あの花は多くの者に愛されて咲き誇る。
誰かは護り、誰かは水をやり、誰かは愛でる。

だから僕が手折ろう。

護ることも水をやることも愛でることも許されないから。
小さくも凛とした強さと美しさに咲く花を。

愛するがゆえ、愛しすぎたゆえに。

誰にも渡しはしない。



僕が、手折ろう。





『 花を手折る 』





流魂街出身でありながら大貴族朽木家の養子になったルキアは皆から敬遠されていた。
皆朽木の名に建前上は丁寧に接し、腹の中では疎み、陰口をたたかれ、決して歩み寄ろうとする者もない。
その上朽木家では兄とも遠く距離をとられており、いつもルキアは孤独だった。

そんなルキアの生活に変化が訪れたのは十三番隊へ入隊した時であった。

十三番隊隊長の浮竹は体が弱く床にふせていることが多いため、
実質隊を取り仕切っていたのが副隊長の志波海燕であり、その人こそがルキアの心の拠り所になったのだ。

ルキアは海燕の前で素直に笑うことが出来るようになっていた。
それは普段のルキアとは別人と思えるほど愛らしい微笑み。

思い出しても、初めて目にした時の衝撃は忘れられない。

自分には決して目も合わせようとはしないのに、あんな顔をして微笑むなどなんて憎らしい。
ギンの胸に闇が溜まり、化け物のようにのたうち蠢く。

ルキアが特定の者に好意を抱くなど、あってはならない。
あいつを排除、せねば。

それもただ殺すだけではまだ足りない。
ルキアの心に深い傷となるような、二度と誰にも心許せなくなるような最も残酷なやり方で。

 

 

藍染の作り出した強い虚を十三番隊の管轄区域に常駐させた。

まずは海燕の妻が出向きやられるだろう。
その仇をとる為海燕が一人で戦いを挑み敗れる。

ここまでは完全に計算通りではあったが、まさか虚が乗り移った海燕をルキアが殺すことになるとは。

思った以上に成果はあったと言える。
太陽を失った花は急速に枯れすぼみ、昔以上に表情が乏しく心が空になっていた。
そんな娘をかどわかすなどひどく容易い。

待ちわびた好機にギンはついに行動へ出た。

 

 

夕刻ルキアは人通りのない川辺にうずくまり、流れる水面をぼんやりと眺めている。
否、その瞳には何も映していないだろう。
ルキアは己の手にかけ死なせてしまった最愛の人を思い出している。
こんなにも夕焼けが美しいのに、ルキアの中にはあの夜の雨が降り続いている。

ギンは音もなくルキアの背後に近づき、声をかけた。
「ルキアちゃん。どないしたんこないな所で。」

ギンの呼びかけにもルキアは動かない。

まだアイツがルキアを支配している。
自分の策の成れの果てであるにも関わらず、その事実がギンの内に棲む魔物を増大させる。

もう一刻の猶予もない。
ギンは抜け殻のようなルキアを無理やり立ち上がらせ、性急にその唇を貪った。
ルキアの唇は柔らかな刺激になり、ギンの劣情を激しく燃やす。

しかしすぐギンは思いもかけぬ反撃にあった。

頬に衝撃を受け、ギンはルキアを拘束していた手を離す。
「なにをする!!」
虚ろだった瞳は強い炎が揺らめき、その声にも強い意志を感じる。

今の今まで死んだような状態だったのに、この力強さはなんだ。

内心驚きながらもギンはかろうじて体裁を整える。
「・・・落ち込んでるようやったから、慰めてあげようか思うただけやん。」
「貴様・・・!」
「ルキアちゃんは口が悪いなぁ。隊長相手に貴様言うたりして。
仮にも朽木のお嬢様なんやから。お兄様が聞いたらなんて言わはるかな。」
「・・・!」
ルキアは言葉もなく変わりに射殺す勢いでギンを睨みつけた。

なんて綺麗な娘なんや。
ギンは心で吐息をこぼす。
怒りに燃えた表情のルキアは強く美しく、なにものより輝く生を感じた。

ルキアは無遠慮に己の唇を手の甲で拭い、背を向け駆け出す。

ギンはその小さな背中を黙って見つめていると、間もなく視界から完全に消え去った。

また、手折り損ねてしまった。


ギンは思う。
そう遠くはない未来。
藍染、東仙と企てた計画によりここから去るとき。

僕が、ルキアちゃんを殺そう。

愛しているから。
共に連れ行くことも堕ちることもできないのだから。
せめて僕の手で。
そうなれば永遠にルキアは自分のものになる。

美しい夕日は沈み、夜の闇が忍び寄る中ギンの双眸は鈍く光る。

ルキアに募る狂気の愛。

その愛は残酷に美しく、思い描いてギンは微笑みを浮かべた。
それは、とても嬉しそうに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いいわけ
 私の考えられる精一杯真っ黒なギンに挑戦してみようと思い、書いてみました。
  ・・・黒いですよね?自信がないけど。これ以上考えられない(泣)
 じつはこれの完全版が『裏めにゅう』R18にあります。興味のある方はそちらへどうぞ・・・                                 2008.5

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