「・・・・・・・・・・一度、だけならば・・・」
 
己の口から出た言葉に、驚いたのはギンよりもルキア自身。

ほんの数分前、ベッド上でルキアを押さえ付けていた時の凶悪なまでの切迫さが完全に消え去ったギンからは、
穏やかでくつろげる懐かしい温かさを感じられた。

しつこく追い回してくるギンに感じていた恐怖心と、白哉から接触禁止令を出されたせいもあり、
意図的に避けていたことに今やっと真っ直ぐに目を向け対峙する勇気が持てる。



それで偽りなくルキアの心が感じたことは、もっと一緒にいたい。話がしたい。



これ以上考えることをやめたルキアは、己の心が思うがままにギンの求めに応じることにした。






市丸ギンは機嫌が悪い   〜 第7話 〜





 

「はへぇっ?ル、ルキアちゃん?いま、なんて?」

「う、う〜〜〜〜〜っ!嘘だ!やっぱり、今のはナシだ!!」

「え!?や、いやや!ええゆうたからええよね!一回だけやし!な!ほんま後生や!たのんますっ!!!」

「なっ!?何をしておる!男が簡単に土下座などするな!みっともないではないか!!」

「みっともなくともかまわんよ!ここでルキアちゃんを帰してしまうくらいやったら、僕はなんでもするつもりやし!!」

「〜〜〜〜〜っ!?」

ルキアの方が驚いているとはいえ、やはりギンも驚きに目を真ん丸に見開き、恥ずかしさに真っ赤になっている顔を凝視しし、
それから後悔に今にも逃げ出してしまいそうなルキアの前に回り込み、本気で土下座をしながら叫ぶ。
どう対処すべきかルキアは僅かに躊躇したが、己の出した決断に責任を持つ覚悟を再度決めた。

 

「・・・わかった。私も一度決めたことを覆すことはしない。ただし一度だけだ。約束は守れ。」

「ほんまにぃ!!!」

「だっ、だから約束は守れと言っているのだ!貴様本当にわかっておるのか!?」

「わかっとる!ほんまにわかっとるよ!せやったら、ほんまにええんやね!?」

「よいから早く立ち上がって衣服を直せ!いつまでも這いつくばって、みっともないではないか!」

「へぇへぇただいま〜それやったら喜んで直さしてもらいます〜」

「・・・」

 

これ以上ルキアの気が変わらぬうちにと、ギンは即座に立ち上がり、いそいそと身なりを整え始め、
そんなギンを複雑な気持ちで眺めていると、瞬く間に衣服を正したギンはルキアの手を引き寄せ、
ベッドの上に並んで座り、どんな顔をすべきか悩み困惑したルキアに向い、ギンは無邪気な顔でにっこりと微笑みかける。

 

「僕、あんな事してもうたのに許してくれるんなんて、やっぱりルキアちゃんは優しいなぁ!」

「よ、よ、よいか!本当の本当に、一度だけだ!一度だけだぞ!!」

「わかっとる。わかっとるよ〜 折角ルキアちゃんが許してくれたんや。それはちゃんと守ったる。」

「な、ならば早く済ませ!調子に乗るなよ!!」

「ん〜〜〜?いっぺんゆうんは守るつもりやけど、ひっさしぶりのルキアちゃんとのキスやもん。
 早ぅ済ますんは約束出来んよ。」

「なんだっ・・・と、ん!?んんんんん!!!」

 

真っ赤な顔で喚きたつルキアを挑発するように、シレッと嘯くギンはペロリ舌を出し悪戯な笑みを浮かべウィンクすると、
待ての出来ない子犬のごとく飛びつくように唇を重ね、先程とは全く違うワンチャンスの『恋人のキス』を全身全霊で味わい尽くすつもりであった。

まずは唇と唇を優しくふにふにと押し付け合い、その感触をゆっくりと楽しむが、すぐに舌が伸び出て、薄いながらもぷっくりした唇を優しくなぞる。
唇から唇の間に舌先を潜り込ませてみるが、予測済みの行為に歯をくいしばってそれ以上の侵入をルキアから拒否されたが、
ならばと次に狙いをつけたのは、意外な性感帯である歯ぐき。

唇を舐められただけでゾクゾクと背筋疼くような震えがきたが、こいつはチョロいと簡単に流されるのは癪であり、
それでは高潔な意思を持つルキアのプライドが許さない。
なのに、閉じた歯を支える土台部分を丁寧に舐められる、いやらしいようでくすぐったいような不思議な刺激に動揺し、
文字通り歯の根が合わぬほど震え開いた歯門を簡単にこじあけられた。

口内への侵入に成功すると、細やかにキスの角度をかえながら歯ぐきだけでなく時間をかけ、
歯の裏や天井部までもくまなく舐め擦り、これに悶え両手でギンを押し返し逃れようとしたルキアの手を逆に恋人つなぎに掴み捕え、
もっと深く繋がり感じあえるようにとキスをしたままベッドの上に押し倒す。



「んっ!ふっ、うっ・・・ふぅ・・・んんっ!くぅっ・・・あっ!ふぁっ!?んくぅ・・・っ!!」



いよいよ舌で舌を絡め合わせると、ぬるつき蠢く舌の感触以上に、興奮に昂ぶる互いの熱と感情がダイレクトに伝わってくる。

記憶がないルキアとしては、知らぬ男との濃厚な絡みに身体は快楽に堕ちたとしても、精神的には拒否反応が出て耐え切れないようなものなのだが、
上から覆われるように圧し掛かられ両手も身体も拘束され、ギンのテクニックと唇を塞がれ酸欠状態からか、
朦朧状態のせいで意識よりも身体が反応を示し、無意識にギンの求めに応えようと小さな舌を伸ばしぎこちなく絡めていた。

その動きの稚拙さに恋人時代が呼び起され、嬉しい驚きにやはり調子に乗ったギンのキスは終わるどころか逆に濃密さが増していく。

 

調子に乗るのと早く済ますの条件が守れぬ代わり、せめて1回だけの約束は守ったことにしようと、
唇だけは意識して離さず常に触れ合うようにとギンにされているせいで、息苦しさと熱情に浮かされたルキアの鼻からぬける色づく吐息が恥ずかしげに漏れ出てしまう。

これは、もしかして・・・・・?

理屈よりも本能とセンスで、些細な問題も10人分の両手を借りても足りない数の女達にもうまく立ち回ってきた男は、敏感に『その時』を感じ取っていた。
今のルキアから自分に対する警戒、敵対、抵抗する心がなくなっている。
セックスに値するディープキスに溺れきり、またその快楽に身を委ねつつあるのは、言葉より雄弁に身体全身でギンを欲しがっているのは明らかだった。

いける。このまま。最後まで。

記憶の問題が残ったままだが、今のギンには問題ない。
何度も言うが、記憶があろうがなかろうが、それでもルキアを愛し求める己の心に偽りがないのだから関係ない。
問題があるとすれば、現状ギンを愛していないルキアの方だが、だとしても愛されていないからと易々手を放すギンではない。

今は愛されていなくても、これからずっと側にいて愛されるようになればいいだけなのだと思い直し、
ならば遅かれ早かれこーなる運命ならば善は急げで良いだろう。
というギンらしくどこまでも自分本位な結論に納まった。

 

そうと決めたギンの行動は早い。

キスは続行したままずっと握っていた手を放し、片手は服の上から胸を撫で、片手はスカートの中へと忍び込む。
約束を反故するこの行動に驚き、止めようとギンの手に添えたルキアの手にも言葉にも先程と違い全く力がなく、
ここまできても一回は拒んでみせる慎み深き女の性質としてギンはとらえた。
服の上からでも的確にポイントをつかれ、感じたルキアの悶えも激しくなる。


「はっ、あぁ・・やぅ・・・ふうぅんっ・・・!やぁんっ・・・あぅ・・・はぁ・・ん・・・」


もう食べ頃。
美味しそうに蒸気し出来上がったルキアの下着を脱がそうと、ギンが両手を離したその時だった。

 

ばっちん!

「いい加減にせぬか!この大たわけが!!!だから調子に乗るなと言ったではないかっ!!!」

 

一瞬前のムーディーさを木端微塵に吹き飛ばすルキアの一喝とビンタが同時にギンの顔面に飛び、
その小ささからは想像もつかぬ衝撃に、ギンの薄い頬に真っ赤なもみじがくっきりと浮かび上がった。

 

「へぇ・・・?え、なに?なんで?・・・あれ、僕、この痛み、知っとるよ・・・?」

 

ものすごい既視感に茫然としたギンは、痛みと衝撃にチカチカする目でルキアを見つめた。
肝心のルキアといえば、よほど息苦しかったようで、横になったまま真っ赤な顔で乱れた息遣いを整え、
それが治まるとさっさと起き上がり、ギンのおいたによって再び乱された髪や制服を憮然とした表情で直し始めた。

その雰囲気に先刻とは明らかな違和感を覚え、強く叩かれた頬を抑えた格好で固まりギンは静かに混乱していた。
しかしそんなギンには一瞥もくれずルキアは黙々と制服を整え続け、一応の恰好がつくと、わざとらしい程大きなため息をひとつつく。

 

「まったく。お前という奴は・・・呆れ果てて言葉もないとは、まさにこんな時に言うのであろうな。」

「・・・?」

 

驚きと混乱に身動きせずにルキアを凝視している間抜けたギンの姿に、塩対応をしていたルキアも薄く笑みを浮かべギンを覗き込んだ。


「どうした市丸?『久しぶり』に会えた恋人に対し一言もナシか?案外冷たいものだな。」


「っ、ぼ、僕のルキアちゃぁんやぁぁぁ!!!!!」


上ずった叫び声をあげたギンがルキアに抱き着くと、ラブラドールがチワワに飛びついたような不安定な姿勢で、
安堵や混乱に爆発したギンの感情が治まるまでしっかりとルキアを掴み離さずにいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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gin top

※なにが2016年内完結だ!更新詐欺で本当に申し訳ないばっかりです。
 内容的にはリクの条件通りにやれたか、楽しんでもらえたのか心配です。
 お待たせし過ぎてごめんなさい。それでも私、ギンルキ大好きなんですよ・・・
 ミエさん読んで頂けましたか!?嬉しいコメント心より感謝しております!本当にありがとうございました(涙
 2017.4.16

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