瀞霊廷の裏側に小高い丘があり、そこから瀞霊廷を一望出来る隠れスポットがあった。

それは誰にも内緒の、高い所が好きなルキアのお気に入りの場所であった。
強き虚との激闘の後や、いつまで経っても慣れぬ貴族の暮らしなどルキアを巡る日々はなかなか大変で、
たまに非番で何も予定の入っていない日は、その丘から眼下を眺め、ぼんやりと一人心穏やかに時を過ごす。


それはなにものからも解放される、ルキアの大切な時間。

そして今日もルキアはその丘にやってきた。





『 内緒の木陰 』





季節は春。

丘の広場には名も知らぬ色とりどりの小さな花が可愛らしく咲き誇り、いつも以上にルキアの気持ちを慰めてくれた。
持参した本を読んで午前中を過ごしてから昼食を済ませると、暖かな陽気に間もなく眠気に襲われ、
ルキアは年中深い緑の葉を茂らせる、お気に入りの大木の下に座るととゆっくりと瞼を閉じる。


心地よい風がルキアの髪を優しく揺らす。
ルキアはその感触のくすぐったさに微笑んだまま、まどろみの中へゆっくりと沈んでいった。





その後間もなく、ルキアの前に男が立っていた。
ひどく長身で痩せた体躯のその男は、眠るルキアをじっと見つめていると、ふと小さく呟いた。

「・・・きみ、なんちゅう顔して、寝てるんや。」

ギンは可笑しそうに、でも嬉しそうに喉の奥でくっくっと忍び笑いを漏らす。
ルキアはひどく幸せそうに、微笑みながら眠っている。

自分と話すときはいつも眉根を寄せて警戒心に逆立った、険しい表情しか見せてくれないのに。

「ほんま、いけずな子やね・・・」

こんな所でこんなに良い顔をして眠るくらいなら、もっと自分と一緒の時に笑って欲しい。

しかしギンは、ルキアを前にすると嫌がらせしか出来ない自分に問題があることは十分に承知している。

確かに自分は相手の神経を逆撫ですることに喜びを感じているが、
誰か一人だけにここまで執着して付きまとうことなど今までなかった。


ルキアが非番のたびにここへ一人で来ていることを、ギンはずいぶん前から知っていた。
ここにいる時ルキアは誰にも気兼ねすることなく、自然で優しい表情をしていた。

最初にギンがここに来た目的は、休み中のルキアの前に突然現れ驚かすつもりだったのだが、
ルキアにとってこの場所が特別で、それはきっと大好きなお兄様にも知られたくない空間なのだと気付いたギンは、
黙ってルキアを見守ることにした。


時にルキアは一人で泣き、またある時は怒りを爆発させたりもした。

どんなルキアでも知りたくて、ギンはルキアが休みの度に霊圧を探り、
この丘にいる時は仕事を放り出して必ずやって来るようになった。


そしてここにいる時、ルキアは昼食後、必ず眠ることを知ったのだ。



ギンはいつものようにゆっくりと膝を折り、眠るルキアの顔に自分の顔を寄せて軽く唇を合わせる。



それはいつもの密やで、何度も繰り返している内緒の行為。


ルキアは全く知らない内に、ギンは何度もルキアの唇の感触を知っていた。
それからギンはルキアの隣に寄り添うように座り、一緒になって眠りだす。


それはギンにとって、何物にも変えがたい至福の一時であった。
 

 

二時間近くたってから、ルキアはぼんやりと目を覚ます。
大木を背に寄りかかって寝ていたのに、いつの間にか身体は柔らかな草地に横たわっていた。

「・・・また、少々寝過ごしてしまったな。」

ここを見つけた当初、眠っても三十分もすると自然と目が覚めたものなのに、
今は余程心地良いのかいつも二時間近く眠ってしまう。


もちろん寝ている間の意識はないが、固い幹に身体を預けているはずなのに、
柔らかな何かに包まれているような幸せで深い深い安心感があった。


ルキアはごもごもと呟きながら身体を起こすと、喉の渇きを癒そうと竹筒に手を伸ばす。

「?これは・・・」

そのルキアの荷物の上に、小さく可愛らしい真っ白な花がひとつちょこんと乗っていた。

誰かいたのだろうか?
それとも風に乗って偶然に?

ルキアはきょろきょろと辺りを見回し、気配を探るがなにもいない。
それから花を摘み上げると、その優しい香りをゆっくりと吸い込んだ。

「とても可愛らしい花だ。」

ルキアは微笑んで、耳の上にその花を飾った。

「・・・さて、今日はもう帰らねばならんな。」
名残惜しいが、夕方には朽木家で会食会が開かれる。

少し早めに準備をした方が良いであろうと、ルキアは手早く荷物をまとめてから大木を振り仰ぐ。

「それでは、またな。」

大木に挨拶すると、ルキアは瞬時にその場から消え去った。
誰も居なくなった広場に暖かい風が吹き抜ける。



しかし若葉が揺れる大木の枝には、ギンが静かに佇んでいた。



ルキアの様子を観察していたギンは、贈った花が喜ばれたことがひどく嬉しかった。

今度は赤い花がええ。
あの子のつやつやの真っ黒な髪には、きっと赤が美しく映える。


ギンはうきうきと心弾ませて、次の内緒の逢瀬を心待つ。

「そしたら、またね。ルキアちゃん。」

ギンは誰もいない空へ呟き、泣きそうな様子で隊長を探し回っているであろう、
憐れな我が副隊長の元目指して、瀞霊廷へ戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いいわけ

 はい、とゆーわけで、ラブいギンルキです。
 最近イチルキに一生懸命になっていましたら、私の中でギンが暴れだしそうだったので・・・
 とりあえず感満々のいつも以上に稚拙な文章で申し訳ないのですが、
考えていたより可愛らしいお話で、自分でも驚いています。
 ・・・イチルキでもこんな可愛いものってないのに。何故ギンルキで?!

 あ、でもやっぱりギンはルキアに嫌われモードで知られずやってるから、そこまで可愛くはないですかね?
 時間の関係上、初のショートになりましたが、皆様いかがだったでしょうか?私は結構満足しました!
 
8.1のブログで拍手ありがとうございます!
本当にギンルキ待っていてくれる方がいたのだと、とても嬉しかったです!
 これからもギンルキ頑張りますので、応援宜しくお願いします!

2008.8.2

gin top

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