「貴様など大っ嫌いだ!」
そう叫ぶないなや、ルキアは三番隊の隊長室を飛び出した。
後に残されたギンは、ぽかんとしてこれを見送る。
嫌い 嫌い 大嫌い。
あんな奴、早く私の目の前から消えてなくなってしまえばいいのに。
緩めばこぼれてきてしまいそうな涙を止める為、ルキアはきつく唇を噛み締めばたばたと廊下を駆けていく。
『 ボク と キミ 』
あいつはいつもそうだ。
些細な言葉にも毒を潜ませることを忘れはしない。
私はいつもその毒に侵され、気づくと泣きたい気持ちで一杯になってしまうのだ。
どうしてだろう?
どうしてこんなにも、奴の全ては、私を乱し苛だたせるのだろう?
遠くからでも奴の姿はすぐに見つけられる。
傍を通ろうものなら、必ず嫌がらせに声をかけられる。
そんなに私が嫌いなら、無視してくれればよいものを、どうして放っておいてはくれないのだ?
顔を見るたびにこんな嫌がらせを受ける自分は、確実に奴に嫌われている。
・・・いや!それは良いのだ!!
私も負けずに奴のことなど好きではないのだから!!
・・・でも、どうしてだろう?
どうしてそこまで私は奴に嫌われるのだろう。
私は何もしていない。
していない・・はずなのに・・・・・・
誰もいない裏庭に逃げ込んだルキアは、自分でもよくわからぬ感情にひどく心を乱す。
奴を思うと怒りや苛立ちと同時に、なぜかいつも泣き出したくなってしまうのだ。
ルキアは小さな木の幹に寄り添い、なんとか声を出すまいと更に強く唇を噛み締め、小さく嗚咽を漏らしながらぽろぽろと涙を流す。
その涙が先程ギンに受けた嫌がらせによるものなのか、また別の感情によるものかわからぬまま泣いていると、突然背後から強く抱き締められた。
「泣かんといて。」
「!」
力強い腕に抱き締められる圧迫感と、今まで聞いたことのない程弱弱しいギンの囁きにルキアはひどく驚いた。
弱く切なく苦しげな吐息を吐き出し、ギンは更に大切そうにルキアを抱き締めた。
「あかんよルキアちゃん。一人でそんな泣いたらあかん。もう泣かんといて。」
「だ・・・誰の・・・せいだと・・・・・!」
「うん、そうやね。僕のせいやね。
ごめんなルキアちゃん。ほんまに謝るから、もう泣かんでくれへん?」
「・・・・・」
実際のところ、ルキアはもう泣き止んでいた。
ここにギンが現れた驚きに涙は止まってしまったが、しかし嗚咽は急には止まらずルキアは苦しげにしゃくりあげ続けた。
それが止まるまでギンは黙ったまま抱き締め続け、ルキアは無理に振りほどくことなく大人しく抱かれていた。
しばらくし、やがて自分の息が整うと、辺りは急に静か過ぎる程静かになった気がしたルキアは、
一瞬でもその静寂に耐えきれず、ギンに投げかけるべき言葉を頭の中で慌てて捜しながら口を開く。
「どうして・・・どうして貴様は、いつもいつも私を苛立たせることしか出来んのだ?
そんなに嫌なら、私のことなど捨ておけばよいではないか。」
「どうしてやろーね?
僕ルキアちゃん見かけると、嬉しゅうなってしまうんよ。
どうしてもなんやちょっかいかけとうなってしまうんやけど、今日のはさすがにやりすぎたわ。ほんまにごめんな。」
「嬉しく?
・・・・・・・・私の事が・・・嫌い、だからではないのか?」
「何言うとるの?わざわざ意地悪しに声かけるなんて、嫌いやのうて好きやからやん!
僕、どんなつまらん戯言やって、どうでもええ奴にはなんも話しかけたりせんよ〜。そこまで暇人ちゃう。」
「・・・・・暇ならいくらでもあろう。いつも吉良殿に仕事を押し付けて出歩いているくせに。」
「なんや知っとったん?そらあかんかったな〜」
「・・・・・・」
ルキアの突っ込みをギンは明るく笑い飛ばすと、きつく抱き締めていた腕の力を緩め、ルキアと正面から向き合った。
ルキアは泣いてぐちゃぐちゃになった顔を見られるのが恥ずかしく慌てて俯くも、ギンは下から顔を覗きこみながらニッコリと微笑む。
「ご機嫌、直ったん?」
「な、直ったわけではない!貴様のせいで泣くなど、莫迦莫迦しいと思っただけだ!!」
「そうか。それでも良かったわ。やっぱりルキアちゃんには泣いた顔より、怒った顔の方が似合うとる。」
「それはどーゆー意味合いだ!?」
「そのまんまやん。僕はルキアちゃんの怒った顔が好きなんやから。」
「・・・・・・」
「あ。そらちゃうかな?怒っても泣いても、どんなルキアちゃんでも一番好きなんやし。」
「・・・・・・・またつまらぬ戯言で、私を惑わそうとしてもそうはいかぬぞ。」
いつもの真実味がないにへらとした笑みを湛えたギンの顔をルキアはキツく睨み付けるが、しかしギンの方が役者は上だ。
ルキアの言葉に待ってましたとばかりに口の端を更に持ち上げ、まるでキスする寸前のように顔を寄せ甘く囁く。
「なんやルキアちゃん。
僕がルキアちゃん好き言うたら、惑わされてくれるん?そら嬉しいな〜♪」
「!」
これにルキアは一瞬息を止め真っ赤になって黙り込むと、ギンはルキアの前に真っ直ぐに立ち直り、
今までルキアが見たことのない柔らかな笑みを浮かべ、一言一言丁寧に、心を込めてルキアの為だけに言葉を紡ぐ。
「僕は、ルキアちゃんが好きなんよ。
誰よりも、なによりも、一番一番好きなんよ。
ルキアちゃんは、僕のこと嫌い?」
「・・・・・!」
ルキアは驚いた。
それは、ギンの告白にではない。
ギンに告白された途端、喜びに胸が沸き立つ自分自身に驚いた。
自分でも気づかぬ内に、どうやらこの性悪狐に心を攫われていたようだ。
それはひどく悔しいような情けないような気持ちになると同時に、
必死になって堪えぬと、知らず口元がにやにやと緩んでくるような圧倒的な幸福感をもたらしてくれる。
ギンの告白にどう答えるべきか逡巡していたルキアは、泣き笑うよな表情で必死になって叫んでいた。
「・・・・・貴様など、大っ嫌いだ!!!」
嘘がつけないルキアが大きな声で嘘つきな告白を叫ぶと、自らギンの大きな手を取り、
満身の力をこめてぎゅっと握るのが精一杯だった。
※特にの構想もないまま、ふと思いつき書いてみた久しぶりのギンルキ。ほのぼの甘系目指してみた。目指すくらいは自由だと思う。(挫折
テーマはいつもの『好きと嫌いは紙一重』 これもう何度目よ?って感じのテーマだけど、私的永遠のギンルキテーマなのでつい書いてしまう。
ギンとルキアなんて、喧嘩してると見せかけながら実はイチャイチャしてればいいんだっっっ!!!(超主張
2010.6.12
material by Sweety