのは海燕と都だけで、運転手も無事だったそうだ。

また事故の原因は運転手が飲酒していた上に居眠りをしており、なんと反対車線から突っ込んできたとのことだった。


運転手の処罰がどうなったかは知らない。


そんなことは、ルキアにとって関係ないことだった。

なぜなら、その運転手を恨む以上に、自分への罪の意識が強かったからだ。


今ではもうその事故事態を、自分が起こしたとさえ思いこんでいる節さえ感じられた。





事故が起きた瞬間のことだけは、今でも鮮明に甦り、秋ぐちの雨の降る寒い夜などよく夢でも見る。



たまに海燕を夢で見た。



呼びかけると海燕は悲しそうな顔でルキアを見て、何も言わずに顔を背け、どこへともなく去っていく。


ルキアは悲しくて寂しくて、夢中になって追いかけるが決して海燕には追いつけない。


そしてその夢から目が覚めると、深い絶望感に涙が止まらなくなる。


あの海燕の悲しそうな顔なんて、生前一度も、見たことがないのに。



まだ、許されていないのだ。



その思いに、ルキアは深い闇に落ちゆき、あの日の冷たい雨に打たれているような寒さに泣きながら身体をすくませた。



寒い寒い。




雨が、





止まない。

 

 

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gin top

※さっき、この連載を八月末に始めていたのに気がつきました。
ちょっと気が早いけど、もう二ヶ月たつってことなんですね。びっくり!
始めはノリノリ重視の一話に一萌えを目標にしていたのですが、なぜかシリアス路線へシフトチェンジ!
もしギンがルキアを救ってくれる人であったなら、どのようにするだろうか?と思っていた私にとって、そのお題に挑戦するのに良い場になりました。
・・・でも正直、今後の展開に自信はありません(涙)
これだけ苦しんでいるルキアに何を言ってどうしてあげれば正解なのか、見当もつきません。
でも、ルキアを想うギンの心が本物であれば、どんなに陳腐な科白であっても、大きな力を持ってルキアの胸にも届くはず!(強引)
・・・そんな注釈をふまえたうえで、今後の無理矢理強引展開を暖かく見守って下さい(土下座)
2008.10.21

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