『 闇に 降る 雨 1 』 (現代パラレル 過去編5)
久しぶりにギンから連絡が来た。
それはあの皆で飲んだ日から丁度一ヶ月近い時間がたち、暑過ぎる残暑も終わった九月も末で、季節は完全に秋になっていた。
あの日以降、ギンからのメールも電話もなくなり、ルキアは以前の変化のない穏やかな日々に戻ったことに安堵していた。
なので風呂上りの一日のうちで一番ゆったりとくつろいだ時間に、
携帯電話が『市丸』と表示しているのを見た途端、意識せずルキアの眉間に深く皺がよった。
「ルキアちゃんの『28歳』の秘密。僕、知ってるんよ。」
ルキアが電話をとった途端、開口一番そう言われ、ルキアは一瞬で冷水を浴びせられたような気分になった。
「・・・貴様はなにを、知っているとゆうのだ。」
なんとか声が震えないように抑え、それでもやけに低く小さな声でルキアは返す。
「そんなん電話で言えへんよ。
ほんまやったらもっと早よぉ連絡したかったんやけど、僕も仕事が忙しゅうなってこない遅ぅなってしもうた。
・・・なぁ、僕の部屋来ぉへん?外で話せる内容ちゃうし。」
「貴様の部屋へ。だと?」
ルキアの声に警戒心に満ちた鋭い棘を感じても、ギンは意に介さず言い募る。
「残念やけど、今回だけは下心抜きや。
僕がルキアちゃんの部屋行ってもええけど、それは嫌やろ?
僕はどっちでもええよ。とにかく、話せないかんしな。」
ギンの固い意志を感じ取り、ルキアは変わらず小さく低い声で返答する。
「・・・どうしても、必要なのか。私はこの件に、誰も触れて欲しくはない。」
「どうしても必要や。今回だけ話さしてくれたら、もう二度とこの事について話たりせえへん。」
そこでルキアは口を噤む。
本当は行きたくなどない。あの件について、誰とも話し合ったことなどなく、また、話したいとも思わない。
自分でたてた誓いの日まで、ただ静かに贖罪の日々を暮らしたいだけなのに。
でもきっと、断ってもこの男は諦めない。
私が好きかどうかは別にしても、自分が納得するまでとことん行動するだろう。
自分の疑問や意見を解消するまでは、決して諦めないであろう。
それならば嫌なことは先に済ます。
後に延ばすと、延ばした分だけ憂鬱な気持ちが増すだけだ。
そしてルキアは覚悟を決めた。
「ならば私からもひとつ条件がある。
・・・これがのめるなら、貴様の部屋へ行っても良い。」
「ええよ、なに?」
「・・・この事について話したいのであれば、これかぎりで、二度と貴様には会わない。それを約束、出来るのか?」
「・・・」
この条件に、さすがのギンも一瞬言葉を失った。
ルキアは震え汗ばむ手で携帯を握り締め、静かにギンの返答を待つ。
本当ならこれで諦めてはくれないか。
ギンの自分に対する想いがどれほどかは測りかねたが、それでも二度と会わないと言われ、怯み諦めてくれることを願う。
そして短い沈黙の後、受話器越しにギンの軽い溜息が聞こえた。
「・・・しゃーないなぁ。それしか方法ないんなら、それでええよ。
今回限りもう会わん。
・・・約束、するわ。」
寂しげな声でギンが承諾し、ルキアは絶望的な思いで固く瞳を閉じた。
「・・・本当に、今回だけだ。」
「わかっとる。今回だけな。」
そして日時と場所を教えられ、ルキアは重い気持ちで電話を切った。
静けさが戻った部屋に、微かな音が聞こえてくる。
気がつかなかったが、窓を叩く雨音にルキアはなお一層泣きそうな気分で顔を歪めた。
秋の雨が、一番嫌い。
嫌なことが重なり、ルキアは鬱々とした気分でカレンダーを見上げて思う。
来月の末には、十年目の命日を迎えるというのに。
どうかもうこれ以上、心乱さないで欲しいのにーーー
※この回は、本当は更新後にしようと思っていた回でしたが、そろそろギンとルキアの絡みと、
もう少し真実をバラすのを焦らす意味合いをこめ、今回更新してみることにしました。(姑息)
ただ散々焦らした挙句、なんだそんな事かよ?!と言われるような内容になったらどうしよう・・・(不安)
2008.10.14