ギンの指は綺麗だと、ルキアは思う。

男にしては華奢な印象を受けるが、繊細に指が長く、見ているとなんとなくピアニストを連想する。

しかしその優美な指先は、華麗に鍵盤の上で踊ることなく、とても丁寧にルキアの髪をすくいあげた。


「・・・ルキアちゃん。染みとらん?」

「ん。平気だ。」


その短い返答にギンは満足すると、濡れて益々艶を増した美しい黒髪に、
自らの手でキメ細かく泡立てたシャンプーをのせる。


その泡がルキアの顔を侵す心配がないのは、愛しき姫君を護るべく、
その頭には王冠のごとくシャンプーハットが砦を築いているからだ。



しかもその王冠は、キツネの柄が施されている。





『 極上スイート 』





初めてルキアの髪を洗った時、丁寧ではあるが勝手がわからず、不用意にも泡をルキアの顔へ流してしまった。

初めは我慢していたが、固く閉じられた瞳にも容赦なく泡は侵入し、堪らずルキアは泣き声をあげた。


「・・・ギン。シャンプーが目に染みる。」


一緒にお風呂で髪を洗うのであれば、どうしても技術か道具が必要になり、
ギンは手っ取り早く道具を購入することにした。


それで取り入れたのがシャンプーハット。


「僕も痛いんや。」

ルキアに洗ってもらっている自分の姿が見たくって、ギンは可愛らしくもささやかな嘘をつく。


互いの髪を洗い合う為、ルキアは自分用にキツネ柄を。ギン用にはウサギ柄をチョイスした。

「なんで僕のがウサギ柄なん?」

ウサギ好きな彼女のことだ。当然自分用をウサギ柄にすると思いきや、意外な選択にギンは素直に疑問を口にした。


「自分用でウサギでは、ゆっくり観賞出来ぬではないか。貴様の髪を洗う時、存分に見て楽しみたいからな。」
とのことらしい。

しかしそれなら二人共ウサギにすれば良いだけなのでは?との疑問も残ったが、それはあえて口にはしなかった。


キツネはギンを連想する動物で、素直に言わぬルキアなりの、ギンに対する愛情表現であると理解していたからだ。


ギンはこの王冠を載せたルキアの髪を洗う時、ルキアの自分への深い愛情と、
愛する娘を護る自分の姿に優越感と同時に膨大な幸福感に酔いしれる。



なのでギンは気兼ねなく、ゆっくり丁寧に黒絹のごとくしなやかな髪を愛でるように洗うのだ。

その指の動きの心地よさに、いつも決まってルキアは言う。



「・・・お前はとてもうまいな。ギンに髪を洗ってもらうのが、一番好きだ。」



その声は本当にうっとりと蕩け、ギンを更に幸福で満たす。



他はなんでも大雑把で適当に済ませるギンが、唯一、誠心誠意真心を込めて丁寧に丁寧にルキアの髪を洗う理由。



「ほんま?僕もルキアちゃんの髪洗うの、一番好きなんよ。」



いつでもルキアにその科白を言って欲しくて、今日もギンは指先に神経を集中してなめらかに動かせた。

 

 

互いの髪と身体を洗い合い、それからゆっくりと湯船に浸かる。

今日はルキアお気に入りの、桃の香りと湯がピンクの乳白色になる入浴剤を入れており、
ギンは後ろからルキアを軽く抱き、甘い桃の香に鼻腔を満たされ思わずふーっと深く息を吐き出した。



「・・・くすぐったい。息をかけるな。」
目の前でルキアが軽く身動ぎ、小さな声で抗議する。


「あぁ。堪忍や。あんまり気持ちええから、つい。」

そんなルキアの様子すら愛おしく、ギンは笑みを湛えてルキアを引き寄せ抱き締めた。


いつの頃から、こんな事が当たり前の事になったのだろうか。


ギンの忍耐強い教育の成果で、最初色々クレームばかりつけていたルキアも、
今ではごく当然の行為として全てを受け入れてくれるようになっていた。



お互いどんなに忙しくても、最低週に二回は一緒に入浴することを取り決め、それは一度も破られていない。


どんなに普段辛辣な態度で接していようと、この空間ではとても自然に甘えることが出来きた。



ここでは言葉も、建前も、強がりも必要ない。
産まれたままの姿で、お互いを必要としている事を感じることが出来るのだから。



ギンはルキアの濡れたうなじに唇を寄せ、悪戯に甘く噛む。


びくり


ルキアの身体が素直に反応を見せることに、嬉しくてギンは喉の奥で忍び笑いを漏らした。


「貴様・・・!何をしているか!」

たまらずルキアは怒った顔で振り向くが、本気でないことくらいギンにはお見通しだ。


「せやかて、ルキアちゃんのうなじがあんまり白ぉて綺麗で、おいしそうやったから。」


悪びれぬギンの物言いに、ルキアは挑戦的に目を細めた。



「・・・そうか。では私もうまそうな首筋を、馳走になるとするか!!」


バシャン


そう言うと盛大に湯船の飛沫をあげつつ、急にルキアは身体を反転させ、ギンの首筋目がけ飛びつこうとした。



「ひゃっ?!か、堪忍や!ルキアちゃん〜。僕、首ダメなん知ってるやんか〜」


「莫迦もの!だから、食らってやるのだ!!」


ザバザバと湯を飛び散らせ、きゃあきゃあと二人の笑い声があがり、同時に甘い甘い桃の香りがお風呂場を満たす。



なんて甘くて、無邪気な、極上の時間。



ムキになってかかりくるルキアをふいに抱き締め、その柔らかな感触にギンは微笑む。

自らの手で洗い上げたしなやかな黒髪を撫で、それからルキアの唇に軽く唇を合わせた。


すぐ間近で瞳を合わせ、ギンは溜息をつくように溢れる想いを口にする。

「今日も元気でいてくれて、ありがとうなルキアちゃん。絶対無理したらあかんよ?いつまでも僕の側におってな。」


そしてルキアの右の胸の上に強く唇を吸いつけた。


それは今日の幸せの証。


今日も元気に一緒にお風呂に入った証明のキスマーク。


「・・・う、うむ。」

ギンの溢れる愛情を強く感じ、この時ルキアはいつも素っ気なくなってしまう。


しかしその頬が赤いのは、決して湯にあてられただけではない。


いつまで経っても初々しい様子のルキアに、ギンの悪戯心は疼き何かせずにはいられない。
胸から再び首筋へ唇を移し、そのまま軽く吸い上げる。


びくり


またしても身体を震わせたルキアは、ギンを強く睨みつけた。



「・・・ギン。貴様!首はやめろと言っているのに!!」


言うなりルキアは長身のギンを押さえ込もうと必死になる。


ギンは笑いながらルキアの両手を掴み、なんとか身体を仰け反らす。



「堪忍。ルキアちゃん。堪忍してや〜〜〜」


「黙れ!何度も同じことをしおって!堪忍なぞできるか!!!」



バシャバシャと湯船が弾け、お風呂場は強い桃の香で満たされる。

 

甘く蕩ける、幸福なお風呂の時間。


二人だけが味わえる、極上のスイート。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いいわけ
 さんぽさんからのリクエスト『お風呂でラブラブギンルキ』です。
 とくにのこだわり萌えシチュが、なんといってもシャンプーハットでしょう!!
 わたしじゃ絶対思いつかない!すげぇよ!さんぽさん!この萌えマスターめぇぇぇ!!!
 このお話は只単に、さんぽさんの萌え話を私なりにまとめただけです(笑)
 これは文句なしの、ギンルキ初の『激糖』でしょう!
 普段お世話になっています、さんぽさんに強制的に捧げさせて頂きます!結果はいかに・・・!(恐)
  2008.9.30

gin top

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